(本記事は、加谷珪一氏の著書『“投資"に踏み出せない人のための「不労所得」入門』の中から一部を抜粋・編集しています)

※本書に記載した内容は、原則として2019年6月現在のものです。
※本書に示した意見によって読者に生じた損失について、著者および発行者は責任を負いません。

なぜ資産1億円以上が富裕層なのか

解説
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世の中に存在しているあらゆる仕事のうち、もっとも不労所得レベルが高いのが、いわゆる「億り人」であることは、議論するまでもないと思います。1億円以上の純金融資産を持っていれば、かなり自由な生活を送ることができます。

一般的に富裕層というのは、純金融資産が1億円以上ある人のことを指しています。

なぜ1億円なのかについては、明確な理由はなく、数字のキリがよいということも大きいと思いますが、経済学的にもある程度の根拠はあります。

現在、日本のGDP(国内総生産)は約500兆円の規模があり、GDPの三面等価のうち分配面に着目した場合、労働者に賃金として支払われているのは約250兆円(雇用者報酬)と、全体の約半分を占めています。

一方で、利子や配当など、資本に対する対価として支払われているのは約100兆円で、残りは減価償却や税金です。つまり日本全体で見た場合、お金を出したことに対する報酬は、100兆円と考えることができます。究極の不労所得はお金に働いてもらうことですから、お金を出したことの報酬というのが不労所得であり、これが日本全体では100兆円あるわけです。

印税
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日本の就業者数は約6500万人なので、雇用者報酬250兆円を就業者数で割ると、労働者1人あたりの報酬を計算することができます。ここでは約385万円となるのですが、これは労働者の平均的な年収に近いと思ってよいでしょう。実際、この数字は各種の調査から得られる金額とほぼ一致しています。日本においては労働者として働いた場合、平均すると380万円の年収になるということを意味しています。

一方、日本において、資本として提供されるお金の総額(国富)は約3300兆円なので、資本の対価として得られた100兆円を使って利回りを計算すると、約3.3%になります。つまり、あらゆる投資を総合すると、日本では平均して3.3%でお金が回っていると解釈することが可能です。ちなみにこの数字は、あらゆる投資を総合したマクロ的な数字ですから、個別の投資案件と直接比較することはできないので注意してください。

利回りが3.3%の場合、1億円の資産があれば、何もせずに年間330万円を稼ぐことができます。要するに1億円の資産があると、労働者の平均年収に近い金額を働かずして稼ぐことができるわけです。

年収330万円では生活はラクではありませんが、働かずに何とかやっていける金額であり、そのための最低資産額が1億円なのです。1億円以上を富裕層と定義することには、数字のキリがよいこと以外にも経済的な意味があることがお分かりいただけると思います。

野村総合研究所の調査によると、2017年時点における日本の富裕層数は127万世帯で、彼らが持つ資産総額は299兆円になるそうです。日本の世帯数は5800万世帯ですから、45世帯に1世帯は富裕層ということになります。学校のクラスに1人くらいはお金持ちがいるという計算ですが、意外と多いという感想を持った人が大半ではないでしょうか。

使ってよいお金、使ってはダメなお金

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では実際に、金融資産を1億円以上保有していると、どのような生活を送れるのでしょうか。多くの人は、1億円あればアレが買える、コレが買えると思いをめぐらすかもしれませんが、富裕層の人はそうは考えません。

中にはお金を散財してしまって、あっという間に資産を使い果たす人もいますが、ホンモノのお金持ちというのは、平均的な人とはまったく異なる価値観を持っており、お金に対する態度も大きく異なっています。

富裕層の人は、1000万円を稼いでも、おおよそ30万円の稼ぎとしかカウントしません。1000万円稼いだのに30万円にしかならないというのは、どういう意味でしょうか。

それは、お金には使ってよいお金と使ってはダメなお金があるからです。

お金に色はないと言われていますが、富裕層にとってはそうではありません。同じ100万円でも、消費してよい100万円と消費してはいけない100万円の違いが、明確に存在しています。

まとまった資産がない時には、人は働いて得た稼ぎの中から消費するしかありません。しかし、一定以上の資産を持った人にとって、働いて得た稼ぎというものは、原則として消費してはいけないお金です。

働いて得た稼ぎというのは、基本的に資産を増やすための原資であり、本来は手を付けるべきお金ではありません。しかしお金がない人にとっては、そのお金で生活せざるをえないので、やむをえずそれを消費に回しているだけです(しかもこの事実にあまり気付いていません)。

ではお金持ちにとって消費してよいお金は、どのようなお金なのでしょうか。

それは稼ぎの結果、資産が蓄積され、それを運用した結果として生み出されたお金です。つまり、稼いだお金が蓄積され、それが再び富を生み出す段階になって、初めて消費の対象となるのです。

さらに厳密にいえば、資産の運用で生み出されたお金から、税金を差し引いて最後に残ったお金が、真の意味で消費可能なお金と定義した方がよいでしょう。この段階まで到達して、ようやく躊躇(ちゅうちょ)せず、すべてを消費に回すことができます。これがまさに究極の不労所得であり、富裕層にとってはこの不労所得で得たお金だけが、消費してよいお金になります。

こうした状態を維持することができれば、自身の資産は減ることはなく、運用で生み出された資金の範囲内であれば、いくらでも散財することが可能です。

最初に説明した「1000万円を稼いでも30万円を稼いだとカウントする」という話は、この話を象徴的に示したものです。まとまった資産があれば、どのような時代でも3%程度の利回りで運用することができます。

これは1000万円稼ぐことができ、それを消費せずに投資に回すことができれば、その後は毎年30万円の収入になることを意味します。資産の額が増え、1億円を達成できれば、毎年何もしなくても300万円が入ってきます。このお金はどれだけ浪費しても、元手となっている資産は1円も減りません。

つまり1000万円を稼いだ時、30万円しか稼いでいないという感覚を持つことができれば、資産を減らすことなく、毎年、運用収益を得られる体制を確立できるのです。

ホンモノの富裕層にとって、使ってよいお金というのは、資産が生み出したお金だけです。派手に散財しているように見えても、実は散財する範囲を厳しく限定しています。中には資産の元手に手を付けてしまう人もいるのですが、こうした人は、すでに資産家からの転落が始まっていると見てよいでしょう。使ってよいお金と使ってはダメなお金があると説明したのは、こうした理由からです。

“投資”に踏み出せない人のための「不労所得」入門
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家。宮城県仙台市生まれ。 1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「現代ビジネス」や「ニューズウィーク」など数多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどでコメンテーターを務める。億単位の資産を持つ個人投資家でもある。
お金持ちの実像を解き明かした著書『お金持ちの教科書』(CCC メディアハウス)はベストセラーとなり、「教科書」と名の付く書籍ブームの火付け役となったほか、法科大学院の入試問題に採用されるなど反響を呼んだ。
主な著書に『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SB クリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCC メディアハウス)、『戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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