企業が新規事業を始める際には、設備費や人件費などの多額のコストが発生する。しかし、事業の立ち上げを支援する補助金・助成金を活用すれば、コスト面の負担は大きく抑えられる。本記事で具体的な制度をチェックし、給付前の注意点や探し方も押さえていこう。

新規事業の立ち上げに役立つ補助金&助成金制度

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(写真=PIXTA)

新規事業の立ち上げには、設備投資費や研究開発費などのコストが発生する。これらのコストは多額になるケースも珍しくないため、中には一部の設備などを諦める事業者もいることだろう。しかし、以下で紹介する補助金・助成金を活用すれば、そういった初期費用を大きく抑えられる。

1.ものづくり・商業・サービス新展開支援補助金

中小企業の生産性向上や、地域経済への波及効果を目的として実施されている制度。事業の内容によって適用される類型が異なり、以下の2つの類型が設けられている。

・企業間データ活用型 複数の事業者が、データ・情報を共有する形で進められるプロジェクトが対象。
補助金額は100万円~2,000万円。
・地域経済牽引型 複数の事業者が「地域経済牽引事業計画」を共同作成し、かつ地域の特性を活かした形で、地域経済への波及効果をもたらすプロジェクトが対象。
補助金額は100万円~1,000万円。

いずれの類型でも、補助対象となるのは「機械装置費・技術導入費・専門家経費・運搬費・クラウド利用費」の5つだ。これらの費用のうち、2分の1の補助率を上限として補助金が支給される。つまり、設備投資が必要になる制度であるため、あらかじめ資金計画を慎重に立てておく必要があるだろう。

実施者 中小企業庁
概要 生産性向上や、地域経済への波及効果につながるプロジェクトを支援している制度。
(※複数の事業者が共同する必要あり)
支給金額
(中小企業)
企業間データ活用型…100万円~2,000万円
地域経済牽引型…100万円~1,000万円
公式ページ https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/2019/190423mono.htm

2.小規模事業者持続化補助金

これは商工会議所地区で事業を営む小規模事業者を対象にした、販路開拓などを支援している制度だ。「事業の持続的な発展」を目的とした経営計画を作成し、販路開拓などに取り組んだ事業主に対して、最大50万円の補助金が支給される。

さらに、商工会議所から指導・助言を受けられる点も事業者にとってはメリットと言えるだろう。経営計画の段階から助言を受けられるため、経営不振を改善させる手段としても役立つはずだ。利用を検討している事業者は、早めに全国商工会連合会・各都道府県商工会連合会に問い合わせをしておこう。

実施者 中小企業庁
概要 事業の持続的な発展につながる経営計画を立てて、販路開拓などに取り組む小規模事業者を支援する制度。
支給金額
(中小企業)
補助対象経費の3分の2以内(最大50万円)
公式ページ https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shokibo/2019/190425jizoku.htm

3.創業支援等事業者補助金

都道府県と連携し、地域への活性化や貢献につながる事業を目指している企業は、ぜひこの制度を押さえておきたい。この制度では地域の中核企業に育つような企業を支援しており、単に補助金を受給できるだけではなく、以下のように多角的なサポートを受けられる。

〇主な支援内容
・事業計画やマーケティングなどに関する経営支援
・資金調達支援
・国内や海外の販路開拓
・マッチング支援
・人材育成の支援
・創業に関する普及啓発

つまり、創業支援等事業者補助金は事業をスタートするところから軌道に乗るまで、手厚いサポートを受けられる制度だ。ただし、経営基盤や事業の実施体制などが求められる制度であるため、申請前には自社の状況を冷静に分析する必要があるだろう。

実施者 中小企業庁
概要 地域の中核企業を育てる目的で、都道府県と連携する事業に対して支援を行っている制度。
支給金額
(中小企業)
補助対象経費の4分の3以内(最大2,000万円)
公式ページ https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/2019/190328sougyoumodel.htm

4.地域創造的起業補助金

新たな需要や雇用の創出を目的として、創業費用の一部を助成している制度。補助率は経費の2分の1以内であり、外部資金調達がない場合は100万円、外部資金調達がある場合は200万円が上限金額となる。 創業時のコストを大きく抑えられる制度だが、以下の要件には注意が必要だ。

〇主な要件
・計画した補助事業の遂行のために、新たに従業員を1名以上雇用する必要がある
・産業競争力強化法に基づく、認定市区町村での創業のみが対象
・認定市区町村、または認定特定創業支援事業の支援を受ける必要がある

第1回~第13回では、全国1,379の市区町村が認定市区町村に選ばれている。基本的に各都道府県の中核都市は含まれているが、それ以外のエリアで事業を行っている事業者は、念のため認定市区町村を確認しておこう。

実施者 中小企業庁
概要 新たな需要や雇用を創出するために、創業費用の一部を助成している制度。
支給金額
(中小企業)
外部資金調達がない場合…50万円~100万円
外部資金調達がある場合…50万円~200万円
公式ページ http://www.cs-kigyou.jp/

5.事業承継補助金

これは事業承継やM&Aの後に、経営革新などに取り組む中小企業を支援している制度だ。この制度は以下の2つのコースに分けられており、Ⅰ型では最大300万円、Ⅱ型では最大600万円までの補助金を受けられる。

コース名 概要
Ⅰ型:後継者承継支援型 経営者交代をともなう事業承継後に、経営革新などに取り組む事業者を支援するコース。
対象となる取り組みは、親族内承継や外部人材招聘など。
Ⅱ型:事業再編・事業統合支援型 M&Aをきっかけとして、経営革新などに取り組む事業者を支援するコース。
対象となる取り組みは、合併や会社分割、事業譲渡、株式交換・株式移転、株式譲渡など。

人件費や設備費など、さまざまな費用が補助対象となる制度だが、Ⅰ型とⅡ型で要件が異なる点には注意したい。事業承継を検討中の企業は、各コースの概要を細かく確認しておこう。

実施者 中小企業庁
概要 事業承継やM&Aの後に、経営革新などに取り組む事業者を支援している制度。
支給金額
(中小企業)
Ⅰ型…最大300万円
Ⅱ型…最大600万円
公式ページ https://www.shokei-hojo.jp/

6.地域中小企業応援ファンド【スタート・アップ応援型】

中小機構や各都道府県、地銀などが連携する形で、地域貢献度の高い中小企業を支援している制度。主な対象は、農林水産物や伝統技術を活用する商品開発・販路開拓などの取り組みであり、2019年8月現在では全国30の都道府県で実施されている。

この制度の特徴は、都道府県ごとに概要や要件が異なる点だ。たとえば、千葉県では新商品・新技術開発の助成として最大500万円、愛知県では新事業展開応援助成金として最大300万円が支給される。 エリアごとに対象分野も異なってくるため、該当する都道府県の情報をしっかりと調べておこう。

実施者 中小機構や各都道府県など
概要 商品開発や販路開拓などに取り組む、地域貢献度の高い中小企業を支援している制度。
支給金額
(中小企業)
都道府県によって異なる
公式ページ https://www.smrj.go.jp/sme/funding/regional_fund/index.html

人材の雇用時・教育時に役立つ補助金&助成金制度

新規事業に向けて人材を雇用・教育する企業は、以下で紹介する制度も押さえておきたい。雇用・教育関連の制度を理解しておけば、将来的に採用の間口も広げられるだろう。

1.キャリアアップ助成金

非正規雇用労働者を抱えている企業は、ぜひこの制度を活用しておきたい。この制度では正社員登用や賃金改定など、非正規雇用労働者のキャリアアップにつながる取り組みを実施すると、1人あたり数万円~最大72万円の助成金が支給される。 また、以下の7つのコースに分けられており、ほかにもさまざまな取り組みが助成対象に含まれている。

コース名 対象となる主な取り組み
正社員化コース 正規雇用
賃金規定等改定コース 賃金規定の改定
健康診断制度コース 健康診断制度の新設
賃金規定等共通化コース 賃金規定の新設
諸手当制度共通化コース 手当制度の新設
選択的適用拡大導入時処遇改善コース 社会保険の適用、基本給の増額
短時間労働者労働時間延長コース 5時間以上の週所定労働時間の延長、社会保険の適用

この制度は対象となる取り組みの幅が広いため、コストを抑えた形で就労環境を大きく改善できる可能性があるだろう。新規事業に向けて就労環境を整えたい企業は、各コースの要件を細かく確認しておくことが重要だ。

実施者 厚生労働省
概要 非正規雇用労働者のキャリアアップを支援している制度。
支給金額
(中小企業)
労働者1人あたり数万円~72万円
公式ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/part_haken/jigyounushi/career.html

2.トライアル雇用奨励金

35歳未満の人材を雇用し、かつ原則3ヵ月のトライアルを実施することで、1人あたり月額4万円の支援を受けられる制度。最長3ヵ月の制限はあるものの、対象者が母子家庭の母もしくは父子家庭の父にあたる場合は、支給額が月額5万円に増額される。出産のために退職した女性やフリーターなど、さまざまな人材が対象に含まれる制度だが、以下のいずれかに該当する人材にしか適用されないため要注意だ。

【1】就労経験のない職業に就くことを希望している
【2】学校卒業後3年以内で、卒業後に安定した職業に就いていない
【3】過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
【4】離職している期間が1年を超えている
【5】妊娠・出産・育児を理由に離職し、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
【6】就職の援助を行うに当たって、特別な配慮を要する

(※【1】~【2】は紹介日時点、【3】~【5】は紹介日前日時点が基準)

また、この制度では雇用される人材だけではなく、支給対象事業主にも要件が定められている。事業主の要件は全26項目にも及ぶため、ひとつひとつの項目をしっかりと確認しておこう。

実施者 厚生労働省
概要 3ヵ月間のトライアルを実施する形で、35歳未満の人材を雇用した場合に支援を受けられる制度。
支給金額
(中小企業)
1人あたり月額4万円~5万円(3ヵ月間)
公式ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/trial_koyou.html

3.特定求職者雇用開発助成金

学校等の既卒者・中退者を採用し、1年以上定着をさせることで助成を受けられる制度。これまでに既卒者・高校中退者を新卒枠で採用していないことが条件となるが、人材が1年以上定着をすると最大70万円の助成を受けられる。

また、2年定着後と3年定着後にそれぞれ10万円の助成金を受け取れる点も、この制度の大きな魅力だろう。ただし、この制度には「既卒者等コース」「高校中退者コース」の2つのコースがあり、コースごとに要件が定められている。

また、以前は「三年以内既卒者等採用定着奨励金」として実施されていた制度だが、従来の制度からも要件に変更が加えられているため、その点にも注意しておこう。

実施者 厚生労働省
概要 既卒者・中退者を採用し、その人材を1年以上定着させた場合に支援を受けられる制度。
支給金額
(中小企業)
1年定着時…1人あたり50万円~60万円(※)
2年定着時…1人あたり10万円
3年定着時…1人あたり10万円
公式ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158397.html

※ 若者雇用促進法に基づく認定企業(ユースエール認定企業)の場合は、いずれも10万円が加算される。

4.生涯現役起業支援助成金

40歳以上の中高年齢者を雇用する予定がある企業は、この制度の概要を押さえておこう。この制度では、以下のいずれかに該当する形で雇用をした場合に、最大200万円までの助成を受けられる。

〇対象となる雇用
・60歳以上の者を1名以上
・40歳以上60歳未満の者を2名以上
・40歳未満の者を3名以上
・40歳以上の者1名と40歳未満2名以上

また、雇用後に生産性が向上している企業については、「生産性向上助成分」としてさらに4分の1の金額が助成される点も魅力的だ。ただし、離職者数や起業者の経歴など、さまざまな要件が定められているため、雇用計画を進める前に概要をチェックしておこう。

実施者 厚生労働省
概要 40歳以上の中高年齢者を雇用した場合に、支援を受けられる制度。
支給金額
(中小企業)
雇用創出措置助成分…最大200万円
生産性向上助成分…雇用創出措置助成分の4分の1
公式ページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115906.html

補助金&助成金を利用する際の注意点と対策

補助金・助成金制度は、新規事業を始める事業者にとって心強い存在だ。しかし、申請をすれば必ず受給できる制度ではないため、補助金・助成金にもいくつかの注意点がある。
そこで次からは、補助金・助成金を利用する際の注意点と対策を見ていこう。

【注意点1】準備には「時間」と「労力」がかかる

補助金・助成金の申請時には、申請書類に加えて事業計画書や収支計画など、いくつかの書類の提出が求められる。また、制度によっては要件を満たすために、数ヵ月前から経営計画や組織を調整する必要があるだろう。
つまり、補助金・助成金を申請する際には、その準備に「時間」と「労力」がかかってくる。準備期間は制度ごとに異なるが、1ヵ月以上の期間を要するケースも珍しくない。

したがって、補助金・助成金の利用を検討している場合は、余裕をもって計画を立てることが重要だ。ちなみに、応募期間も制度によって変わってくるため、各制度の情報をしっかりと調べた上で早めの行動を意識しておこう。

【注意点2】メリットの大きい制度は倍率が高い

補助金・助成金の中には上限金額が特に高い制度や、要件を満たしやすい制度などもある。これらの制度は魅力的だが、事業主にとってメリットが大きい制度は、基本的に「倍率が高い」ことも覚えておきたい。

たとえば、平成28年度の創業・第二創業促進補助金では、応募総数2,866件に対して採択総数は136件であった。採択率を計算すると、支給を受けられた事業主は全体の約4.7%に過ぎない。このような競争率の高い制度を利用したい場合には、必要書類をしっかりと作り上げて、自社をアピールする必要があるだろう。

ちなみに、必要書類の質を高める手段としては、司法書士などの専門家に相談をする方法が挙げられる。また、状況によっては視野をもう少し広げて、倍率が高くない制度に目を向けることも重要だ。

【注意点3】基本的には後払い

補助金・助成金制度では、基本的に後払いのシステムが採用されている。採択されてからすぐに受給できるわけではなく、費用が発生した後に入金されるケースが主流であるため、資金計画は綿密に立てておくことが重要だ。

中には、発生した費用が具体的になってから、受給金額が決定される制度も見られる。そのような制度では、期待通りの金額を受給できない可能性もあるだろう。多くの補助金・助成金は、すでに資金不足に陥っている企業を救うための制度ではない。ある程度の資金がなければ制度自体の利用も難しくなるため、発生する費用も含めた資金計画をしっかりと立てておこう。

【注意点4】手段であって目的ではない

企業にとって補助金・助成金を受け取ることは、あくまでも手段であって目的ではない。仮に補助金・助成金が支給されたとしても、企業には「その資金で事業を拡大したい」「開発費に回して、新たなサービスを作り出したい」など、さらにその先の目的があるはずだ。

補助金・助成金を最終的な目的と考えると、本業が疎かになってしまう恐れがある。また、補助金・助成金は確実に受給されるものではないため、企業はそこに全力を注ぎこむべきではない。したがって、補助金・助成金を受け取る「最終的な目的」は、あらかじめ明確にした上で利用を検討することが重要だ。特に事業計画や経営計画はきちんと立てておき、万が一受給できなかったときの対策も考えておこう。

自治体の制度にも目を向けよう!補助金&助成金制度の探し方

補助金・助成金を実施しているのは、厚生労働省などの国の機関だけではない。都道府県や市区町村など、地方自治体の中にも補助金・助成金制度を実施している地域は多く存在する。自治体が実施している制度は、各自治体の公式ホームページに掲載されているため、該当するエリアの情報はしっかりと調べておこう。

また、利用できる補助金・助成金制度を探す際には、情報がまとめられているポータルサイトを活用すると効率的だ。具体的なウェブサイトとしては、たとえば以下が挙げられるだろう。

ウェブサイト 概要
補助金ポータル 各都道府県の制度や、最新の制度などが紹介されている。
ミラサポ 中小企業向けの補助金・助成金制度が紹介されている。
みんなの助成金 行政書士や司法書士など、専門家が厳選した助成金制度がまとめられている。
税理士法人TGN東京 各地方の補助金・助成金・融資情報が、一覧でまとめられている。

ただし、補助金・助成金制度は細かく概要が定められているため、ポータルサイトだけでは収集できない情報もある。気になる制度を見つけたら、その制度の公式ホームページにアクセスし、細かい受給要件や金額などをしっかりと確認しておこう。

効率的な方法で、早めに準備を進めていこう

各シーンに最適な制度を選び、かつ採択される可能性を高めるには、早めに準備にとりかかる必要がある。利用を検討してから数日~数週間では、万全の準備を整えることは難しいだろう。したがって、補助金・助成金制度を利用するのであれば、遅くても数ヵ月前から動き出すことをおすすめしたい。早めに行動することを意識し、できるだけ効率的な方法で準備を進めていこう。

文・THE OWNER編集部

(提供:THE OWNER