(本記事は、平賀 充記氏の著書『なぜ最近の若者は突然辞めるのか』=アスコム出版、2019年6月3日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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1stSTEP関わる・近づくコミュニケーション

なぜ最近の若者は突然辞めるのか,平賀充記
(画像=fizkes/Shutterstock.com)

まずは若者にちょっと近づくための、日々のベーシックなコミュニケーションです。ポイントは、コミュニケーションの「質より量」を意識すること。

最近の若者は雑談が苦手だとか、興味のない話をしたがらないなどといわれます。みなさんの職場にも、黙々とデスクに向かっていて「話しかけないでオーラ」が出まくっている若者がいるかもしれません。

でも、だからといってオトナが距離をとってしまうと、結局、若者が理解できずに気をつかう毎日が続いてしまいます。それに、若者は人と関わることが嫌いなわけではありません。面倒なタテの人間関係が苦手なだけで、「居心地のいいフラットな人間関係」自体は強く求めています。

先日、とあるバーで一緒になった若者(男性・26歳)は、大学院卒の新卒1年目。実は先輩や上司からの飲みの誘いを待っているのだと話してくれました。彼なりに職場に溶け込みたい、また仕事について職場では聞きにくいことを教えてもらいたい、と極めて真面目です。しかし彼の職場では「アルハラ(アルコールハラスメント)」を気にする空気が蔓延しているらしく「まったく誘ってもらえないんです」と嘆いていました。こんな若者もいるんですよね。やはり、ここはオトナから積極的に関わっていくことが必要なようです。

働く人のメンタリティは、「マズローの欲求5段階説」を使ってよく説明されます。

ご存知の通り、「マズローの欲求5段階説」は①生理欲求、②安全欲求、③社会欲求、④承認欲求、⑤自己実現欲求の順に、段々と欲が満たされることで高次の欲求が湧いてくるという説です。

しかし現代の日本の若者には、この5段階が当てはまりません。生まれたときからモノがあふれ、日本という安全な国で育っているので、①生理欲求、②安全欲求は基本的に満たされています。スタートラインが第3段階なのです。

つまり③社会欲求=どこかに所属していたい欲求と、④承認欲求=価値を認められたい欲求が、異常に肥大しているのです。これがSNS村社会と強くリンクする部分です。たくさんの人とつながることができて、「いいね!」がもらえるSNSは、社会欲求と承認欲求を満たす格好のツールでした。だからこそ爆発的に普及したといえますが、その一方で、より一層、若者の社会欲求や承認欲求を増幅させていったのです。

そして、これは最低限の生活をする場所がほしいという物理的な欲求ではなく、「人間関係の中に確かに自分がいる」こと、そして「自分の価値や必要性が認められている」ことを望んでいる精神的な欲求です。ですから、単に雇用関係が結ばれているという安心感だけではダメで、「みんなが自分の存在を認めて必要としてくれている」と感じられなければならないのです。

今、職場のマネジメント層に求められているのは、若者の「居場所を作り出すこと」と言っても過言ではありません。なんて面倒な……と思うかもしれませんが、実は今までやってこなかっただけで、簡単な声かけひとつでも彼らに居場所を感じてもらうことはできます。毎日できること で、ちょっと近づくことから始めてみてはどうでしょうか。

「呼び方」を意識するだけで、距離感がフィットしていく

職場での呼び方は、かなり重要なコミュニケーションツールです。

まずは、肩書きや役職の問題。何度も述べてきたように、ヨコ社会に馴染む若者にとって、肩書きや役職は「職務の違い」を示すものでしかありません。どちらかというと、人間性でオトナを判断しています。なのに、わざわざ「課長とヒラ」のような上下関係を意識させると、距離が遠のいてしまうのです。若者とヨコ社会的な関係を築くのであれば、「店長」「課長」などの役職で呼ぶ文化はなくしたほうがいいでしょう。 

また許されるのであれば、あだ名で呼び合うようにするのも効果的。SNSの中でいくつものハンドルネームを使い、キャラを確立している若者からすると、どんなふうに呼ばれるかは、個性や自意識と直結しているのです。

そして、名前を呼ぶことは、実は承認欲求を満たすことにつながります。どんなに騒々しい場所でも自分の名前などだけは聞き取れることを「カクテルパーティ効果」というらしいですが、それくらい名前を呼ばれることって、実は特別で嬉しいことなんです。

私がよくやるのは、会議などであえて名前を呼んであげること。「今、○○さんが言ってくれたみたいに……」などと、わざわざ言うんです。これは、私自身が上司にされて嬉しかった実体験をもとにしています。ささいなことのように思えるかもしれませんが、こうやって相手の存在をしっかりと認めることは、案外、大事です。

「おはよう」じゃなく「○○さん、おはよう」。「あのさ」じゃなく「○○さんさ」。普段の会話をちょっと変えるだけで、若者には「居場所感」が生まれます。

「フォロワー感」を小出しにすると若者は安心

若者は、例えばインスタグラムでフォロワーが自分に何も反応しなくなると不安でたまりません。それと同じで、職場でも「見てもらえている」かどうかを、かなりセンシティブに捉えています。

アルバイトの定着率が極めて高い居酒屋チェーンで店長を務める女性(27歳)は、「コミュニケーションは数」だと言っていました。彼女もまだ20代の若者なのですが、飲食店の接客コンテンスト「S1サーバーグランプリ」での優勝経験もあるカリスマ店長。従業員満足を顧客満足につなげる若者マネジメントの上級者です。

飲食店のアルバイトは、全産業の中でも特に人手不足が著しく、定着させるのも簡単ではありません。そんな中で彼女が若者の心を掴んでいるのは、マメなコミュニケーションで相手の存在を認め、「自分に居場所がある」と思わせているからではないでしょうか。

また、正社員の20代部下を抱える大手企業の営業リーダー(男性・35歳)も、かなり細かく部下をウォッチしていると言います。彼は女性部下の「アイラインの入れ方の変化までわかる」と豪語していました。

おっさんが若い部下に「化粧変えたね」なんて言ったら「キモっ! セクハラ」とか思われちゃうのでは……と不安になりますが、そこまで踏み込む必要はありません。大事なのは「部下みんなを気にかけているよ」と伝わることです。

「髪、切った?」「服、なんかいつもと違うね」「いいね」と誰にでもさらっと触れれば十分。変に感情がこもってないほうがいいくらいです。そうです。「タモさん」のようになればいいのです。

「特に休み明けは一声かけるチャンス」というアドバイスも、添えておきましょう。

返答に困っても、とりあえず「一言即レス」

若者からの報告や相談がメールであったとき、「ちゃんと答えないとマズいから、後にしよう」なんて1日寝かせたりした経験はないでしょうか。プレイングマネージャーだったりすると、自分の仕事も忙しいので、なかなかすぐには返答できない場面もありますよね。そんなときは、素早くベストな回答をしようとせず、一言だけでも即レスしておけばOKです。

第3章で見たように、若者はノーレス状態に「あれ?」と思ってしまいます。「何か変なこと送っちゃったかな」「もしかして自分は軽く見られているんじゃないか」などと勝手に不安になったりします。ツイッターやインスタグラムで「リプライ」を送るのは、そういう気持ちの裏返しです。

そして、なんといっても大きな影響を与えているのがラインです。既読スルーが許されないのは「SNS村社会」の典型的なマナーのひとつです。ですから、彼らはとりあえずであろうがレスを怠りません。スタンプひとつでも必ずリプライします。

そのくらい、とりあえず一言返すことは、実はかなり重要なのです。

「ありがとう」とか「後で返すね」と送るだけで、相手には「ちゃんと見てるよ」というメッセージは伝わります。少なくとも、オトナ側の事情で寝かせたりするより、よっぽどマシに見えるはずです。

繰り返しますが、職場においても「既読スルー」は許されません。

なぜ最近の若者は突然辞めるのか,平賀充記
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平賀充記
ツナグ働き方研究所所長。株式会社ツナググループ・ホールディングスエグゼクティブ・フェロー。1963年長崎県生まれ。同志社大学卒業。1988年、株式会社リクルートフロムエー(現リクルートジョブズ)に入社。人事部門で新卒採用を担当後、リクルートの主要求人媒体の全国統括編集長を務め、2009年にダイバーシティ転職サイト「はたらいく」を立上げ。2012年、リクルート分社化で株式会社リクルートジョブズ、メディアプロデュース統括部門担当執行役員に就任。2014年に同社を退職、株式会社ツナグ・ソリューションズ取締役に就任。

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