シンカー:超長期金利の上昇を促す日銀の国債買い切りオペの減額には限界があるという見方がマーケットでは多い。増加している日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が下回ってしまい、保有国債残高が減少してしまった場合、マネタリーベースが減少し、日銀のコミットメントに反してしまうと考えるからだろう。これは、日銀の国債保有残高の変化とマネタリーベースの変化が同じであるという間違いからくるものだ。日銀の保有国債が償還されると、日銀の保有国債が減少するとともに、日銀にある政府預金が減少する。政府預金はマネタリーベースに含まれないため、マネタリーベースに変化はない。政府預金の減少を防ぐため、政府が国庫短期証券を発行し、日銀がマーケットからすぐに買い切った場合には、政府預金も変化しない。このスキームを大幅に継続利用し、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を十分に抑制すれば、日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が大きく下回っても、マネタリーベースが減少することはない。更に、償還分の短期国債引き受け、銀行券発行残高の増加、他の資産買い入れ、貸出支援基金などによるバッファーもある。一方、日銀が保有する長期国債と短期国債・国庫短期証券の割合が、前者から後者へ重心が移ることになる。日銀が保有する国債のデュレーションが短期化することは、国債買い切りオペの減額とともに、イールドカーブをスティープ化させる力となる。日銀が保有する国債(国庫短期証券などを除く)の残高が減少しても、マネタリーベースは増加を続けることができる。マーケットが考えるより、マネタリーベース拡大のコミットメントを維持しながらでも、日銀の国債買い切りオペの減額余地は小さくなく、イールドカーブをスティープ化させることはできるとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

黒田日銀総裁が明らかにしているように、日銀は超長期金利の上昇を望んでいるようだ。

9月25日の総裁記者会見で、「金融緩和効果という意味では、短中期の金利が非常に重要であり、他方で、超長期の金利が下がり過ぎると、金融緩和効果よりもむしろ、年金とか生保の運用の低下を通じて、消費者マインドが冷えてしまうと、却ってマイナスになってしまう」と指摘している。

ただ、超長期金利の上昇を促す日銀の国債買い切りオペの減額には限界があるという見方がマーケットでは多い。

増加している日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が下回ってしまい、保有国債残高が減少してしまった場合、マネタリーベースが減少し、日銀のコミットメントに反してしまうと考えるからだろう。

これは、日銀の国債保有残高の変化とマネタリーベースの変化が同じであるという間違いからくるものだ。

それでもイールドカーブをスティープ化(長短金利差の拡大)させたいのであれば、短期の政策金利のマイナスを深堀りするしかないという意見もある。

本当に、日銀の国債買い切りオペの減額の余地は小さいのだろうか?

日銀の保有国債が償還されると、日銀の保有国債残高が減少するとともに、日銀にある政府預金が減少する。

政府預金はマネタリーベースに含まれないため、マネタリーベースに変化はない。

政府預金の減少を防ぐため、政府が国庫短期証券を発行し、日銀がマーケットからすぐに買い切った場合には、政府預金も変化しない。

更に、日銀の保有国債が償還される時、1年物割引短期国債を引き受けて、借り換えに応じることは認められている。

その限度額は政府の決定による。

その短期国債が償還される時、現金償還を受けるか再び短期国債を引き受けるかを日銀が判断することになっている。

現在は、原則として現金償還を受けているが、政府・日銀の共同目標としての2%の物価上昇率を目指し、現行の金融政策のフレームワークを持続的にするため、政府は限度額を大幅に引き上げ、短期国債の引き受けによるロールオーバーの継続に同意することもあるだろう。

これらのスキームを大幅に継続利用し、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を十分に抑制すれば、日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が大きく下回っても、マネタリーベースが減少することはない。

日銀が保有する長期国債と短期国債・政府短期証券の割合が、前者から後者へ重心が移ることになる。

日銀が保有する国債のデュレーションが短期化することは、国債買い切りオペの減額とともに、イールドカーブをスティープ化させる力となる。

日銀が保有する国債(国庫短期証券などを除く)の残高が減少しても、マネタリーベースは増加を続けることができる。

確かに、短期国債・政府短期証券の保有額が大きく増加すると、マイナス金利であるため、日銀の損失は膨らむ。

しかし、長期国債であってもマイナス金利であるため、限界的な日銀の損失の増加は大きくないとみられる。

マイナス金利政策を深堀りしてしまうと、限界的な日銀の損失は大きくなり、マネタリーベースを増加させながら、イールドカーブをスティープ化させるこれらのスキームの負担が大きくなってしまう。

マイナス金利政策を深堀りすれば、イールドカーブはスティープ化するかもしれないが、超長期金利の水準は低下してしまうだろう。

更に、マネタリーベースには、日銀当座預金に加え、銀行券発行残高と貨幣流通高を含む。

銀行券発行残高と貨幣流通高は年率2%程度(2.5兆円程度)増加している。

ETF買い入れ分の6兆円程度、貸出支援基金の増加分の2兆円程度などもバッファーとなる。

マーケットが考えるより、マネタリーベース拡大のコミットメントを維持しながらでも、日銀の国債買い切りオペの減額余地は小さくなく、イールドカーブをスティープ化させることはできるとみられる。

更に、デフレ完全脱却後の金融緩和からの出口を経た将来の金利上昇の局面で、日銀が保有する長期国債と短期国債・政府短期証券の割合を、後者から前者へ逆に重心を移せば、金利上昇を緩やかにできるかもしれない。

黒田日銀総裁は、「国債の買入れプログラムを適切に修正していくことによって、超長期の金利が下がり過ぎることは回避できる」と指摘している。

これらのスキームを考慮すれば、国債買い切りオペの減額余地は小さくなく、イールドカーブをスティープ化させるために、金融機関の経営基盤の弱体化などの大きなコストを払ってまで、マイナス金利政策を深堀りすることはないように思われる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司