働き方の多様化やネットの発展を足がかりとして、独立してフリーランスへ転身する人が増えつつある。
ところが、いざフリーランスになってみると、仕事がとれない、単価が低くて生活ができない、仕事を受けすぎて忙殺される……と、問題が次々に降りかかってくるのもまた現実だ。
『フリーランスのための一生仕事に困らない本』の著者である税理士、井ノ上陽一さんは、スタッフを雇わずに1人で仕事を請け負うフリーランサーとして仕事をしている。しかもなんと、税理士業は1日約4時間で終わらせ、それ以外の時間は勉強や執筆などに充て、18時以降は仕事をしないスタイルを確立しているのだという。
井ノ上さんはどのように自身の仕事をコントロールし、短時間で成果を上げているのだろうか。過去の仕事をふり返りつつ「ひとり仕事」の具体的な方法や時短術、フリーランスが陥りがちな悩みに答えてもらった。(取材、文・藤堂真衣)
総務省統計局での経験から独立志向に
──井ノ上さんがフリーランスになったきっかけを教えていただけますか?大学を出てから総務省へ。単純に考えれば、順風満帆なキャリアだったのではと思うのですが。
そうですね。私が配属されていた総務省統計局では、数字の分析手法やITスキルを学ぶことができ、これは大きな資産になったと思います。
ですが、どうしても「残業が当たり前」で「非常に保守的」、「がんばらなくても給料が上がる」という仕組みに迎合できませんでした。「このまま死ぬまで組織で働くのか?」と自身のキャリアを考えたとき、独立という選択肢が浮かびました。
──そして税理士の道へ進むわけですね。税理士という仕事を選んだのには何か理由があったのでしょうか?
独立の可能性が高いことと、総務省で身に付いた数字とITスキルで社会に貢献したいと考えたのが大きな理由です。
税理士試験に挑戦、合格してからは税理士事務所やIT企業を経験し、2007年8月に独立・税理士として開業しました。
念願かなって独立するも、仕事のとり方に葛藤する日々
──それからはずっとおひとりで仕事を?
一時期、オフィスでスタッフさんを1人雇っていました。ただこれもずっと疑問を抱えながらで……。
1人雇うだけといっても、そのためにはその人に仕事を教える時間も必要ですし、仕事をしてもらうためのオフィスも構えなければなりません。それから、スタッフの生活を保障するためにも仕事をとってくる必要が出てきます。
きちんとお給料を支払うためには、スタッフが担当する仕事を用意する必要がありますよね。ただそれが本当に正しいやり方なのか?という疑問を抱えていたんです。
仕事が欲しいからといって、どんな仕事でも……例えば極端に報酬が安い案件を受けたり、苦手なクライアントと消耗しながらコミュニケーションをとったりすることが本当に正しいのか、自分がやりたかった「独立」なのかと悩みました。
──税理士はお仕事もたくさんあって、収入は高いというイメージがあります。