シンカー:携帯電話通信料やエネルギー、そして長雨の影響などの特殊要因の下落圧力があったものの、人手不足による賃金上昇を含むコスト増と強い内需を背景に、外食、教育、医療福祉、家事・教養娯楽サービスなどで着実に価格の引き上げの動きがみられる。家賃も下げ止まった。全般として、下落がテクニカルなものが多く、上昇が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

7月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.6%と、6月から変化はなかった。

4月の同+0.9%からまだ伸び率は縮小傾向にある。

エネルギーの上昇幅が、昨年の上昇の反動と今年の下落が合わさり、5月の同+3.7%、6月の+1.2%から、7月にはに+0.6へ大きく縮小したことが主要因だ。

政府が推進している家計の携帯電話関連費用の削減の方針を受け、携帯電話の通信料も大きく下落した(5月同?4.3%、6月同?5.8%、7月?5.7%)。

更に、7月は梅雨が長引き、気温もなかなか上がらず、夏のシーズンのスタートが遅れてしまった。

夏物衣料やテーパパーク入場料など、値下げで需要を喚起することを迫られたとみられる。

一方、7月のコアコア(除く生鮮食品・エネルギー)は同+0.6%と、6月の同+0.5%から上昇幅が拡大した。

人手不足による賃金上昇を含むコスト増と持続的に拡大する内需に対応するため、サービス産業では値上げが浸透してきているようだ。

更に、加工食品の値上げの動きも強くなってきている。

7月の外食は同+0.9%、教育は同+0.7%と、医療・福祉は同+1.0、家事関連サービスは同+1.3%、教養娯楽関連サービスは同+0.9%と、人手不足の強い影響がみられる部分でしっかり上昇している。

景気拡大と大胆な金融緩和などにより、地価の上昇が東京から地方都市へも波及してきた。

東京では、これまでなかなか上昇してこなかった家賃で、今後の物価の押し上げにつながってくる動きの兆候がみられるが、全国にも徐々に広がっていく可能性がある。

7月の全国の家賃は同0.0%となり、2008年9月以来、下落が止まっている。

全般として、下落がエネルギーや通信などのテクニカルなものが多く、上昇が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。

テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。

2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。

リスクとして、米中の貿易紛争が為替問題に波及し、つられて円高が進行し、物価の下押し圧力になってしまうことだ。

トランプ大統領の就任直前の2016年末に、ドル・人民元は6.95であった。

足元、この水準を越えて人民元安となっており、トランプ大統領の批判につながっている可能性がある。

一方、2016年末のドル・円は117.0であり、現在の水準は円高になっており、トランプ大統領のドル・円に対する批判を抑制するだろう。

米中の貿易紛争が景気ファンダメンタルズを大きく悪化させ、グローバルなリスクオフの状況とならない限り、一時的な円高はあっても、大きな円高トレンドが生まれてしまうリスクは大きくはないだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司