(本記事は、加谷珪一氏の著書『“投資"に踏み出せない人のための「不労所得」入門』の中から一部を抜粋・編集しています)

※本書に記載した内容は、原則として2019年6月現在のものです。
※本書に示した意見によって読者に生じた損失について、著者および発行者は責任を負いません。

発想
(画像=PIXTA)

資産10億円レベルだと発想から違う

資産1億円レベルの一般的な富裕層の場合、資産を減らすことなく不労所得として得られる金額は、年間数百万円ですから、基本的には数百万円の範囲でしか散財することができません。お金がない人から見ると数百万円の散財も大きな話かもしれませんが、現実問題として数百万円の範囲では、特段驚くようなお金の使い方ができるわけではありません。

飛行機の座席がエコノミークラスからビジネスクラスに変わったり、1人あたりの料金が3万円するレストランにも気軽に入れるといった程度で、生活が根本的に変化するわけではないのです。つまり、億のレベルの富裕層というのは、ぱっと見では一般人とそれほど変わらないということになります。せいぜい乗っているクルマがちょっと高級だったり、服のブランドがよくなる程度でしょう。しかし、資産額が10億円を超えてくると、状況が大きく変わってきます。

同じグルメの場合でも、資産1億円と資産10億円では、行動がまったく違ってきます。資産が10億円あると、1年間に得られる不労所得は3000万円を超えてきます。3000万円のお金が毎年、自由に使えるということになると、お店1軒を丸ごと買ってしまうことも可能です。

10億円以上の富裕層の中には、自分のお店を持つ人がかなりいるのですが、飲食店の経営を本業としているわけではないのに、わざわざお店を持つのは、その方が最終的には安く済むからです。お店を自分で持っている方が安く済むという話には、富裕層が持つ独特の事情が関係しています。

当たり前のことですが、どんなに高価なお店であっても、食事の時に都度、お金を払って飲食店を利用した方が、絶対的な金額は少なくなります。筆者も以前お店を所有していたことがあるのでよく分かるのですが、店舗オーナーになると結構な出費を覚悟しなければなりません。それにもかかわらず、あらゆる面をコスト換算すると、お店の所有は実は経済的なのです。

富裕層の中でもビジネスで成功した人にその傾向が顕著ですが、多くの富裕層が食事の場でのコミュニケーションにかなりの気を配っています。会食というのは、忙しい日々の中で、わざわざ夜の数時間をお互いに共有し、食事やアルコールをともにするという行為です。特に時間が貴重な富裕層にとって、会食する相手というのはかなり重要な人物ということになります。

会食にはお金を惜しまないという成功者が多いのは、成功してお金があるので食事にふんだんにお金が使えるからではなく、多くのお金を投じても惜しくない人としか会食しないからです。

仕事であってもプライベートであっても、大事に思う人と同じ時間を過ごすのであれば、その時間は完璧にマネジメントしたいと考えるのは当然のことでしょう。ところが、自分の理想を満たすお店を見つけるのは、そうたやすいことではありません。

ここでみなさんに1つの質問をしてみましょう。

あるビジネス・ディナーで勝負をかけたいと思った時、あなたは相手とどのような向きで席に座るのがよいでしょうか。こうした食事に慣れている人ならすぐにお分かりだと思いますが、答えは正面ではなく斜め45度です。

これは異性を食事に誘う場面を想像してもらえば分かりやすいのではないでしょうか。それほどお互いを分かっていない段階であれば、食事に行く時はテーブルに45度で座る配置の方がベターです。正面を見据えた状態では、会話が途切れた時に困ってしまいますし、2人並んで座るのはまだ早すぎます。45度の角度は、どのような状況になっても対処しやすい配置なのです。

多くの成功者が語っているように、ビジネスと恋愛は非常によく似ています。恋愛で効果的なやり方はたいていビジネスにも当てはまりますから、レストランの配置もまったく同じと考えてよいのです。

しかし現実を考えた時、45度という角度で座れるお店というのは、実はそれほど多くありません。

ちょっと考えれば分かると思いますが、お店側も商売なので、一度にできるだけ多くの顧客を店内に入れたいと考えています。そうなってくると、2人用の正面に向かい合う配置のテーブルを狭い間隔で並べた方が、圧倒的に効率がよくなります。45度で座れる配置の席を多くすると、客数が少なくなるので、当然お店側の利益は少なくなってしまいます。

会食を成功させるためには、配置をよくするだけではダメです。

店員さんのサーブの仕方がもたらす影響は極めて大きく、ここをしっかりコントロールできなければ、会食はうまくいきません。料理をサーブする際、店員さんが簡単な説明をしてくれることがありますが、店員さんのレベルが際立つのはこうした場面です。

あまり熟練していない店員さんが多いお店では、一律に料理の説明をするよう教育することしかできず、利用者の会話の状況を考えずに、話に割り込んでしまうというケースがよく見られます。これは実際に経験している人ならよく分かると思いますが、重要な話をしている時に会話を遮断(しゃだん)されてしまうことの影響は、極めて大きいです。

筆者が以前よく通っていたお店の店員さんは、こうした微妙な対応が非常に上手だったのですが、それはオーナーの教育が完璧だったからです。

ある時、そのお店に普段、高級店に行き慣れていない人を招待したことがあるのですが、食前酒のオーダーを取りに来た店員さんは、「何かお飲み物は?」というセリフに続けて、すかさず「ビールもありますし、シャンパンやカクテルなどもございます」と続けてくれました。そこはビールを出す類のお店ではありませんが、会話もほとんど交わしていない段階で、ゲストの雰囲気を素早く察知したのです。ゲストは「とりあえずのビール」を楽しみ、その後いろいろなお酒をオーダーしていきました。

席の配置が絶妙で、隣との距離が確保されており、しかも店員さんの動きが完璧というお店であれば、いくらお金を出しても惜しくないという富裕層は多いと思います。ところが、こうしたお店を見つけ出すのは簡単なことではなく、仮に見つけることができたとしても、大事な日に確実に予約を入れられるとは限りません。そうなってくると、想定したシナリオが崩れてしまいます。

つまり富裕層にとって、重要な相手との会食を、希望した日にセッティングできないことは、極めて大きなコストとなって跳ね返ってくるのです。1億円程度のお金しかない一般富裕層の場合には、我慢するしかありませんが、10億円以上の富裕層なら、自分でお店を所有してしまった方が、機会損失の金額を考えると、かえって安上がりということが十分にありえます。

常に空席を確保しておけば予約で苦労することはありませんし、店員さんも自分で教育するわけですから、自分の思う通りに動いてくれるはずです。

“投資”に踏み出せない人のための「不労所得」入門
加谷珪一(かや・けいいち)
経済評論家。宮城県仙台市生まれ。 1993年東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は、「現代ビジネス」や「ニューズウィーク」など数多くの媒体で連載を持つほか、テレビやラジオなどでコメンテーターを務める。億単位の資産を持つ個人投資家でもある。
お金持ちの実像を解き明かした著書『お金持ちの教科書』(CCC メディアハウス)はベストセラーとなり、「教科書」と名の付く書籍ブームの火付け役となったほか、法科大学院の入試問題に採用されるなど反響を呼んだ。
主な著書に『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SB クリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCC メディアハウス)、『戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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