国内メガバンク最大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306> (以下三菱UFJ)を含む金融株の出遅れ感が目立っている。一方で配当利回りやPBRなどから見た割安感もあり、見方は分かれるところだ。そこで、今回は三菱UFJ株の値動きや注目すべきポイントを解説していく。

三菱UFJの最近の株価動向

三菱UFJ,株価
(画像=Piotr Swat / Shutterstock.com)

世界的な景気の先行き不安から、先進国の金利低下が続いている。長引く金融緩和も、国内だけでなく世界的な低金利の一因だ。このような流れの中で金融株には向かい風が吹いており、三菱UFJの株価も2018年1月の高値894円から右肩下がりとなっている。

今年に入っても、米国FRB(連邦準備制度理事会)が2008年以来の利下げに転じるなど金利低下の基調が続いており、三菱UFJの株価も年初から500円台で推移している。マクロ環境が悪化する中、三菱UFJだけでなく国内金融株は全体的に上値が重く、出遅れ感が否めない。

過去に三菱UFJの株価が大きく変動した要因

これまでの三菱UFJ株は、中長期的に見ると日経平均や世界の金利動向によって大きく変動してきた。2013年から2015年までのいわゆるアベノミクス、黒田日銀の異次元金融緩和相場では、海外投資家などの資金が流入し、日経平均が8,000円から20,000円超まで上昇した。

このような大型株物色の流れやデフレ脱却、景気回復の期待から三菱UFJ株も物色され、300円台だった株価は2015年6月に936円の高値をつけている。業績も、2015年3月期に初の純利益1兆円超えを果たした。

その後2016年までは、人民元の急落などのいわゆるチャイナショック、英国の国民投票によるEU離脱決定のような世界的な景気鈍化懸念による先進国の金利低下の流れが続いた。これらによって収益力低下を嫌気され、金融株が売られやすい地合いとなった。三菱UFJ株も売り優勢となり、2016年7月に425円の安値をつけている。

しかし、2017年にかけて米国を中心とした景気回復基調となり、世界的な金利上昇が起こったことから金融株にも資金が流入、2018年1月に三菱UFJ株は894.4円の高値をつけた。

三菱UFJ株は低PBRであることから、いわゆる「バリュー株(割安株)」に分類される。一般的に、世界的に金利が低下する局面では、バリュー株(割安株)よりグロース株(成長株)のほうが物色されやすい。逆に金利が上昇する局面では、バリュー株(割安株)が好まれる。三菱UFJ株の変動要因として、個別材料以外にマーケットの物色傾向も留意すべきだろう。

三菱UFJの業績推移

三菱UFJの業績は、株価が高値をつけた2015年3月期をピークに伸び悩んでいる。

2015年3月期
業務粗利益(本業からの利益) 4兆2,290億円 
純利益 1兆337億円

2016年3月期
業務粗利益    4兆1,432億円
純利益 9,514億円

2017年3月期
業務粗利益    4兆118億円
純利益 9,264億円

2018年3月期
業務粗利益    3兆8,542億円
純利益 9,896億円

2019年3月期
業務粗利益 3兆7,257億円
純利益 8,726億円

※純利益=親会社の株主に帰属する当期純利益

預金と貸出の利ざやや、手数料収入など本業の利益を示す業務粗利益は伸び悩んでいる。金融緩和による金利低下が、収益力に影響した格好だ。

三菱UFJは、傘下に三菱UFJモルガン・スタンレー証券やタイのアユタヤ銀行、米国ユニオンバンクなどを持っており、海外ビジネスの比率が高い。海外ビジネスにおいても、世界的な金利低下や経費率増加が粗利益を押し下げている。そのため、海外ビジネスの建て直しは三菱UFJの急務となっている。

三菱UFJの株価動向を予測するポイント

今後の三菱UFJの株価動向を予測する上では、以下の3点がポイントになるだろう。

1 世界的な金利動向
2 構造改革によるコスト削減
3 株主還元とPBRなど指標面での割安さ

順に解説する。

1 世界的な金利動向

米中貿易摩擦や中国・欧州などの景気減速により、世界的な低金利の流れは今後も続くと見られている。今年7月に米国FRB(米連邦準備制度理事会)は、2008年以来となる利下げを決定した。欧州もドイツなどを中心に製造業の景況感が悪化しており、9月12日のECB(欧州中央銀行)理事会で停止していた量的緩和の再開を決定した。

どちらも景気の下支えを目的としたものだが、世界的な金利低下の要因となり得る。一方で、米国の失業率は過去最低水準で賃金の伸びが続いており、雇用や消費の環境はそれほど悪くないと言える。

そのような状況の中で、先進国の金利はドイツや日本の長期金利がマイナス圏で推移しており、過去最低水準だ。今後は景気の下支えのための金利低下の流れが続くと見られるが、金融緩和によって景気が回復すれば金利上昇につながるだろう。

これらを踏まえると、三菱UFJを含めた各国の金融株は、金利上昇による収益力回復の期待から、買いが入る展開になると予想される。

2 コスト削減による構造改革

低金利環境の中、三菱UFJは利益率改善を目指し、傘下の海外金融子会社を含めたグループ全体での効率化やコスト削減を進めている。

2017年には、事務作業のデジタル化や自動化によって、向こう10年で約1万人分の労働力を削減すると発表し、銀行業界に激震が走った。実際にRPA(Robotic Process Automation)を導入し、現在手動で行っている業務の自動化を進めている。RPAによる業務の自動化は、銀行の業務効率化と相性が良い。

これによって余裕ができた人員を、本部などの企画部門や管理部門から営業部門や海外拠点などへ再配置する。新卒採用の抑制も進めており、グループ全体で人材の効率化に取り組んでいる。

また、収益が低下している海外拠点の閉鎖も進めている。さらに、これまでは三菱 UFJ銀行の国内店舗数を2023年度までに2017年度比で20%削減するとしていたが、35%削減へと加速させると発表した。

既存の店舗は、ネットバンキングの台頭やリテール部門の収益力低下を受けて窓口やバックオフィス部門の人員を減らし、資産運用やコンサルティングなど相談に特化した機能特化型店舗への切り替えを進めている。

政府が取り組んでいるキャッシュレス化の取り組みも、三菱UFJの構造改革を後押しする。日本では未だ現金志向が根強く残っている。しかしキャッシュレス決済が普及すれば、ATMの台数や警備コストなどを削減できるため、三菱UFJを含めた金融機関にとってプラスに働くだろう。

構造改革の指標となる経費率は、2019年3月期で78%と増加傾向にあり、欧米の銀行に比べて高止まりしていると言える。今後の構造改革の効果が、実際に経費削減につながるかどうかに注目したい。

3 株主還元とPBRなど指標面での割安さ

三菱UFJの株主還元の余力は、総じて高いと見られる。2020年3月期の会社予想配当は1株あたり25円。直近(9/13)の株価567.5円で計算すると予想配当利回りは約4.4%であり、魅力的な配当と言えるだろう。

配当性向も30%前後と、純利益に対して余力を残した形になっている。伸び悩んでいるとはいえ、9,000億円前後の純利益を毎年稼ぎ出しており、今のところ赤字転落の予兆も見られないため、減配のリスクは限定的だろう。

三菱UFJは、魅力ある配当のほかに機動的な自社株買いも行っている。2017年に約2,000億円、2018年は約1,500億円の自社株買いを実施しており、配当と自社株買いによる株主還元は今後も続くだろう。

三菱UFJを含めたメガバンクは、政策保有株(いわゆる持ち合い株式)の削減も進めている。同社はここ数年、毎年2,000億円規模で持ち合い株式の売却を続けている。今後も売却を続ける方針で、売却により得た資金を成長投資や自社株買い、配当原資など株主還元に振り向けると見られている。

指標面から見た割安さ

三菱UFJの株価は、保有資産から見ると割安感がある。9月13日現在、三菱UFJのPBR(株価純資産倍率)は0.44倍と解散価値である1.0倍を大きく下回っている。これは、業績の伸び悩みや低金利環境が当面続くと予想されているからだろう。

配当の余力や自社株買いへの期待、財務体質から見ても株価は非常に割安な水準であり、上昇の余地がありそうだ。短期的な値動きを狙うよりは、中長期的な投資対象として検討すべきだろう。

三菱UFJ株を買うには

三菱UFJ株の9月13日の終値は、567.5円。100株単位で取引される銘柄なので、最低投資金額は5万6,750円となる。

三菱UFJ株の購入にあたって、手数料を比較的抑えられる証券会社は以下のとおりだ

岡三オンライン証券   0円
DMM.com証券 86円
ライブスター証券 86円
GMOクリック証券 96円
SBI証券 97円
楽天証券 97円

※いずれも税込価格
※三菱UFJ株100株を9月13日の終値567.5円で購入した場合の手数料
※各種キャンペーンは考慮しない

中堅ネット証券の岡三オンライン証券では、1日の約定代金が20万円以下の場合は手数料が無料なので、手数料0円で三菱UFJ株を購入できる。

同じく中堅のDMM.com証券とライブスター証券は86円、GMOクリック証券は95円。大手ネット証券のSBI証券と楽天証券はともに97円と、中堅ネット証券の手数料は大手ネット証券に比べてわずかだが低く設定されている。

株価は資産面で割安感 当面は金利動向に注目

三菱UFJの株価は低金利などにより押し下げられており、PBR(株価純資産倍率)からすると非常に割安な水準で、下値不安は小さいと考えられる。

当面は米国の利下げ継続など景気を下支えするために先進国の金融緩和ムードが続き、上値が押さえられる可能性もある。しかし、現在の金利水準は足元の景気動向を鑑みても、過去の金利水準と比べても低いため、金利が上昇に転じた場合は三菱UFJを含めた金融株の上昇余地は大きいだろう。