フリーランスや個人事業主として仕事をしていくことを考えると、さまざまな不安がよぎることもある。急病で仕事ができなくなったら、仕事の依頼が途絶えたら……。こうした不安から、独立をためらってしまう人も少なくないかもしれない。
組織に属さずに「ひとり仕事」を実践する税理士の井ノ上陽一さんにインタビューを行う本特集。取材時、まさにけがをして入院中だった井ノ上さんに、仕事はどうしているのかを含め、フリーランスが抱える不安について聞いた。(取材、文・藤堂真衣)
仕事はネットを駆使して継続できる
──今、井ノ上さんは足のけがで入院されていますよね(※取材は8月初旬。現在は退院されています)。お仕事はどのようにされているのですか?
割と普通に仕事できている、というのが正直な感想ですね。もちろんセミナーなど、どこかに出向いての仕事はキャンセルしなければなりませんでしたが、対面のコンサルティングは病院のラウンジスペースを使って受けることもできます。
──けがで動けなくなったり入院せざるを得なかったりという状況になる不安は、フリーランスなら誰もが感じるところだと思いますが、意外と普通にお仕事ができているんですね。
インターネットが使える環境であれば、私の場合はそれほど普段と変わらないレベルで業務ができます。コンサルティングもできるし、ノートPCがあれば執筆もできます。
これがもし、顧問先がたくさんある事務所ならもっと大変だっただろうなとは思います。領収書を郵送してもらって、入力して……というようなスタイルで仕事をしていたら、完全に仕事はストップしてしまっていましたね。
その点、私の仕事は基本的にインターネットしか使わないので、お客さまとのやりとりもメールだけで完結できますし、顧問先もそれほど多くありませんから、対応に追われることもなく、乗り越えることができました。
──入院してからの売り上げはどうですか?
やはりセミナーが開催できないので、「税理士・執筆・セミナー」の三本柱のうちの一つがない状態ですから、下がってはいます。
それでもゼロにはならない。仕事を複数作っておくのはリスク分散にもなりますね。
嫌な仕事は断る。でもコスト意識は大切に
──そのほかに、1人で仕事をするようになって困ったことはありましたか?
「嫌な仕事が来ても、仕事を振り分ける相手がいない」ことでしょうか(笑)。
断りたいな、と思ってもその判断をしてくれる上司がいません。上司がいれば「こんな仕事が来ていますが、どうすればいいですか?」と指示をあおげば「断っていいよ」と言ってもらえることもありますが、私にはそれがない。
来た依頼を受けるのもお断りするのも、すべて自分の判断です。最初は迷うこともありましたが、嫌な仕事は受けないと決めてからは自分の判断を信じるようにしています。
今は「自分が決めればいいんだ」と気持ちが楽になりましたよ。
──特に駆け出しのフリーランスは、断ったら次はないかもしれないという不安から、無理をしていろいろな仕事を受けてしまいがちかもしれませんね。気持ちが楽になったのは、慣れたからですか?
慣れもありますし、もう一つ私にとって大きい要因は「発信しているから」だと思います。