売上・利益計画:2019年度収益計画は下方修正
19年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比0.7%増(前回は1.1%増)、経常利益は6.7%減(前回は4.3%減)となった。引き続き増収減益計画ながら、前回から売上・利益ともに下方修正されている。
経常利益計画は6月調査に続いての下方修正となったが、例年、利益計画は6月から9月調査にかけて上方修正される傾向が強いため、2016年度以来のまれな動きと言える(図表8)。2016年度の例のように、9月に下方修正されたからといって、最終的に減益になるとは限らないものの、企業の利益に対する見方は見た目の修正状況以上に慎重になっていると言える。
なお、19年度想定為替レート(大企業製造業)は108.68 円(上期108.86円、下期108.50円)と、6月調査の109.35円からやや円高方向に修正された。夏場の大幅な円高進行を受けた対応と考えられ、利益計画における下方修正の一因にもなっている。
今後も米中摩擦など海外情勢次第で円高が進む可能性があるものの、企業は為替レートの安定的な推移を見込んでいる。
設備投資・雇用:人手不足感は変わらず、設備投資計画は慎重化
生産・営業用設備判断D.I.(「過剰」-「不足」)は全規模全産業で前回から横ばいの▲3となった。生産の回復が送れていることから、昨年と比べて不足感はやや緩和した状況にある。
また、雇用人員判断D.I.(「過剰」-「不足」)も前回から横ばいの▲32となり、企業の人手不足感に変化は見られなかった。
なお、新卒が年度始に配属される一方で退職が断続的に発生する影響とみられるが、例年6月調査から9月調査にかけては、人手不足感が強まる傾向が強い。今回、人手不足感が高まらなかったのは、生産の弱含みなどが人手不足緩和に作用しているためと考えられる。
上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均D.I.」(設備・雇用の各D.I. を加重平均して算出)も前回から横ばいの▲21.2ポイントとなったが、人手不足を主因として大幅なマイナス(不足超過)が続いている。
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断D.I.で1ポイントの低下、雇用判断D.I.で3ポイントの低下が見込まれている。企業の設備・人手不足感はやや強まるとの見通しが示されているため、「短観加重平均D.I.」も▲23.5ポイントへと低下する見込み(図表9,10)。
2019年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比2.4%増と前回6月調査時点の同2.3%増からわずかに上方修正された。例年9月調査では、中小企業で計画が具体化してくることによって上方修正されるクセが強い。従って、上方修正自体を前向きに評価することはできず、近年の同時期の調査と比較した場合のモメンタム(上方修正の勢い)が重要になってくる。
そうした視点で見ると、今回の上方修正幅(0.1%ポイント)は、例年同時期の平均的な上昇幅(直近5年平均で1.8%ポイント)に比べてかなり小幅に留まっている。内訳を見ると、製造業、非製造業ともに例年の修正幅を下回っている。
人手不足に伴う省力化投資や都市再開発関連投資などが下支えになっているものの、製造業では、海外経済減速に伴う収益悪化や米中摩擦等の先行き不透明感、非製造業では消費増税後の国内景気への警戒感から、一部で設備投資を見合わせたり、先送りしたりする動きが生じているとみられる。設備投資計画には企業の慎重スタンスが現れており、今後の内外下振れリスクの動向次第では、さらに下方修正されるリスクもある。
なお、19年度設備投資計画(全規模全産業で前年比2.4%増)は市場予想(QUICK 集計3.0%増、当社予想は2.9%増)を下回る結果であった。また、内訳として注目度の高い大企業全産業(6.6%増)を見ても、市場予想(QUICK 集計6.9%増、当社予想は7.0%増)を下回る結果であった。
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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト
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