優秀な人材を獲得し最大限に活用することは、企業の人事活動の最大にして究極のテーマです。今回は、GoogleやMicrosoftが実践する人材データ分析・活用技術「ピープルアナリスティクス」を紹介します。大企業だけでなく、ベンチャー企業や中小企業にも浸透しつつある人事領域におけるデータ活用の最前線を見ていきましょう。

「ピープルアナリティクス」とは、人材データを分析して未来の経営に活かすこと

優秀な人材,育てる,ピープルアナリティクス
(写真=PIXTA)

「ピープルアナリティクス」とは、企業の人材や人事に関するビッグデータを分析・解析し、客観的な意思決定によって事業の生産性や競争力を向上させる取り組みを意味します。ビッグデータの活用では、マーケティングや研究開発分野が先行していますが、その人事版だと考えれば分かりやすいでしょう。

ビッグデータを人事領域に活用する動きは、2010年頃から欧米で始まりました。先駆的成功例として取り上げられることの多いGoogleでは、同社人員分析部によって2012年に、生産性向上計画の一環として「プロジェクト・アリストテレス」が始動しました。このプロジェクトの目的は、社内にある数多くのワーキングチームの中で、生産性の高いチームメンバーの行動分析をしてその理由を明らかにすること、その上で、あまり生産性の高くないチームに対して、より生産性が高まる働き方を提案することにありました。

日本の企業でもピープルアナリティクスの取り組みは拡大しています。例えば、日立製作所では新卒採用に際して独自のピープルアナリスティクスの取り組みを導入し、2016年から新卒採用改革を行っています。社内で高い業績をあげている社員たちの特徴分析や過去の採用プロセスの分析によって人材データを数値化・可視化して、各部署が必要とする人材のポートフォリオを作成し、新卒採用の選考基準などを再設定しました。

こうした人事データの分析・解析活用術は、新卒採用や社内人事など、人事に関わるあらゆる場面で活用できます。そのため、企業活動のさまざまな局面で事業の発展に貢献できる人材の獲得や配置、パフォーマンスを最大化できるような職場環境を実現する目的で、日本でも大企業から中小企業・ベンチャー企業に至るまで、多くの企業が続々とこの取り組みを導入しています。

ピープルアナリティクスのメリット

ピープルアナリティクス導入による最大の効果は、あらゆる人事データを定量分析・可視化することで、ターゲットとなる予測モデルを理論的に構築しやすくなることにあります。それによって、最小限のコストで企業の競争力強化につながる施策を的確に打ち出すことができるようになるのです。

データに基づいた採用活動で優秀な人材を確保

例えば、新卒採用においてピープルアナリティクスを導入した場合、採用面接官は人材データの分析結果を共有できるようになります。その結果、「候補者が高業績をあげる社員の要素を持ち合わせているか」「定着率の良い社員の要素があるか」「どの事業に適性があるのか」などの要件について、一貫性をもって客観的に判断できるようになります。会社の発展に貢献できる人材が可視化されることで、これまで新卒採用時に敬遠されがちだった“とがった人材”の中から将来高業績をあげられる要素を備えた人材を見出すこともできます。

退職予測と抑止策で人材流出を防ぐ

ピープルアナリスティクスを活用すれば、社員の離職を未然に防ぐ施策を見つけ出すこともできます。定着率の良い社員やこれまで辞職した社員に関する、業務内容に対する志向性・満足度・上司や同僚との関係性・労働時間などの職場環境や社外的な要因をデータ解析すれば、「1年以内に辞職する可能性がある社員」といったモデルを定量化することができます。このモデルに似た要素を持つ社員に対して、辞職につながる社内外の要素を改善する施策を講じれば、辞職を未然に防げるだけでなく、モチベーションアップにつなげていくことも可能です。これは、社内で育成した社員の流出を防ぎ、離職者に代わる人材の採用コスト削減にも貢献するため、企業にとって大きな経済的損失を回避できる効果があります。

人材分析データとITの融合が企業の未来を救う

従来、人事上の問題解決や重要な意思決定は、人事担当者の経験則や肌感覚などを基に議論を重ねる方法が主流でした。しかし、事業のグローバル化や女性活躍推進、人材の流動化など、社員の働き方や価値観が多様化しているため、担当者ベースの勘に頼った意思決定では的確な判断が下せないリスクがあります。このような状況を克服する対策の一つとして、人材のビッグデータを企業の成長戦略に結び付けるピープルアナリスティクスという取り組みがあります。

現在、日本でもピープルアナリティクス導入を支援するコンサルティング会社や、ウェブサービスツールなどがあります。採用や人材育成に悩んでいる中小企業経営者は、こういった手法を試してみるのも手かもしれません。(提供:企業オーナーonline

【オススメ記事 企業オーナーonline】
事業承継時の「自社株評価」どのような算定方法があるのか?
不動産を活用し、事業承継をスムーズに進める方法とは?
法人税の節税対策をご存知ですか?
職場の「メンタルヘルス対策に関わる課題・悩みあり」が6割以上
経営者必見!「逓増定期保険」で節税する時のメリット・デメリット