通信会社大手であるKDDIは、携帯キャリアのauを運営する会社として広く知られている。携帯キャリアといえば、政府主導の携帯電話料金引き下げやMVNO業者の台頭、5Gへの移行など話題に事欠かない。これらはKDDIの株価にどのような影響をもたらすのだろうか。株価を左右する注目すべきポイントについて解説する。

KDDIの最近の株価動向

KDDI,株価
(画像=madamF / Shutterstock.com)

KDDIは、NTTドコモやソフトバンクと並ぶ日本の総合通信大手だが、その業績や株価はどのように推移しているのだろうか。

KDDIの業績

KDDIといえば携帯電話のイメージが強いかもしれないが、インターネットの光通信を展開し、三菱UFJと共同でじぶん銀行に出資したり、カブドットコム証券に出資したりもしている。本業の携帯電話事業だけでなく、銀行や証券業などの金融業界にも進出し、収益の多角化を図っているのだ。

KDDIの直近の業績は、以下のとおりだ。

2018年3月期
売上高 5兆420億円
営業利益 9,628億円
当期利益 5,725億円

2019年3月期
売上高 5兆804億円
営業利益 1兆137億円
当期利益 6,177億円

2020年3月期(予想)
売上高 5兆2,000億円
営業利益 1兆200億円
当期利益 6,200億円

※当期利益=親会社の所有者に帰属する当期利益

KDDIは、2019年3月期の決算で18期連続の増益を達成している。また、2018年度に初めて営業利益が1兆円を超えた。その後も増収増益を続けており、来年度も成長が予想される。

またKDDI株は、カタログギフトがもらえる株主優待が個人投資家に人気だ。

KDDIの株価動向

最近のKDDIの株価動向を見てみよう。2019年度は概ね堅調に推移しているといっていいだろう。4月に急落したものの、その後は上げ下げを繰り返しながら順調に推移している。2019年9月13日時点の株価は、2,887.5円だ。

今後の株価の予想について、ポイントは大きく分けて2つある。

・携帯料金の値下げの影響と携帯キャリア業界への新規参入による脅威
・非通信分野での事業の成否

それぞれを詳しく解説しよう。

携帯料金の値下げの影響と携帯キャリア業界への新規参入による脅威

ポイントの1つ目は、政府主導による携帯電話料金の値下げと、楽天が携帯電話事業に参入することだ。

携帯電話市場は、長らくNTTドコモ、ソフトバンク、au(KDDI)がほぼ独占してきた。しかし、2018年に政府から携帯電話料金引き下げの議論が出てきた。また、楽天が2019年10月から携帯電話事業に参入することが決まっている。(延期の可能性あり)

次章で詳しく説明するが、過去を振り返ると、携帯電話料金の引き下げの話が出てくるとKDDIの株価は急落している。

KDDIの収益の約7割は、携帯電話事業やインターネット回線などのパーソナル事業によるものだ。今後携帯電話料金の引き下げ競争が激しくなると、KDDIの業績は悪化する可能性がある。

非通信分野での事業の成否

2つ目のポイントは、携帯キャリア以外の事業の動向だ。KDDIは、じぶん銀行やカブドットコム証券に出資している。金融事業に積極的に関わっており、非通信分野の事業の成否は今後のKDDIの株価を予想する上で重要なファクターとなる。

現在の株価は比較的安定しており、配当利回りも3.93%と高いため、購入を検討しても問題ない銘柄と言えるだろう。

過去にKDDIの株価が大きく変動した要因

KDDIは業績が安定しており、ディフェンシブ銘柄であることから値動きはあまり激しくないと思うかもしれない。しかし、過去5年で株価が20%以上も急落したことが3回もあるのだ。急落した時期やその原因について説明する。

2015年8月~9月

2015年8月から9月にかけて、KDDIの株価は約20%下落した。その理由は、主に2つある。

1つ目は、政府による携帯電話料金の引き下げ検討だ。当時、安倍総理大臣は携帯電話事業の当局である総務省に携帯電話料金の引き下げを検討するよう指示した。あくまで検討であり、実際に政府主導による引き下げが行われたわけではなかったが、KDDIの収益が悪化するのではないかとの憶測を呼び、株価の急落につながった。

2つ目は、携帯電話料金の価格競争が始まるのではないかと噂されたことだ。KDDIとソフトバンクがiPhone6の発売を期に、5分以内の国内通話を無料にすると発表したことで、本格的に携帯電話料金の値下げ競争が始まるとの見方が広がった。これが、KDDIの株価急落の一因と考えられる。

2017年12月

2017年12月から約2ヵ月で、KDDIの株価は20%近く下落した。3,200円程度まで戻していた株価が、わずか2ヵ月で2.600円付近まで下げた。

2017年12月からの大幅下落の理由は、楽天が携帯電話事業への参入を発表したことだ。楽天は、2014年から楽天モバイルとして携帯電話事業に参入している。2017年12月に発表したのは、MNO(移動体通信事業)として携帯電話事業に本格的に参入するというものだった。

携帯電話事業には、MNOとMVNO(仮想移動体通信事業)の2種類がある。MNOは自前で通信回線や基地局を持って自社のインフラでサービスを提供するのに対し、MVNOは他社のインフラを借りてサービスを提供する。

楽天モバイルは、NTTドコモのインフラを借りたMVNO事業者だ。MVNO事業者は、価格設定やサービス内容に自由に決めることができない。そのため、楽天はMVNOからMNOへと舵を切った。この発表により、携帯電話会社の価格競争が本格化すると考えられたため、KDDIの株価が急落したのだ。

2018年10月

2018年10月から約1ヵ月で、KDDIの株価は25%程度下落した。3,200円程度まで持ち直した株価は、再び2,400円程度まで急落してしまう。

2018年10月からの大幅下落の原因は、当時の菅官房長官の「携帯電話事業者は、携帯電話料金を4割程度下げることができる」との発言を受けて、NTTドコモが突如携帯電話料金の値下げプランを発表したことだ。その内容は、菅官房長官の発言通り4割程度値下げするというものだった。市場に与えたネガティブサプライズは大きく、今後KDDIの収益も悪化するのではないかと考えられたため、KDDIの株価は急落した。

このように、過去5年でKDDIの株価は3回も急落している。今後KDDI株を買うにあたって、K株価動向をどのように予想すればいいのだろうか。

KDDIの株価動向を予想するポイント

今後KDDIの株価を予想するにあたっては、以下の3点がポイントになるだろう。

・ MNO事業を行う他社の動向
・ 携帯電話業界の動向
・ 非通信事業での収益

MNO事業を行う他社の動向

現在はNTTドコモ、ソフトバンク、KDDIが大手携帯電話会社だが、前述のとおり今後楽天が加わることになる。他の携帯電話会社の株価動向がKDDIの株価を大きく左右するため、他社の状況にも注意すべきだろう。

たとえば、2019年5月にソフトバンクは傘下のヤフー株の買い増しを発表した。市場はこれを好感し、ソフトバンクの株価は上昇した。この時、直接関係のないNTTドコモやKDDIの株価も上昇をしている。このように、KDDI株は他社の株価に左右される傾向があるのだ。今後MNOに参入する楽天を含めた他社の株価動向に、KDDIの株価は引き続き影響を受けるだろう。

携帯電話業界の動向

ポイントの2つ目は、携帯電話業界全体の動向だ。直近のテーマは「5G」。4Gから5Gに移行するにあたり、各社とも多額の投資が必要な状況である。

米中の貿易戦争の悪化に伴い、アメリカ政府は中国の通信機器大手ファーウェイの排除を各国に要請しており、日本の携帯電話会社は要請に応じることを表明している。しかし、ファーウェイが提供する低コストの機器がないと、投資額が膨れ上がってしまう可能性が高い。

さらに、国内でも政府主導による携帯電話料金の引き下げ圧力がある。

「巨額投資が必要な5Gへの移行」と「携帯電話料金の引き下げ」という大問題をクリアできるかどうかが、KDDIにとって非常に重要なポイントであることは間違いない。

非通信事業での収益

KDDIが非通信事業でいかに収益を上げていくかも、注目すべきポイントだ。

現在KDDIが出資している金融業からの収益や、今後キャッシュレス決済が本格化する中でスマホ決済からの収益もさらに重要になってくる。新たなビジネスの成否は、KDDIの株価に大きく関わってくるだろう。この点は、他社や業界に左右されることなくKDDIが独自の特徴を出せるポイントなので、経営陣の手腕が問われるところだ。

KDDI株を購入するには

2019年9月13日時点での株価は、2,887.5円。100株単位で取引される銘柄なので、最低投資金額は288,750円になる。

KDDI株の購入に際し、手数料を抑えて購入できる証券会社は以下のとおりだ。

・ライブスター証券:194円
・DMM株:194円
・GMOクリック証券:265円(税込)
・SBI証券:270円
・カブドットコム証券:270円

ライブスター証券とDMM株は、約定代金30万円以下の取引の場合、手数料は194円で業界最低水準となっている。大手ネット証券に比べて、中堅ネット証券のほうが手数料が安い傾向にあることがわかる。

内外要因で変動する株価動向

KDDI株はディフェンシブ銘柄でありながら、比較的値動きがあることがわかっただろう。今後の株価を予想するにあたっては、政府の方針や業界全体、競合他社の動向などの外的要因に加え、KDDI自体の業績など内的要因にも注意する必要がありそうだ。