シンカー:2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。グローバルに景気・マーケット動向の不透明感が強かった2019年前半の潜在成長率を大幅に上回る実質GDP成長率は、ほとんどが内需の拡大の寄与であった。内需の強さが物価を支え始めていることが確認できる。そして、内需が強く、外需に依存しない経済の為替には下落圧力がかかる。内需の強さが、FEDやECBが金融緩和に向かうなかで、円相場が強くなることを妨げている可能性もある。内需の強さを背景に為替が円高に振れない安心感が生まれれば、インフレ期待が景気動向の強さに応じる形で上昇することができるようになり、実質金利の低下が更に景気動向を強くし、2%の物価目標に向けたモメンタムに勢いが生まれていくことになろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

8月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.5%と、7月の同+0.6%から上昇幅が縮小した。

4月の同+0.9%から伸び率は縮小している。

エネルギーの上昇幅が、昨年の上昇の反動と今年の下落が合わさり、4月の同+X%から、8月には同?0.3%とマイナスに転じたのが主要因だ。

一方、8月のコアコア(除く生鮮食品・エネルギー)は同+0.6%と、7月から変化はなかった。

4月の同+0.6%から伸び率は縮小していない。

人手不足による賃金上昇を含むコスト増と持続的に拡大する内需に対応するため、サービス・教育産業では値上げが浸透してきているようだ。

更に、加工食品の値上げの動きも強くなってきている。

10月の消費税率引き上げに向けて、ある程度の駆け込み需要があるのか、家庭用耐久財と衣料の上昇幅も拡大してきている。

全般として、下落がエネルギーや通信などのテクニカルなものが多く、上昇が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。

テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。

消費税率引き上げ分を値下げでオフセットする動きも、テクニカルのものの一つだ。

2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、1%を上回る水準に上昇率が加速する可能性は十分にあると考える。

グローバルに景気・マーケット動向の不透明感が強かった2019年前半の潜在成長率(+1%程度)を上回る実質GDP成長率(年率+1.8%)は、ほとんどが内需の拡大の寄与(年率+1.5%)であった。

内需の強さが物価を支え始めていることが確認できる。

そして、内需が強く、外需に依存しない経済の為替には下落圧力がかかる。

内需の強さが、FEDやECBが金融緩和に向かうなかで、円相場が強くなることを妨げている可能性もある。

内需の強さを背景に為替が円高に振れない安心感が生まれれば、インフレ期待が景気動向の強さに応じる形で上昇することができるようになり、実質金利の低下が更に景気動向を強くし、2%の物価目標に向けたモメンタムに勢いが生まれていくことになろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司