「不死鳥」は死んでも蘇り永遠の時を生きる伝説上の鳥である。外食チェーンストア大手の吉野家ホールディングス(以下、吉野家) <9861> は、2019年2月期に大幅赤字を計上していたが、超特盛等のヒットを手掛かりに業績は急回復、さらに日米が牛肉関税引き下げで合意したのを手掛かりに株価は上場来高値を更新してきた。後段で述べる通り、吉野家は過去何度も赤字に転落し、ときには経営危機に陥りながらも「不死鳥」のごとく蘇ってきた企業だ。今回はそんな吉野家の復活劇を振り返ってみよう。

吉野家、2019年2月期は60億円の赤字

吉野家,株価
(画像=Morumotto / shutterstock, ZUU online)

吉野家は前2019年2月期の決算で60億円の最終赤字を計上した。売上は2%増の2023億円と増収だったが、人件費や原価の上昇で営業利益は97%減の1億円と大幅な減益となった。さらに不採算店舗のスクラップで51億円の減損を計上、最終利益は60億円の赤字となった。吉野家の株価は低迷を余儀なくされ、今年4月には年初来安値となる1669円を付けている。

吉野家の主力事業は売上の51%を占める牛丼の「吉野家事業」だ。2019年2月期の吉野家事業は既存店売上が0.8%増で、前期の1.4%からスローダウンしたものの全体の売上では2.5%増と増収を保った。しかし、一方で人件費に加えて米や牛肉といった原材料価格の上昇が利益を圧迫することとなった。同期の吉野家は33店舗を出店する一方で26店舗を閉鎖、期末では1211店舗となった。

上記の通り、吉野家の赤字転落は牛丼の売上低迷というよりも、人手不足(人件費上昇)や物流コスト増、原価高といった日本の外食産業が抱える構造的問題に起因するところが大きく、それだけに株価回復のストーリーは描きにくい状況だった。

日米の「牛肉関税引き下げ合意」で環境好転?

吉野家の株価が低迷から脱出するキーポイントになったと見られるのが「日米の牛肉関税引き下げ」の合意である。日本で消費される牛肉の約3割はオーストラリア産、約2割が米国からの輸入となっている。日本政府は国内産業の保護のために海外産の牛肉に対し38.5%の関税を課していたが、2018年末に合意したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)で加盟国に対し関税を段階的に引き下げることで合意。オーストラリア産牛肉については2019年4月から26.6%、2020年4月からは25.8%、そして最終的に2033年に9%まで引き下げることとなっている。

一方の米国とは日米貿易協定で個別交渉が続いていた。トランプ大統領がハードな貿易交渉をしていたこともあって、自動車や牛肉などの関税に対する懸念が拡大していた。そんな情勢に好転の兆しが見られたのは、6月13日にワシントンで行われた日米閣僚級協議である。日本政府は、米国から輸入される牛肉や豚肉などの関税をTPPに合わせて段階的に引き下げる案を提示したのである。