シンカー:日銀の国債買い切りオペについて、マーケットには誤解があるようだ。日銀の保有国債の償還額を国債買い切りオペ額を下回った場合、マネタリーベースが減少するという誤解だ。これは、日銀の国債保有残高の変化とマネタリーベースの変化が同じであるという間違いからくるものだ。その他の条件を一定にすれば、日銀の保有国債の償還額を国債買い切りオペ額を下回っても、国債買いオペを止めて、売りオペを始め、資金を吸収しない限り、マネタリーベースは減少しない。マネタリーベースの増加額が縮小するだけである。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

日銀の国債買い切りオペについて、マーケットには誤解があるようだ。

日銀の保有国債の償還額を国債買い切りオペ額が下回った場合、マネタリーベースが減少するという誤解だ。

これは、日銀の国債保有残高の変化とマネタリーベースの変化が同じであるという間違いからくるものだ。

日銀の保有国債が償還されると、日銀の保有国債が減少するとともに、日銀にある政府預金が減少する。

政府預金はマネタリーベースに含まれないため、マネタリーベースに変化はない。

政府預金の減少を防ぐため、政府が国庫短期証券は発行し、日銀が買い切った場合(国債買いオぺには含まれない)には、政府預金も変化しない。

(この国庫短期証券を日銀ではなく民間が買い切った場合、日銀当座預金残高は減少し、マネタリーベースは減少するが、通常は日銀が手当てする。)

国債買い切りオペの額が減少しても、日銀は国債買い切りオペ分の資金を供給し続ける状態は変わらないため、民間の日銀当座預金残高は増加し続ける。

その他の条件を一定にすれば、国債買い切りオペの額が減少しても、マネタリーベースの増加額が縮小するだけである。

国債買い切りオペを止めても、マネタリーベースの伸びがなくなるだけで、マネタリーベースが減少することはない。

もちろん、民間の資金需給などの影響で、テクニカルにマネタリーベースが短期的に減少することはあるが、年などのトレンドでみれば減少することはない。

実際に、国債買いオペは2016年の年80兆円程度のペースから、現在の15兆円程度のペースに減少しているが、この間にマネタリーベースは130 兆円程度も増加している。

一方、マネタリーベースの増加額は80兆円程度から14兆円程度へ縮小している。

更に、マネタリーベースには、日銀当座預金に加え、銀行券発行残高と貨幣流通高を含む。

銀行券発行残高と貨幣流通高は年率2%程度(2.5兆円程度)増加しているため、マネタリーベースは増加を続けることができる。

ETF買い入れ分の6兆円程度など、他の資産の買い入れもバッファーとなる。

日銀が国債買いオペを止めて、十分な売りオペを始め、資金を吸収しない限り、マネタリーベースは減少しないことになる。

日銀は、マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する」というオーバーシュート型のコミットメントをしている。

これは言い方を変えれば、国債買い切りオペを継続してマネタリーベースの拡大を続けるということで、保有国債を増加させ続けるというコミットメントではない。

日銀の保有国債の償還額と国債買い切りオペ額を比較し、日銀の保有国債残高を見ることは、新しいイールドカーブコントロールの下(保有国債の増加額にコミットメントしていない)では、金融政策にとって大きな意味はないことになる。

図)日銀バランスシートの動き

日銀バランスシートの動き
(画像=SG)

図)日銀の国債買い切りオペ額とマネタリーベースの増加額

日銀の国債買い切りオペ額とマネタリーベースの増加額
(画像=日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司