「なにか『いい投信』ないですか?」という問い掛けは、Fund Garageのお客様からだけでなく、筆者がプライベート・バンクの商品・運用提案チームのヘッドをしていた頃から、社内のプライベート・バンカー達からも頻繁に聞かれた質問だ。更に遡れば、ファンドマネージャーとして日々投資判断に明け暮れていた頃でさえ「大島さんご自身のファンド以外で、なにか『いい投信』はありませんか?」とメディアの人に聞かれたものだ。

ただ、実はこの質問、簡単なようで答えるのは難しい。あまりに漠然としているからだ。何故なら「いい投信」の定義は投資家サイド、プライベート・バンカーなどの商品販売サイド、そして話題として取り上げるメディアなど、立場によって全く異なって来る。更にもうひとつは運用会社という視点での「いい投信」という見方もある。同じ金融機関という括りでも、販売会社と運用会社では「いい投信」の定義が全く異なる。

ちなみに、ファンドマネージャーの立場で筆者にとって「いい投信」とはなにかと言えば「何の負債も規制も制限も無く、その時々でベストと思われる運用を24時間、何処でも可能なファンド」がきっと一番「いい投信」という答えになる。逆に言えば、それだけ今の投資信託にはファンドマネージャーが運用の最前線に立って「投資家の為に一番こうあるべきだと考える運用」が出来ない縛りが出来てしまっているということだ。

ただ、大前提として、これは性善説、つまりファンドマネージャーが善良で、常に善管注意義務を怠らないという但し書きが必要なのは言うまでもない。悲しいかな、全員が全員、善良では無いからこそ、こうした縛りも出来てしまった過去がある。だが、このファンドマネージャー目線での理想との乖離こそが「いい投信」を考える上での大きなヒントとなる。

筆者の知見の範囲においてまず言えることは、投資家、販売会社、運用会社そしてファンドマネージャー、それぞれにとっての良いファンドの定義は皆違い、中には完全に相反するものさえもあるということ。その意味においては、既存の投信の多くが、どこか妥協の産物だとも言える。

販売会社にとって「いい投信」とは?

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(画像=Pressmaster / shutterstock, ZUU online)

販売会社は当然ながら慈善事業ではない。だからどこに一番注目しているかと言えば必然的に「当該ファンドの販売で会社が儲かるかどうか」である。何も営業活動をしなくても、お客様が殺到してくれて、ある程度の規模で投信が売れれば、販売会社はホクホク顔になれる。

販売会社の収益源はお客様が投信購入に際して払う「購入時手数料」と、投信をお客様が保有されている期間中、当該ファンドから支払われる「信託報酬」の内訳の「販売会社手数料」である。これらは全て金額に対する料率として規定されているが、この料率決定を運用会社なども交えて議論している生々しい状況を投資家に見せたいと思う金融機関は少ないだろう。少なくとも顧客第一主義を謳って、FD宣言をしている金融機関ならば。

全ての計算式が「残高×料率」で成り立っているので、大きな残高が見込まれ、料率が高いものが「いい投信」であることの絶対条件のひとつとなるのは言うまでもない。更に付け加えるならば「商品説明が簡単で、投資家への受けが良いこと」が大前提だ。いくら料率が高くても、商品説明にやたらと手間暇が掛かるファンドでは「いい投信」とは言えない。よく言うのが「30秒でその魅力を簡潔に訴えられること」というのがある。勿論、営業マンの能力にもよるが、一般論として、それ以上長い説明になるとお客様が最後まで聞いてくれないそうだ。本当ならば投資家にも責任の一端はあるかも知れない。