近年、アジア地域の富裕層の成長が著しい。ボストンコンサルティンググループの「Global Wealth Report 2019」よると、2018年のアジア圏の家計金融資産は37兆2000億ドルと、西欧の44兆ドルを下回ってはいるものの、2023年までの平均成長率は9.4%(金融資産額58兆2000億ドル)と、西欧の平均成長率3.9%(同53兆1000億ドル)を上回ると予想されている。
富裕層(保有金融資産100 万ドル超≒約1 億円超)人口という切り口でも見てみよう。2018年の富裕層人口は世界全体で約2,210 万人、このうち約3分の2がアメリカに集中しているが、2023 年には世界全体の富裕層人口は2,760 万人に拡大すると推計され、今後、富裕層人口の増加率が高いと推定される地域は日本を除くアジア(推定増加率 10.1%)やアフリカ(同9.8%)、中南米(同 9.1%)と言われている。
個人資産規模が世界で最も多い北米では、資産の増加は、資産運用によって実現しているのに対して、アジア地域では、急速な経済成長に伴って、富や貯蓄が増加することで資産規模が増加していくという特徴がある。
本連載では香港で50年ぶりとなる金融機関「Nippon Wealth Limited(NWB)」を創設し、富裕層向けに資産運用をサポートしている筆者が、中華圏富裕層の特徴について紹介していく。初回のテーマは「中華圏富裕層の悩み」である。
中華圏富裕層を悩ませる「事業承継」問題
日本は社歴1000年以上の会社が7社もあり、100年以上の社歴がある会社が2万7000社を超える世界一の長寿企業大国である。一方、人口が13億人もいる中国には100年を超す長寿企業は実に少なく、香港を含めても、社歴世界トップ10に入る長寿企業はないのが実状だ。
そんな中国ではあるが、中華圏の富裕層の間では、現在、事業・資産承継への関心が高まっていると言われている。特に、事業をどう承継するかは、最大の関心事といっても過言ではない。中国の諺(ことわざ)には“富不過三代”、西洋の諺に“Clogs to Clogs in three generations”というものがある。これは、同じことを意味している。初代が築き上げた資産は3代目まででなくなるといわれているのである。
1842年にイギリスに割譲される前の香港は人口5000人余りの漁村に過ぎず、歴史に登場するような政治も経済も文化もなかった。その事実から、100年以上の歴史を持つ企業数が少ないことも、致し方ないだろう。その香港で現在、事業・資産承継が富裕層の課題となっているということは、この180年弱の間に如何に香港が発展してきたかが伺える。