連載『中華圏富裕層の実態』では、香港で50年ぶりとなる金融機関「Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB)」を創設し、富裕層向けに資産運用をサポートしている長谷川建一氏が、中華圏富裕層の特徴について紹介していく。5回目のテーマは「3つの特殊なトラスト」である。
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前回の本コラムでは、富裕層が自身の資産を管理・運用し、次世代へ承継していくために利用している「トラスト」の概要について説明をした。トラストは古くはコモン・ロー(英米法/判例法主義)の国々で利用されてきた仕組みで、委託者から所有分離された資産を、受託者が管理・運用して、その利益を受益者に渡す仕組みである。
トラストを利用することによって家族の資産を事業リスクから守ったり、家族の一部に受益が偏ることを防いだり、あるいは、資産の恣意的な使用・流用を防止したりすることもできるとあって、近年はアジア圏でも広がりを見せている。
トラストの設定を通じて「委託者」と「受託者」、「受益者」の3者は法的な役割が明確化されるという基本を踏まえ、今回はさらに特殊なケースを深堀りしてみたい。
資産管理に関与したい中華圏富裕層が利用する「リザーブド・パワー・トラスト」
アジア特に中華圏の富裕層は、起業家の割合が多い。彼らからの要望として多いのは、資産運用や管理に関しても、他人任せにしてしまうのではなく自分自身もトラストの運営や管理に関与したいということである。
彼らは自分で一からビジネスを築きあげたため、代々資産を受け継いで家を守ってきた欧米の富裕層に比べて、自分で稼ぎ出した資産という意識が強く、関与を続けたいと強く思うのだろう。一般的なトラストの場合は、委託者が受託者に管理・運用を全部任せてしまうのだが、そういった形態ではなく、複数の人で構成される委員会が投資判断などの権限を持つReserved Power Trust(リザーブド・パワー・トラスト)が好まれる傾向にある。
ただ、委託者が権限を持ちすぎると、そもそもトラストとしては機能しなくなってしまうので、この権限のバランスは難しい。専門家も交えて何度も話し合い、詳細を詰めていく必要がある。