TOB、敵対的買収、ホワイトナイト……投資経験のない人には何のことやらさっぱり分からないだろう。そんな投資未経験者に「今回の出来事」をラブストーリーに例えて説明すると「パリスにプロポーズされて困っていたジュリエットの前に、白馬に乗ったロミオが登場した」という感じになる。背景には様々な人間模様があるのだが、とにかく「今回の出来事」は一人のヒロインと複数の男性が登場するラブストーリーに例えると理解しやすい。
本題に入ろう。上記のヒロインにあたるのがユニゾホールディングス(以下、ユニゾ) <3258> という会社である。オフィスビル賃貸の不動産事業とホテル事業を展開する東証1部上場企業であるが、この会社の株価が上値波乱となっている。きっかけは7月10日、旅行大手のエイチ・アイ・エス(以下、HIS) <9603> がユニゾに仕掛けたTOBだった。このTOBを引き金にユニゾ株は急上昇、8月にはソフトバンクグループ <9984> 傘下の投資会社がカウンターTOBに動いたことから、わずか2ヵ月足らずで2倍以上となった。ちなみに、TOBは「公開企業買付け」とも呼ばれるが、上記ラブストーリーの「プロポーズ」に置き換えると理解しやすいだろう。
今回はユニゾ株が急上昇した背景「TOBと株価」をテーマにお届けしたい。
「TOB」「敵対的買収」「友好的買収」って何だ?
M&A(合併と買収)は企業がビジネスの拡大およびコストと時間の節約という意味でも、有効な経営戦略と考えられる。TOBはそのM&A戦略の一つだ。大株主になって経営権を取得することを目指し、買付け会社が被買付け会社の株式のTOB期間、買い入れ株数、買い入れ価格等を開示し、「市場外」で株主から募集して買い付ける。
株の取引といえば、証券取引所で売買するのが一般的であるが、前述の通りTOBはM&Aを目的に「市場外」で買い付けを行うものであり、応募者が多ければ一度に大量の株式取得も可能となる。もちろん株式を証券取引所で買い集めてもいいのだが、上場企業の発行済み株式の5%を超える株主は「大量保有報告書」を提出する義務があり、大量の株式を市場で一気に買い進めるのは難しい側面もある。
ちなみに、TOBには買付け会社と被買付け会社の合意のもとに実施する「友好的買収(友好的TOB)」と、合意していない状況で実施する「敵対的買収(敵対的TOB)」がある。「友好的買収」は、すでに大株主の応募方針が根回しにより事前に決まっていることが多く、TOBも問題なく成立するケースが多い。一方、「敵対的買収」は応募株数が予定に届かず、結果としてTOBも不成立となることもある。
また、「敵対的買収」のケースでは新たに「ホワイトナイト(白馬の騎士)」と呼ばれるカウンターTOB(対抗TOB)を仕掛ける企業が登場し、いわゆるTOB合戦となることもある。冒頭のラブストーリーでいえば、ジュリエットを巡るパリスとロミオのせめぎ合いのような構図である。