(本記事は、加谷珪一氏の著書『“投資"に踏み出せない人のための「不労所得」入門』の中から一部を抜粋・編集しています)

※本書に記載した内容は、原則として2019年6月現在のものです。
※本書に示した意見によって読者に生じた損失について、著者および発行者は責任を負いません。

ファーストクラス
(画像=PIXTA)

本物のお金持ちはファーストクラスに〝乗らない〟

富裕層と聞くと、飛行機のファーストクラスを思い浮かべる人も多いと思いますが、実は富裕層の間ではファーストクラスはそれほど人気がありません。むしろビジネスクラスを選択する人が圧倒的に多いと思います。

その理由は、富裕層はコストパフォーマンスに対して非常に敏感だからです。

航空会社による宣伝の影響も大きいのかもしれませんが、ビジネスクラス以上に搭乗(とうじょう)すると、機内で豪華なディナーを堪能(たんのう)できるというイメージがあると思います。実際にビジネスクラスやファーストクラスでは好きな時間に食事が取れますし、料理も皿に盛ってサーブされ、ワインも豊富です。

しかしながら、ビジネスクラスやファーストクラスに搭乗している富裕層の人は、思ったほど機内食を食べていません。機内食では、どうしても味に限界が出てきてしまうからです。

飛行機の機内は気圧が低く、騒音も大きいです。厨房(ちゅうぼう)で調理することもできないので、地上で食べる食事と比較するとどうしても味が劣ってしまいます。富裕層の場合、普段からそれなりの食事をしていますから、機内食を美味しく感じることはまずありません。食事を目当てにビジネスクラスやファーストクラスに乗る人は、ほとんどいないと思ってよいでしょう。

では、なぜビジネスクラス以上に乗るのかというと、とにかく体を疲労させないことを最優先したいからです。つまり、ビジネスクラス以上を選択する最大の理由は、できるだけ普段の状態を維持するため、ということになります。

ビジネスクラスあるいはファーストクラスなら、シートのピッチが広く、路線と機材によってはフルフラットになります。実際に利用したことがある人なら分かると思いますが、少しでも角度があるシートとフルフラットのシートでは、体の疲れがまったく違いますし、睡眠のレベルも大きく変わってきます。富裕層にとって時間はもっとも貴重な財産です。余分な体力を消耗して次の日程に影響が出ることは避けたいので、そこの部分にお金を払う価値が出てくるわけです。

さらにいえば、機内の手荷物制限が緩い点も重要なポイントです。

旅行の日程にもよりますが、ビジネスクラス以上なら、相当な量の荷物を機内に持ち込むことができるので、荷物を預けずに済みます。ビジネスクラスやファーストクラスの乗客は到着後、最初に飛行機を降りることができるので、預けた荷物がなければイミグレーションに直行することが可能です。あとになればなるほどイミグレーションは混んでくるため、最初に外に出られるメリットは限りなく大きいのです。

最近では、多くの国でウーバーやグラブといった配車アプリが使えるので、空港に出てアプリでクルマを呼べば、最短時間でホテルに入れます。こうした機動力にお金を払っているという側面が大きいわけです。

一連の状況を総合的に考えると、富裕層にとってファーストクラスはそれほど魅力的に思えません。

確かにファーストクラスになれば、料理もより豪華になり、誕生日などにはシャンパンで乗務員がお祝いをしてくれたりします。しかし、機内食である以上、地上の食事との差は埋めようがありませんし、シャンパンでのお祝いも、富裕層にとっては特に喜ぶような話ではありません。

それにもかかわらず、ビジネスクラスとファーストクラスの料金には、天と地ほどの差があります。エコノミーとビジネスなら迷わずビジネスを選択するわけですが、ビジネスとファーストということになると、断然ビジネスの方に軍配が上がります。

さらにいうと、アメリカなどプライベートジェットが普及している国では、路線にもよりますが、ファーストクラスの料金とそれほど大差のない水準で、プライベートジェットを手配することが可能です。ファーストクラスの料金を払うなら、それに近いコストでプライベートジェットを手配した方が、圧倒的に効率的です。

こうした理由で、富裕層の人は意外とファーストクラスには乗っていません。

ファーストクラスに乗るのは、乗務員からの豊富なサービスが限りなく好きという、一部の人に限定されると思います。

“投資”に踏み出せない人のための「不労所得」入門
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家。宮城県仙台市生まれ。 1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「現代ビジネス」や「ニューズウィーク」など数多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどでコメンテーターを務める。億単位の資産を持つ個人投資家でもある。
お金持ちの実像を解き明かした著書『お金持ちの教科書』(CCC メディアハウス)はベストセラーとなり、「教科書」と名の付く書籍ブームの火付け役となったほか、法科大学院の入試問題に採用されるなど反響を呼んだ。
主な著書に『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SB クリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCC メディアハウス)、『戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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