既に、Standing Order No.24(緊急審議)による採決にて、賛成328、反対301になったことから、EU離脱期限を現行の10月31日から来年の1月31日まで延長する法案、そして、その後のジョンソン英首相動議である早期解散総選挙の採決が注目されました。10月31日に合意なき離脱を阻止する労働党ベン議員の法案が、賛成327、反対299で可決されたことから、上院での審議、採決に移行することになりました。また、同採決結果を受け、ジョンソン英首相が解散総選挙の採決を求めましたが、賛成298、反対56(2/3以上の賛成が必要なので、434票に達しないと否決)となり、否決されました。改めて解散総選挙の採決を同首相が求める可能性はあるものの、上院の結果次第では、ジョンソン英首相は、2020年1月31日までの交渉期間延長を、EUに要請する必要が出てきています。
サプライズがなければ、上院でも可決される見通しであるため、その後のエリザベス女王の裁可が必要になります。ただ、今回は議会が9月10日を目途に閉会予定であり、9月9日までに裁可を受けるとの報道が出ています。既に、保守党では1名の造反議員と21名の除名処分が行われているため、ジョンソン英首相にとっては四面楚歌の状況になっており、10月末の「合意なき離脱」を回避できる可能性が高まったため、ポンドはショートカバー優勢の動きになっています。
英国議会以外の材料としては、香港政府が「逃亡犯条例」改正案を撤回すると正式に表明し、リスク回避の巻き戻しのきっかけを作り、イタリアでは、左派「五つ星運動」と中道左派「民主党」などによる連立政権が発足したことが好感されています。去就が注目されたディマイオ氏は外務相に就いたことにより、波乱はないとの見方から、イタリア国債は堅調に推移し、市場は新政権の誕生を歓迎しているようにも見えます。
今後の見通し
英国議会では、今後は上院に離脱延期法案が展開されるわけですが、ほぼ可決されるだろうとの見方から、ポンドの乱高下については一旦収束を迎えそうです。ただ、解散総選挙の採決が否決されたように、同首相の求心力が大幅に低下していることもあり、想定外の手段を打ってくるようであれば、リスク回避の動きが強まる可能性があるため、一応注意しておく必要がありそうです。
香港政府が刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡すことができる逃亡犯条例の撤回を発表し、政治的緊張が和らいだことで、NYダウが一時244ドル高、本日の日経平均やアジア株も総じて堅調に推移することが想定されますが、完全なリスクオンの動きになるにはまだ早急であり、ドル円は、引き続き下値の底堅さを確認しつつも、上値の重さが意識されそうです。
経済指標では、雇用統計の前哨戦である8月ADP民間雇用者数も重要ですが、8月ISM非製造業景況指数が注目されそうです。8月ISM製造業景況指数が49.1と景況感の節目である50.0を割り込んだことでドル売りが強まった経緯があるため、本日の8月ISM非製造業景況指数が50.0を割り込むほど悪化することは想定しにくいですが、市場予想である54.0よりも悪化するようだと、FRBの利下げが意識され、ドル売りの動きが出てきそうです。
難局乗り越え、欧州通貨にトレンド転換の兆しあり
香港、イタリアの政局にプラス材料がでてきたことから、ユーロの買い戻しが強まり、ユーロドルは1.1000ドルのレジスタンスラインを上抜け、1.0965ドルのショートポジションも、損切りにて手仕舞いです。ポンドが「合意なき離脱」を回避できる可能性が高まったこともあり、一旦は上値を拡大しそうなため、ある程度の値幅をもったロング戦略に変更したいと思います。130.20円のポンド円ロング、利食いについては、134.00円付近をターゲットとし、損切りは、129.00円割れに設定したいと思います。
海外時間からの流れ
トルコ・8月消費者物価指数が、市場予想の+15.60%から+15.01%になったことから、インフレ率の制御ができていることが示唆されましたが、ここにきて、「独自動車大手のフォルクスワーゲンがトルコで大規模投資を検討している」との報道もあり、トルコリラ買いが強まっています。昨日も、一時トルコリラ円は18.771円まで続伸していることもあり、19.00円を回復するのも遠くなさそうです。
今日の予定
本日は、独・7月製造業受注、米・8月ADP民間雇用者数、米・新規失業保険申請件数、米・8月マークイットサービス業PMI(確報値)、米・8月ISM非製造業景況指数、米・7月耐久財受注(確報値)、米・7月製造業受注などの経済指標が予定されています。要人発言としては、デギンドス・ECB副総裁、テンレイロ・MPC委員、ボウマン・FRB理事、シェンブリ・加中銀(BOC)副総裁の講演が予定されています。
(提供:FXプライムbyGMO)
FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。