前日の海外時間では、メルケル独首相が「バックストップの実務的な解決策について考える」との見解を示すと、これまで「合意なき離脱」を織り込む動きが加速していたポンドに買い戻しが入り、1.2060ドル台まで売られていたポンドドルが、1.2170ドル台まで急伸する動きとなりました。ジョンソン英首相とEUとの間で、バックストップに対して大きな隔たりが見られており、このまま「合意なき離脱」へ進んでいくとの懸念が緩和されたことがポンドの買い戻し要因だと考えられます。21日にジョンソン英首相とメルケル独首相が会談予定ということもあり、状況によっては、さらにポンドの買い戻しが進むかもしれませんが、困難と判断されれば、再び1.21ドルを割り込む動きになりそうです。
ユーロについては、サルビーニ副首相率いる極右「同盟」は、連立政権を組んでいる左派「五つ星運動」との意見対立が絶えず、結局、コンテ首相は、これ以上の議会運営は困難との見方を示し、辞意を表明しました。イタリアの政局は流動化を避けられない状況となっており、マッタレッラ大統領は21日あるいは22日までに各政党と連立政権を模索するための協議を行う予定です。連立政権の樹立に失敗すれば、議会を解散し、総選挙の実施となるため、再びユーロ売りが強まりそうです。
本日21日から、ワシントンDCで日米貿易交渉閣僚協議が開催されます。一部報道で模索されている最短ルートとしては、両国政府は9月末までに交渉妥結に至り、9月下旬の日米首脳会談で条文案に署名、10月の臨時国会で承認、というシナリオですが、それほど簡単に事が運ぶことは考えづらく、交渉が難航することが予想されます。難航した際に、トランプ大統領がツイッターにて批判的な内容を投稿する可能性があるため、この点には注意が必要になりそうです。
今後の見通し
本日は、FOMC議事要旨が予定されており、週末のジャクソンホールでのパウエルFRB議長の会見、そして来月のFOMCへのヒントを探る展開になりそうですが、前回のFOMC後の8/1日にトランプ大統領は中国からの輸入品3,000億ドル相当に9/1日から10%の関税を課すと発表し、8/5には米財務省が中国を為替操作国に指定しているため、状況が一変していることを考えると、注目はされつつも、今後の見通しの参考になるかと考えると疑問符が付きます。やはり、23日に予定されているパウエルFRB議長のジャクソンホールでの会見が重要視されるでしょう。今週は、ジャクソンホールまでは、様子見姿勢が強まるものと思われます。
ジョンソン英首相が、EU離脱協定案について再交渉の必要性を改めて強調したものの、「離脱協定案の再交渉が行われ、アイルランド国境問題に関するバックストップが撤廃されない限り、離脱合意が得られる見込みはない」との見解を示しましたが、EUはこれまでと変わらず、協定案の再交渉はないという構えを崩していません。その後、ジョンソン英首相は、アイルランド国境に関するバックストップはハードな形の国境設置を食い止めるために何らかのコミットメントで置き換えることが可能であることを示唆し、初めて譲歩の構えを見せましたが、EUはバックストップを置き換えることには繰り返し反対してきており、今回も同様の対応をとるものと思われます。
ジョンソン英首相は、21日にドイツを訪問し、メルケル首相と会談、22日にはフランスを訪問し、マクロン大統領と会談する予定です。ただ、このまま平行線を辿るようだと、これまで懸念されてきた「合意なき離脱」がより現実味を帯びてくることになり、ポンドはさらに下値を拡大する展開になりそうです。これまでの経緯を踏まえると、「バックストップの実務的な解決策について考える」との見解を示したメルケル独首相との会談が、何より大事になってきそうです。
ユーロは悪材料が多数存在するも、1.10ドル半ばでは反発基調が強い
ユーロドルについては、1.1200ドルで完全にキャップされた形になっており、遂に1.1100ドルの水準も下抜けています。ただ、1.10ドル半ばでは反発基調が強いことを考えると、一旦利食い優先で考え、設定水準を変更します。1.1110ドルでのショートメイク、利食いは1.1060ドル付近に設定変更、損切りは1.1150付近上抜けを想定します。
海外時間からの流れ
トルコリラが、引き続き軟調地合いとなりました。トルコ中銀が「融資の伸び率が10-20%の銀行に対する預金準備率を引き下げる」と発表したことでリラ売りが強まっていましたが、クルド系民族への圧力強化による国内情勢の不安定化懸念が意識されており、リラ安になっています。チャブシオール・トルコ外相が「トルコと米国はシリア内の安全地帯設置について完全合意に至っていない」と発言していることもあり、目先は上値の重さが意識されるのではないでしょうか。
今日の予定
本日は、加・7月消費者物価指数、米・7月中古住宅販売件数、FOMC議事録などの経済指標が予定されています。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。