社会保険の加入条件は、法律によって細かく定められている。正社員は基本的に加入となるが、アルバイト・パートも状況によっては加入させる必要があるため、事業主は概要を理解しておかなければならない。特に今後従業員を増やす場合は、これを機に確認しておこう。

そもそも「社会保険」とは?

社会保険料,負担額
(写真=PIXTA)

社会保険とは、国民の生活を保障するために国が設けている公的制度のことだ。社会保険には以下の5種類があり、それぞれ異なる役割を果たしている。

【1】健康保険 健康保険証を提示することで、医療費の一部や手当が支給される保険。病気やケガ、出産、死亡時などが対象。
【2】厚生年金保険 国民年金に上乗せされて給付される年金制度。従業員が高齢になった場合に加えて、障害や死亡時なども給付される。
【3】介護保険 65歳以上になった従業員が要支援・要介護状態となった場合に、必要な給付を行う保険。末期がんや関節リウマチなど、要因によっては40歳以上の者にも適用される。
【4】雇用保険 一般的に「失業保険」と呼ばれている、従業員の雇用に関する保険。失業や育児、介護、教育訓練などが対象。
【5】労災保険 仕事中もしくは通勤中に、労災を被った従業員に対して給付される保険。ケガや病気、障害、死亡した場合などが対象。

一定の条件を満たす国民については、上記の社会保険に加入することが義務づけられている。保険料については、雇用者と従業員の両者で負担していくのが一般的だ。

なお、上記の【4】と【5】は「労働保険」と呼ばれることもあるが、本記事では【1】~【5】までを社会保険として解説していく。

強制適用事業所と任意適用事業所の違い

従業員に社会保険が適用される事業所は、大きく「強制適用事業所」「任意適用事業所」に分けられる。自社がどちらの事業所に該当するかを確かめるために、この2つの違いを見ていこう。

強制適用事業所とは?

以下のいずれかに該当する事業所は、強制適用事業所に分類される。

・常時5人以上の従業員を使用する、一部の業種(農林漁業、サービス業など)を除く事業所
・常に従業員を使用する(事業主本人も含む)、国や地方公共団体、または法人の事業所

上記から、ほとんどの法人は強制適用事業所に該当することがわかる。強制適用事業所に分類される場合は、雇用主や従業員の意思に関わらず、社会保険への加入が法律によって義務づけられている。 加入しない場合は、法律で罰せられることがあるので注意したい。

任意適用事業所とは?

強制適用事業所に該当しない場合でも、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受ければ、任意適用事業所として社会保険の適用を受けられる。任意適用事業所になると、そこで働く従業員全員が社会保険の対象になる。

ただし、任意適用事業所として認められるには、従業員の半数以上の同意が必要だ。また、従業員の4分の3が同意した場合は、適用事業所から脱退できることも覚えておこう。

アルバイト・パートの社会保険の加入条件

一定の条件を満たす従業員は、雇用形態に関係なく社会保険に加入しなければならない。ただし、アルバイト・パートに関しては、正社員とは別の加入条件が設けられている。以下のいずれかの条件に該当する場合は、アルバイト・パートであっても社会保険に加入させる必要があるため、事業主は内容を把握しておく必要がある。

【条件1】所定労働時間(1週間)や所定労働日数(1ヵ月)が、同じ業務をしている常時雇用者の4分の3以上であること
【条件2】以下で挙げる「短時間労働者の要件」の、全てに該当する従業員

【1】週の所定労働時間が20時間以上であること
【2】1年以上の勤務期間がある、またはその見込みがあること
【3】月額賃金が8.8万円(年間106万円)以上であること
【4】学生に該当しないこと
【5】従業員501人以上の企業で働いていること

なお、以下の3つの賃金に関しては、上記【3】の「月額賃金」には含まれない。

月額賃金に含まれない賃金 具体例
・臨時に支払う賃金、1ヵ月を超える期間ごとに支払う賃金 結婚手当や賞与など
・時間外労働や休日労働、深夜労働に対する賃金 残業代
・最低賃金法で定められている賃金 通勤手当、皆勤手当、家族手当など

また、上記【1】~【3】の要件に該当しており、かつ以下に当てはまる従業員に関しては、学生であっても社会保険への加入が必要になる。

・通信教育を受けている学生
・夜間学生
・定時制課程の学生
・休学中の学生
・卒業見込み証明書を有しており、卒業後も同じ企業に勤務する予定の学生

ここまでをまとめると、アルバイト・パートであっても労働時間が比較的長い従業員は、社会保険への加入義務が発生することがあると言える。

社会保険の適用範囲の拡大に注意

社会保険の適用範囲は、平成28年の法改正によって拡大されている。事業主が押さえておきたい主な変更点は、以下のとおりだ。

主な変更点 概要
・被保険者資格取得の基準明確化 改正前は、所定労働時間や所定労働日数の条件が「常時雇用者のおよそ4分の3以上」と定められていたが、その基準が明確になった。
・特定適用事業所の新設 同一事業主の被保険者数の合計が、6ヵ月以上500人を超えることが見込まれる場合は、「特定適用事業所」として扱われるようになった。
・特定適用事業所に勤める従業員の社会保険適用 特定適用事業所に勤め、かつ5つの「短時間労働者の要件」を満たす従業員は、被保険者資格を満たさなくても社会保険が適用されることになった。

(※上記の「同一事業主」とは、法人番号が同じ事業主を指す)

つまり、常に多くの従業員を抱えている事業主は、その従業員の雇用形態が正社員でなかったとしても、特定適用事業所として社会保険への加入を義務づけられることがある、ということだ。アルバイト・パートを多く抱えている事業主は、その人数や労働時間をしっかりと把握しておきたい。

まずは該当する事業所の種類をチェック

ここまで社会保険の加入条件を解説してきたが、ケースごとに条件が細かく定められているため、混乱してしまう事業主もいるだろう。法人はそのほとんどが強制適用事業所となるが、一方で個人事業所は任意適用事業所や特定適用事業所に該当する可能性もある。

該当する事業所の種類がひと目でわかるように、ここまでの内容を簡単にまとめてみた。

〇個人事業所の適用条件
常時雇用者の数 業種 適用される事業所の種類
5人未満 要件なし 任意適用事業所
5人以上~500人以下 製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告業、教育研究調査業、医療保健業、通信報道業など 強制適用事業所
サービス業など、上記以外の業種 任意適用事業所
501人以上 要件なし 特定適用事業所

上記の「任意適用事業所」に該当する場合は、適用事業所になることを希望するかどうかについて、従業員全員の意思を確認しておくことが重要だ。強制適用事業所、もしくは特定適用事業所に該当する場合は、所定の手続きをする必要がある。

従業員を社会保険に加入させるべき4つの理由

国内では多くの事業所が社会保険に加入しているが、そもそも社会保険に加入させる理由は何だろうか。中には、「コストが発生するので、できれば加入したくない」と考える事業主もいるだろう。

社会保険に加入させるべき理由は、以下のとおりだ。手続きの流れを見る前に、まずは加入の必要性をきちんと理解しておこう。

【理由1】法律で義務化されている

前述のとおり、事業所や従業員に関する条件を満たしている場合は、社会保険に加入することが法律で義務づけられている。それにも関わらず未加入が発覚した場合は、6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるため注意が必要だ。

また、未加入が発覚した場合に加えて、以下に該当するケースでも罰則を科せられることがある。

・虚偽の届出をしたとき
・期限までに保険料を納付しないとき
・帳簿を備え付けないなど、報告を怠ったとき
・虚偽の報告や答弁をしたとき
・必要な文書の提出をしなかったとき

ちなみに、未加入だった期間の保険料については最大で過去2年まで遡り、その総額を従業員と折半する必要がある。従業員の所在がわからない場合は全額を事業主が負担することになるため、未加入のリスクは大きいと言えるだろう。

【理由2】未加入が発覚すると、社会的信用を失う

社会保険の未加入が発覚する弊害は、法的な罰則だけではない。世の中に会社名が知れ渡り、社会的信用を失うことも深刻なダメージとなる。

そうなれば、自然と顧客や取引先が離れていくため、コストの削減どころか経営難に陥ってしまう。また、罰則を受けた事実が求職者に伝わると、新たな人材を雇用することも難しくなるだろう。

【理由3】生産性が向上する

社会保険の適用は、従業員のモチベーションにつながる可能性がある。健康保険や労災保険に加入すると、従業員は安心して仕事に取り組める。そのほかの保険についても、加入しておけば万が一の事態でも生活が保障されるため、仕事に集中できるだろう。

従業員が安心して、集中して仕事に取り組める環境は、従業員の生産性向上に寄与するだろう。社会保険の適用をきっかけに従業員のモチベーションが上がり、企業全体の生産性が向上すれば、支払ったコスト以上のメリットを得られるはずだ。

【理由4】良い人材を獲得できる可能性がある

社会保険は福利厚生の一つであり、アルバイト・パートにも適用される事業所であれば、求職者や従業員に安心感を与えられる。また、「しっかりとした会社」という印象も与えられるため、社会的な評価も高まっていくだろう。

福利厚生が充実した企業には、人材が集まりやすい。社会保険に加入をするだけで、良い人材と巡り合える可能性が高まるのだ。ただし、求人情報誌などに「社会保険完備」や「社保完備」と記載する場合には、従業員が加入できる環境を整えておく必要がある。入社後のトラブルを避けるためにも、自社の加入状況をしっかり確認しておこう。

上記のとおり、社会保険に加入するメリットは非常に大きい。確かに一定のコストは発生するものの、潜んでいるリスクを考えれば法律に反してまで未加入を選択することはない。また、会社の明るい未来にもつながる可能性があるため、強制適用事業所に該当しない企業も、任意適用事業所になることを検討してみよう。

社会保険の加入手続きの流れをチェック

最後に、社会保険の加入手続きについて解説しよう。 まず押さえておきたいポイントは、保険ごとに手続きの時期が定められている点だ。適用事業所に該当することが判明したら、早めに加入手続きを進めなければならない。以下を参考にしながら、早めに行動するようにしよう。

1.年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出

まずは健康保険・介護保険・厚生年金に加入するために、「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」と呼ばれる書類を、事実発生から5日以内に提出する必要がある。提出方法には以下の3つがあり、どの方法を選んでも構わない。

・郵送 各都道府県にある事務センターか、会社所在地を管轄する年金事務所に送る。
・持参 会社所在地を管轄する年金事務所に持参する。
・電子申請 自宅のパソコンなどから、オンラインで手続きを行う。

電子申請以外の方法を選ぶ場合は、新規適用届を自身で用意する必要がある。管轄の年金事務所で受け取れるが、日本年金機構のホームページからダウンロードする方法が便利だろう。

日本年金機構

提出時には添付書類も求められるが、以下のように事業所の形態によって添付書類が異なることに注意したい。

事業所の形態 添付書類
・法人事業所 登記簿謄本(原本)、法人番号指定通知書等のコピー
・個人事業所(強制適用事業所) 事業主世帯全員の住民票(原本)、賃貸契約書のコピー
・個人事業所(任意適用事業所) 任意適用申請書、従業員の同意書、事業主世帯全員の住民票(原本)、公租公課の領収証1年分

必要な情報を新規適用届に記入し、添付書類もしっかり揃えた上で提出しよう。

2.公共職業安定所に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出

雇用保険への加入手続きは、採用月の翌月10日までと定められている。この時期までに「雇用保険被保険者資格取得届」を用意し、所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)に提出しなければならない。

この書類も管轄のハローワーク、もしくは公式ホームページから手に入れられるので、まずは書類を手元に用意するところから始めよう。

ハローワークインターネットサービス

資格取得届には、所定労働時間や雇用契約期間を記載する欄がある。これらの情報は、労働条件通知書で確認するといいだろう。

3.労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出

事業所が従業員を雇用する際には、管轄の労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出する。労災保険への加入はこの際に行われるため、他の保険のように従業員ごとに加入手続きをする必要はない。

数日しか勤務しないアルバイト・パートであっても、労災保険は適用される。たとえば、アルバイトが勤務中にケガをした場合には、事業所が給付手続きをしなければならない。また、労災保険は年度ごとに申告・納付手続きが必要になることも併せて覚えておこう。

以上の3つの手続きで、従業員を社会保険に加入させることができる。手続きの時期や必要書類、提出先に注意しながら、漏れがないように準備を進めていこう。

今後の動向もチェックしながら、社会保険への加入を検討しよう

適用事業所に該当しないケースもあるため、アルバイト・パートの社会保険への加入は必須とは言えない。しかし、個人事業所であっても従業員を複数人雇っている場合は、社会保険への加入が必要になるケースが多いはずだ。

社会的信用や生産性の向上など、加入することで生じるメリットも押さえておきたい。人材不足などで悩んでいる事業所は、社会保険を完備することで状況が好転するかもしれない。

社会保険の適用範囲は平成28年に変更されたが、今後も変更される可能性は十分ある。制度が変われば、事業主や従業員の状況も変わってくるため、事業主は政府の動向もこまめにチェックしておくようにしたい。

文・THE OWNER編集部

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