シンカー:超長期金利の上昇を促す日銀の国債買い切りオペの減額には限界があるという見方がマーケットでは多い。増加している日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が下回ってしまい、保有国債残高が減少してしまった場合、マネタリーベースが減少し、日銀のコミットメントに反してしまうと考えるからだろう。日銀の保有国債が償還されると、日銀の保有国債残高が減少するとともに、日銀にある政府預金が減少する。政府預金はマネタリーベースに含まれないため、マネタリーベースに変化はない。政府預金の減少を防ぐため、政府が国庫短期証券を発行し、日銀がマーケットからすぐに買い切った場合には、政府預金も変化しない。このスキームを大幅に継続利用し、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を十分に抑制すれば、日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が大きく下回っても、マネタリーベースが減少することはない。日銀が既にマーケットに存在する国庫短期証券と短期国債を継続的に大幅に買い切ることを決定し、その保有残高の大きな増加額を2%の物価安定目標が達成されるまで維持する方針を示しても、この条件は整う。一方、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を抑制できるため、国債買い切りオペを減額する余地はその分だけ大きくなる。日銀の現行の金融緩和の枠組みを持続的にするため、FRBとは違い、この措置を追加金融緩和と日銀は呼んでもいいだろう。イールドカーブ・コントロールへの移行後、金利水準の重視により、量的緩和の部分があいまいになっていたことを修正することもできる。追加金融緩和のオプションとして、マーケットはマイナスの短期政策金利の深堀りばかり注目されているが、他にもより副作用の小さいオプションは存在するとみられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

先月、連邦税を支払い期限を前にMMFなどから納税のための現金が引き出されたことや、国債入札の決済が重なったことで短期金融市場の資金がひっ迫し、米国の短期金利が過度に上昇した。

これを受け、Fedは正常化を促すための資金供給を10月末まで行うとし、短期金利市場の正常化を図った。

FRBのパウエル議長は10月8日の講演で、同じような混乱が再発しないよう、今後、当局はバランスシート拡大を再開することを表明した。 

今回のバランスシート拡大は償還期限が短い、米財務省短期証券(Tビル)の対象とした購入プログラムを検討していること表明した。

また、今回の買入再開は流動性バッファーの再構築であり、「金融政策スタンスに重大な影響を与えるものではない」と説明し、「QE(量的緩和)ではない」ことを強調した。

パウエル議長の発言を受け、マーケットではFRBの短期証券買入が拡大が織り込まれ、米3か月物Tビル利回りは低下した。

現行の金融緩和のフレームワークをより持続的にするために、日銀も同じような措置が必要かもしれない。

超長期金利の上昇を促す日銀の国債買い切りオペの減額には限界があるという見方がマーケットでは多い。

増加している日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が下回ってしまい、保有国債残高が減少してしまった場合、マネタリーベースが減少し、日銀のコミットメントに反してしまうと考えるからだろう。

日銀の保有国債が償還されると、日銀の保有国債残高が減少するとともに、日銀にある政府預金が減少する。

政府預金はマネタリーベースに含まれないため、マネタリーベースに変化はない。

政府預金の減少を防ぐため、政府が国庫短期証券を発行し、日銀がマーケットからすぐに買い切った場合には、政府預金も変化しない。

このスキームを大幅に継続利用し、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を十分に抑制すれば、日銀の保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が大きく下回っても、マネタリーベースが減少することはない。

日銀が既にマーケットに存在する国庫短期証券と短期国債を継続的に大幅に買い切ることを決定し、その保有残高の大きな増加額を2%の物価安定目標が達成されるまで維持する方針を示しても、この条件は整う。

一方、国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を抑制できるため、国債買い切りオペを減額する余地はその分だけ大きくなる。

日銀の現行の金融緩和の枠組みを持続的にするため、FRBとは違い、この措置を追加金融緩和と日銀は呼んでもいいだろう。

イールドカーブ・コントロールへの移行後、金利水準の重視により、量的緩和の部分があいまいになっていたことを修正することもできる。

マイナスの短期政策金利は当座預金残高の政策金利残高にかかるもので、マーケットの短期金利が乖離することは問題ない。

追加金融緩和のオプションとして、マーケットはマイナスの短期政策金利の深堀りばかり注目されているが、他にもより副作用の小さいオプションは存在するとみられる。

政府・日銀の共同目標としての2%の物価上昇率を目指し、現行の金融政策のフレームワークを持続的にするため、国庫短期証券がマーケットで不足した場合、オーバーパーである利点もあり、政府は発行を増加して協力できるだろう。

確かに、短期国債・政府短期証券の保有額が大きく増加すると、マイナス金利であるため、日銀の損失は膨らむ。

しかし、日銀の国庫納付金(余剰金)は2018年度には5500億円程度あり、一定の期間で目標が達成されれば、バッファーは十分だろう。

結果として、日銀が保有する長期国債と短期国債・政府短期証券の割合が、前者から後者へ重心が移ることになる。

日銀が保有する国債のデュレーションが短期化することは、国債買い切りオペの減額とともに、イールドカーブをスティープ化(長短金利を拡大)させる力となる。

マーケットが考えるより、マネタリーベース拡大のコミットメントを維持しながらでも、日銀の国債買い切りオペの減額余地は小さくなく、イールドカーブをスティープ化させることはできるとみられる。

更に、デフレ完全脱却後の金融緩和からの出口を経た将来の金利上昇の局面で、日銀が保有する長期国債と短期国債・政府短期証券の割合を、後者から前者へ逆に重心を移せば、金利上昇を緩やかにできるかもしれない。

国債買い切りオペの減額余地は小さくなく、イールドカーブをスティープ化させるために、金融機関の経営基盤の弱体化などの大きなコストを払ってまで、マイナス金利政策を深堀りすることはないように思われる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司