人材不足が進行する日本の労働環境の中で、企業経営の重要課題となるのが採用だ。採用で要となるのは、面接官による面接である。採用面接は、人事担当任せではなく、企業経営者が参加して作りあげていくべき仕事のひとつだ。今回は採用面接の流れ、自社の求める人材を獲得するための質問例を解説する。
採用面接の流れをおさらい!5つのステップ
採用面接の流れに決まりはないが、ここでは一般的な流れを見ていこう。採用面接は次の5つのステップで進むのが一般的だ。
ステップ1. アイスブレイク
面接官と求職者は、初対面であるケースがほとんどであるので、まずはあいさつ代わりの会話からスタートすることが一般的である。多くの面接官は、求職者をリラックスさせるような、天候や企業の立地的な話題を投げかける。
これは、採用面接に限らず、営業担当者や起業セミナーの講師が最初に行う行動で、面接官と求職者がお互いに平常心を取り戻し、面接をスタートさせるブレイクタイムの役割を果たす。
ステップ2. 履歴書と職務経歴書をもとにしたQ&A
アイスブレイクの後は、履歴書と職務経歴書に記載された内容をもとに、面接官が、書類に記載されている内容が確かなものなのかを求職者に質問していく。書類選考の段階で、会社の求めている人材として選別された記載内容が事実であるのかを確認していくのだ。
中途採用の場合は、求職者の経験やスキルが募集ポジションに即戦力として活用できるかどうかを念頭に置く。現職者のケースも多いので、転職を考えた理由や当社を選んだ理由も確認することが重要だ。
ステップ3. 求職者の目標やビジョンについての質問
履歴書と職務経歴書に記載された内容をもとにした、事実確認の後は、求職者の目標やビジョンを聞き取るためのQ&Aを実施する。当社に入社してどのようなキャリアアップを図りたいのか、将来的に実現したい目標は何かをヒアリングしていく。
求職者の目標やビジョンについての質問をすることで、企業が求めている人材やポジションに適しているかどうかを見極めていくことができる。
ステップ4. ワークライフバランスや入社時期の確認
仕事に対する考え方をはじめ、業務内容・就業場所・就業時間・休日・給与・福利厚生など、労働条件に関する内容も、求職者に質問しながら確認していく。仕事に関する考え方は、企業がイメージする「従業員の姿勢」の範囲内に収まる人材であるかを見ていくことが重要だ。
中途採用のときに確認しなければならないのが、入社時期だ。即戦力として必要な人材の入社時期が後ろ倒しにならないように、しっかりとヒアリングしていく必要がある。
労働条件に関する内容も入社時期も、採用に向けて話が進む中でミスマッチが起きないように、重要項目を相互でしっかりと確認していくようにする。
ステップ5. 求職者からの質問
採用面接の最後のステップは、求職者からの質問を受けるという流れが一般的だ。不明点や質問を求職者に投げかけて、逆に面接官が答えていく。
採用面接で失敗しないためのポイントと5つの対策方法
採用面接で企業が失敗しないためのポイントはいくつかある。まずは、採用を考えるときに間違えやすい注意点を述べておこう。採用は、企業からの一方的なものではなく、企業と求職者双方の関係から生まれるもので、それぞれの立場で考える必要がある。企業が求職者を選ぶのと同様に、求職者も企業を選んでいるのだ。
企業と求職者の双方の立場を考慮したうえで、採用面接で企業が失敗しないためのポイントは大きく分けると「企業が求職者をうまく見極める」「求職者が企業を理解する」「求職者が入社するように動機づけをする」という3点になるだろう。では、具体的にはどのような対策があるのだろうか。
対策1:面接官を誰にするか
企業経営者や人事担当者にとって、面接官を誰にするかという点は、大きな課題である。望むべき面接官は、企業が求めている人材を見極めて、企業を理解させ、企業で働きたいというアクションにつなげていける人材である。このプロセスは、営業のプロセスによく似ている。営業力のある人物は面接官に向いているといわれる理由がここにあるのだ。
企業経営者や人事担当者が面接官を選ぶ際、注目したいポイントを4つ紹介しておこう。
1. 企業のビジョンや目的を十分に理解している人材である
面接官は、企業が求めている人材を見極める必要がある。そのためには企業のビジョンや目的を正しく明確に理解している人物が最適だ。ビジョンは、企業風土や職場・従業員の雰囲気、人事制度にも影響を及ぼす。ビジョンから生まれる企業の魅力を存分に語れる人材も面接官に適している。
2. 社会における企業や、企業が提供する商品やサービスの魅力を理解している人材である
企業が提供する商品やサービスが、社会において必要で存在意義のあるものである点は、求職者が企業を理解していくうえで重要な項目である。
3. 業務のエキスパートである
特に企業が求める人材の仕事内容が決まっている場合は、その業務のエキスパートが面接官に最適だ。複数ある採用面接のステップの中で、面接官として業務のエキスパートを選択しておくことも必要であろう。
業務を熟知している従業員は、求職者をうまく見極めるだけでなく、求職者が仕事を理解するのにも役立つ。仕事の魅力を生の声で届けることは、求職者が入社を決める動機づけの手助けになるのだ。
4. 企業経営者や人事担当者から見て、自信に満ちて魅力的に見える人材である
求職者は、目の前の面接官を通して、どんな企業であるかを感じ、この企業で働くことをイメージする。面接官の印象はとても重要だ。
対策2:自社の求める人材を明確化する
採用面接で失敗しない対策として、自社の求める人材を明確化することは、採用活動の基本的な軸として最重要である。
自社の求める人材は、面接官や人事担当者の中だけで共有されているだけでは、残念ながら不十分だ。企業経営者はもちろんのこと、人材を必要としている部門責任者も、採用によって獲得したい人材を把握している状態が最良だ。そのためには、どんな人材を必要としているのか、経営者・部門責任者・人事担当者で十分に検討し、明確化しなければならない。
自社の求める人材の要素は、会社のミッションやビジョンと同じ方向性を持つものになる。会社の目標に向かって邁進する行動を取れる人物が求められるのだ。
どんな人材を必要としているのかを明確にした人物像は、採用面接時に求職者を見極める基準となる。面接は複数回違う面接官によって実施されるので、面接官が共通の認識として共有化されていなければならない。
実際の採用面接で活用できるように、明確化した人物像はどのような項目の評価基準で判定していくのかも検討し、決定した項目を共有することも必要だ。
対策3:自社の求める人材を見極める
採用面接で失敗しないためのポイントのひとつに人材の見極めがある。面接官は採用面接で求職者に質問を投げかけ、回答の内容から自社の求める人材かどうかを見極めていかなければならない。
採用面接で参考になるのは、履歴書と職務経歴書に記載された内容である。内容が事実であるか、求めている経験とスキルを満たしているか、高いモチベーションを持っているかを質問で探り出すのだ。
さらに、求職者の目標やビジョン、仕事に対する考え方、労働条件などについての質問をして、見極めのための情報を集めていく。
求職者の回答は自社の求める人材として、明確化された評価基準の項目によって見極めを行い、評価していく。評価は複数で行うことで、評価内容の偏りを防止できるはずだ。
対策4:自社の魅力をアピールする
採用面接を成功させるための考え方として、採用は企業が一方的に決めるものではないことを再確認しておきたい。求職者の入社を決めるのは企業側だけでなく、求職者の入社意思が必要だ。採用面談では、求職者からのアピールを聞くだけではなく、企業から求職者に向けて自社の魅力をアピールする必要がある。
企業が求職者に伝えるべき項目は3つある。
1. 企業のビジョンや目的
ビジョンは企業の根幹であり、求職者が企業を理解し、入社を考えるうえで重要な要素になる。
2. 企業が提供する商品やサービスの魅力
企業が提供する商品やサービスが、社会に必要とされて貢献していることを伝えることは、求職者が企業を選ぶために必要な情報だ。
3. 業務の魅力
求職者には、企業の仕事内容についての情報をしっかりと伝える必要がある。求職者が学んできた知識や、経験してきたスキルを生かしていける業務内容である点や、将来的にスキルを身につけていきたい業務であることを再確認することで、入社意思を固める行動につながるのである。
対策5:面接官の心構え
採用面接において、面接官は企業そのものである。面接官の印象はそのまま企業の印象になるのだ。それだけ面接官は採用において重要な意味を持つ。採用面接にあたって面接官が注意しなければならない心構えは、次の5つである。
- 身だしなみに気をつける
- はっきりと分かりやすい声で話す
- 質問をしてはいけない「採用面接のタブー」を厳守する
- 求職者が話しやすい雰囲気を作るようにする
- 自社の求める人材として明確化された評価基準の項目を念頭に置いた質問をする
パターン別に見る新卒採用面接の質問例
新卒採用では、将来に向けて、企業がビジョンや目標を達成していくために必要な人材を採用したい。そのためには、自社の求める人材として明確化された評価基準の項目を念頭に質問を行っていく。
企業とのマッチング度合いを確認する質問例
- 弊社で何をしたいですか?
- 弊社を選んだ理由を教えてください
- 弊社の魅力は何ですか?
- これから業界はどうなっていくと思いますか?
- 何を目標に働きますか?
- 弊社に入って、具体的に働きたい部署はありますか?
求職者の人間性や特徴、ストレス耐性を確認する質問例
- 何が好きですか?
- あなたが興味を持って打ち込んでいることを教えてください
- 大失敗してしまったことを教えてください。次に大成功したことを教えてください
- 長所と短所を教えてください
- 今までに、何か問題点を見つけて、それを解決したことがあったら教えてください
- 困難な問題に直面したら、どのように対応しますか?
将来に向けてのワークライフバランスの考え方を確認する質問例
- あなたの5年後、10年後の将来像を教えてください
- ワークライフバランスの考え方を教えてください
- 入社後は、どんな働き方が理想ですか
- 理想とするビジネスマン像を教えてください
パターン別に見る中途採用面接の質問例
中途採用者の採用は、必要とするポジションに対して即戦力を求めるケースが多い。そのため、履歴書と職務経歴書に記載されている経験やスキルの事実確認は、最も重要な質問項目である。さらに、転職理由や入社後の展望の確認も必要だ。
履歴書と職務経歴書に記載されている経験やスキルの事実確認の質問例
- 自己紹介をお願いします
- 長所と短所は何ですか?
- 職務経歴について質問します
- 前職での経験とスキルについてお話しください
- 前職で成果を出したことは何ですか?どのように成果を出したのですか?
転職理由や入社後の展望を確認するための質問例
- 転職理由を教えてください
- 年収はどのくらいを希望していますか?
- 当社を選んだ理由は何ですか?
- 当社のビジョンに共感できますか?
- 入社したらどのように貢献できますか?
外国人採用面接の質問例
外国人採用は日本人採用とは大きく異なる。第一に確認したい点は、日本で働くことを家族が理解しているかどうかという点だ。家族の了承を得ずに採用を進めていき、いざ入社の段階で、辞退されてしまうケースがあるためだ。
もう一点確認しておきたいのは、食事などの違いだ。外国人従業員が入社後に社員寮などに入る場合は要注意だ。食材の制限などの対応が困難なためミスマッチが起こり、入社にいたらないケースが発生している。
日本で働く意思と家族が理解しているかどうかという点を確認する質問例
- 留学の目的を教えてください
- 日本で働くことを決めたのはなぜですか?
- 日本で働くことをご家族は了承されていますか?
- 母国に戻る予定はありますか?
- どのくらいの期間、日本で働きますか?
- 当社でどんな仕事をしたいですか?
犯してはならない採用面接のタブーとは?
採用面接時にはタブーがあるので、質問をする際には、厳重に注意しなければならない。厚生労働省では「採用選考時に配慮すべき事項」として、次の点を挙げている。
<a.本人に責任のない事項の把握>
・本籍・出生地に関すること(注:「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当します)
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当します)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
<b.本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握>
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)、学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
(引用元:厚生労働省 公正な採用選考の基本 採用選考時に配慮すべき事項)
採用面接における人材の評価のポイントは?
企業にとって、求職者を短時間の面接で見極めることは決して容易ではない。これは同時に求職者も同じである。短時間に企業の本質を間違って理解してしまうこともある。採用面接の失敗は、早期退職や、入社後の新人を嘆くケースにつながるのである。
採用の決定は、面接官の採用面接評価によるものである。入社後のミスマッチを防止するためにも採用面接評価では、プロセスと評価基準という2つのポイントを重視すべきだ。
採用評価のプロセスは、面接官個人の好き嫌いに大きく左右されないようにしなければならない。さらに、面接官の面接スキルに差が出ないように、標準化を目指した面接官のスキルアップが必要だ。
採用評価のプロセスを統一して、面接官のスキルを標準化するには、机上だけではなく、実践的なトレーニングが有効だ。実際の採用面接を想定したロールプレーイングを行い、スキルアップを図っていく。ロールプレーイングの様子を動画で記録し、活用するのもいいアイデアである。
人物評価は、評価者によって異なることは事実である。採用面接は、一般的には何名かの面接官によって評価が行われる。面接官の個人的な評価基準によって評価を下していては、精度の高い評価を見いだすことができないであろう。複数の面接官の面接によって、企業が求めている人材を見極めるためには、統一された面接評価基準が必要だ。評価基準は、評価シートとしてツール化されて運用されることが一般的である。
評価基準には企業が求めている人物に当てはまる評価項目が重要だ。積極性・柔軟性・忍耐力・コミュニケーション能力・特筆したスキルなど、評価項目を決めて、重要度合いを決めていく。面接官が実際の採用面接の場面で評価基準を念頭に置いた面接を実行できるように、実践マニュアルを作ることも忘れてはならない。
採用面接の質問で人材や人間性を見抜く
企業経営者にとって採用は、最重要課題である。採用面接は短い時間で、求職者の人材や人間性を見抜かなければならないので、十分に対応しておく必要がある。採用面接で使われる質問の多くは定型で、求職者が既に回答例を準備しているケースがほとんどだ。
求職者が準備してきた回答だけでは、本当の人材や人間性を見抜くことができない可能性がある。採用面接のスキルにたけているだけで、自社の求める人材とかけ離れた求職者を入社させてしまうリスクがあるのだ。
短時間の採用面接で求職者の人材や人間性を見抜くためには、質問例にある定型の質問からスタートして、求職者が準備してきた回答を受けても、そこで終了しないことが重要である。「どのように行動したか」「どう行動するか」といった、行動を念頭に置いた追加質問をすることで、求職者の本質を引き出すことが大切だ。
さらに「何をしますか?」「どんな人と?」といった追加質問で、求職者の回答を掘り下げていくことで、求職者の本当の性格や特徴をつかむことができるのだ。任命した面接官は、求職者の人材や人間性を見抜くスキルも磨いておくことが重要だ。
文・小塚信夫(ビジネスライター)
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