プロジェクトリーダーの名前ひとつで、「きっと成果が上がる」と確信を抱いた経験はないだろうか。顧客に信頼されることはもちろん、社内でも信頼を勝ち得ることが真のリーダーに近づく第一歩だ。

では、「あの人ならきっとやり遂げるだろう」という信頼はどこから来るのか。リーダーとして必要な素質とは何なのか。それは、人を動かせるかどうかだ。今回は、有名な心理学者・ユングの「タイプ論」をもとに、人を動かす術を解説する。

営業ケーススタディ(13)――及川の転機

営業心理学#13
(画像=autumnn/shutterstock.com,ZUU online)

「及川先輩の若手の頃って、想像つかないですよね」

人材コンサルタント会社でエースコンサルタントとして働く及川圭佑(37)は、廊下から聞こえてきた新入社員の後輩・新垣理子(22)の言葉にふと、昔の自分を思い出した。

「きっと新入社員の頃からデキるコンサルタントだったんだろうなぁ」

入社3年目の後輩・若林心一(25)が新垣にそう返し、2人は真面目にうなずき合っている。及川は思わず噴き出してしまい、声を掛けることにした。

「買いかぶりすぎだって。20代の頃の俺はぱっとしない奴だったよ」

及川の存在に気づいた2人は、はっとした表情でこちらを振り返った。

自分は遅咲きなタイプだった、と及川は思う。人の成長曲線はさまざまだという。若林や新垣は、これからどんなふうにキャリアを積んでいくのだろう。

「そうだ、俺の転機となったユングの『タイプ論』について、2人にも話しておこうかな」

ふと思い立ってそう言うと、2人が身を乗り出してきた。

「今から6年前のことなんだが……」

それは、若林や新垣が入社するよりずっと前、及川が31歳になった頃の出来事だ。

要点をまとめた資料を提出しても「ピンとこない」

及川は企業規模ごとの顧客の採用状況をデータベース化するプロジェクトを担っていた。実質的には及川がリーダーとして動いているが、プロジェクトの責任者は上司である部長が担っていた。

多忙な部長はプロジェクト会議にはめったに顔を出さない。その分、議論の進捗状況は議事録で部長に共有する必要がある。今回、部長の承認を得るために改めて調査結果を報告書にまとめ、要点をまとめた資料を作り直した。

それなのに、最終案を示したところ、部長は一言であっさり却下した。

「これで本当に成果が上がるか、俺にはピンとこない」

資料に目を通した部長が放った一言に、及川はいら立ちを隠せなかった。

「もう少し具体的にご指示いただけないでしょうか?」

及川はできるだけ平たんなトーンで尋ねたつもりだったが、部長が不機嫌になったのが感じられる。まったく、不機嫌になりたいのはこっちのほうだ。実際動いているのは自分なのに……。

「俺が言ってるのは、もっとイメージの湧く報告書にしろってことだよ」

結局議論は平行線のまま、及川はもう一度案を練り直すことになった。

どうしたら部長に承認してもらえる?

どっと疲れが襲ってくる。部長が席を外したタイミングで、隣の席の先輩が声を掛けてくる。

「お前は悪くないと思うけどさ、もうちょっと言い方があるだろ。承認のハンコだけもらいに来たみたいな態度だって、この間部長がぼやいてたぞ」

それを聞き、及川は頭に血が上るのを感じた。社内での表彰など華々しい実績こそないが、コンサルタントとしてそれなりの経験を積んでいる。顧客との信頼関係は抜群で、クレームをもらったことは今まで一度もない。

自分一人で完結する仕事であれば、大抵のことは顧客の期待以上の成果を挙げられる自信もある。しかし、社内でプロジェクトを推進するとなると、なぜうまくいかないのだろう……。

「めんどうだな……」

帰り道、思わず本音がこぼれた。自分はスペシャリストとして、1人で仕事をするほうが向いているのではないだろうか。人を動かすような仕事は自分には向いていないのではないだろうか。

一体どんな報告をすれば、部長の承認がおりるというのか。及川は暗い夜道で肩を落とした。

ユングの「タイプ論」に見る、人間のタイプ

帰宅した及川は、机の上に放置されたままの本にふと目を留めた。担当する顧客が「ぜひ読んでほしい」と贈ってくれた本だ。感想を伝えるため次回訪問までに目を通しておこうと思っていたが、つい放置してしまっていた。

気分を変えたかった及川は本を手に取った。本に記された「ユング」という名前は聞いたことがある。有名な心理学者だ。これからの人生、知っておいて損はないだろう。そんな軽い気持ちでページをめくり始めた。

ユングいわく、人間には「情報を得る機能」と「決断する機能」があり、それぞれ2つのタイプがあるらしい。「情報を得る機能」は感覚タイプと直観タイプに分かれ、「決断する機能」は感情タイプと思考タイプに分かれる。

及川は読み進めるうちに、自分は情報を得るときは「直観タイプ」で、決断するときは「思考タイプ」なのではないか、と感じ始めた。そしてふと、部長と自分とはタイプが違うのではないかと思い至った。

及川は明日の部長への報告の仕方について、思いを巡らせる。

あなたならどうする?

(1)要点をまとめて進捗を報告し、プロジェクトの成功によって得られる成果を説明する。

(2)時系列で進捗を報告し、プロジェクトの成功のためにぜひ協力してほしいと伝える。

突破口は相手のタイプを見極めて歩み寄ること