経営者である以上、常に会社の成長を考えている人は多いだろう。そういった中で、経営者としては、今後、人口が減っていく日本よりも、将来性の高い海外に目を向けたいという人も多いだろう。実際に海外と取引を行っているのであれば、さらなる成長のために、海外現地法人の仕組みを活用することを考えている人も多いかもしれない。
とはいえ、海外での事業展開にあたり、法人を作るメリットはどれくらいあるのか、きちんと理解している人は少ないのではないだろうか。実際に、海外法人を作るべきかどうか、法人設立のメリット・デメリットと、設立の方法について解説する。
魅力ある海外での現地法人作成
事業を行っていく上で、多くの人は、まずは日本で起業を行い、事業をするという人がほとんどだろう。しかし、ある程度日本で成長していくと、次に、海外に目が行くという経営者は多いのではないだろうか。
残念ながら現実問題として、日本は現時点では経済規模こそ大きいものの、経済成長の観点でいうと、経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも低位となっている。さらに高齢化や人口減少という問題も抱えており、消費の面でも、今後の伸びしろは小さいといえるかもしれない。
一方、インドや中国、東南アジアなどの近隣諸国では経済成長率が高く、人口も増加していくことが見込める国も多い。経営者にとっては、大きな市場や、日本に比べて安い労働力など、魅力的に映る部分も多いだろう。日本貿易振興機構の「2018年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」によると、実際に約9割の企業が、海外と何らかの取引を行っていると回答している。ビジネスを行ううえで、海外と関わりを持つことは、もはや当たり前といってよいだろう。
ある程度海外との取引が増えると、次に検討するのが、海外での現地法人展開だ。ただ、海外現地法人は、自分の目が届きづらい部分もあり、展開を躊躇するという人は多いだろう。ただ、うまく海外現地法人を展開することができれば、日本でのビジネスをさらに飛躍させることができるかもしれない。そういう意味では、海外現地法人はとても魅力的といえる。
海外に会社を持つ4つのメリット
海外に会社を作ることは、実際にどのようなメリットがあるのだろうか。主要なものを解説する。
1. 海外でのビジネスチャンスが広がる
最も大きなメリットは、その国、エリアでのビジネスチャンスが広がることだろう。もちろん、日本にいても海外でビジネスをすることは可能だ。しかし、入ってくる情報のスピードや、人脈、ネットワークなどは、やはり現地に拠点があるのとないのとでは、大きく変わってくる。また、カスタマーのニーズなどは、やはり現地で調べないとわからないことも多くあるものだ。こういったビジネス本業の観点から、海外に法人を持つメリットは大きいといえるだろう。
2. ブランドイメージが高まる
企業のブランドという観点からも、海外拠点を持つことが有利な場合もある。優秀な人材の中には、「海外で働きたい」という希望を持つ人もいるだろう。そういった人に対して、「海外に拠点がある」ということは、きっと魅力的に映るはずだ。例えばシリコンバレーに拠点を置くことで、ITに強い、というイメージを与えることもできる。こういった、企業のブランド戦略、ブランドイメージの観点から、海外拠点が有効に働くことも多い。
3. 資金の面でもリスク分散が可能
今や、多くの企業が、すでに海外と取引を行っているだろう。ということは、つまり、円以外の通貨でビジネスを行っていることになる。この観点で見ても、海外拠点にはメリットがあるといえる。
例えば、海外法人であれば、現地の銀行とも取引をすることになる。そうすると、海外の現地企業との資金決済のスピードや手数料の面で、日本の銀行を介して行うよりもスムーズに行うことができる。結果、ビジネスの面でメリットになることも多いのだ。
さらに、一般的に海外の通貨でお金を持っておくと、日本円に比べて高い銀行金利を得ることができるし、加えて、為替が変動したときのリスクヘッジになることもある。海外拠点を持つことで、資金面でのリスク分散をすることが可能になるのだ。
4. 海外拠点を持つことで、節税もできる
税金の面でも、海外拠点を持つことのメリットがある場合がある。
現在、日本の法人税は約30%である。法人住民税などを入れると、決して諸外国と比べて低い数字ではない。しかし、法人税の低い国で事業を行うのであれば、拠点を設立することで、節税ができるケースもあるだろう。例えば、シンガポールであれば、法人税は17%と、日本に比べて10%以上低い税率になっている。さらに、シンガポールには、さまざまな税制優遇施策があり、それらを利用すると、17%より低い税率でビジネスをすることが可能になるのだ。シンガポール以外にも、法人税が安い国というのはいくつかある。そういった国に拠点を置くことで、こういった優遇税制の恩恵を受けることもできるのだ。
海外に会社を持つことにリスクはある?デメリット2つ
ここまで主にメリットについて紹介してきたが、海外に法人を作ることは、決してメリットばかりではない。当然ながら、デメリットもあるのだ。主なデメリットを紹介しよう。
想定通りにビジネスが進むわけではない
海外では、日本とはビジネスのスピードが異なることも多くある。そのため、「環境が魅力的だから」という理由だけで進出するのは、リスクが大きいかもしれない。
例えば代表的なものとして、「東南アジアは賃金が安いため、製造拠点の移動を考えている」というケースがあるとしよう。確かに、現状、東南アジアの賃金は日本に比べると低い。しかし、ここ10年で、各国の賃金水準は上がっており、10年前の2倍を超えている国もあるのだ。
各国の法改正により、外資に対する規制が変わるというケースも散見される。このように、特に途上国においては、これまでのビジネス環境が通用しないケースも多くあるのだ。少しのメリットのために大きなリスクを取る必要はないかもしれない。きちんと大きなリターンがあるかどうかを、事前に確認する方がよいだろう。
節税がうまくできないケースも
節税という観点で海外拠点を検討する人も多いが、必ずしも節税がうまくいかないケースもあることは、注意しておきたい。
国によって税制に違いがある中で、多くの企業は、税金が安い国に利益を移転したいと考える。しかし、法律上、そこには制限がかかっているのだ。
日本の場合、主に「タックスヘイブン対策税制」と「移転価格税制」というものがある。「タックスヘイブン対策税制」は、タックスヘイブンと呼ばれる税率が20%未満の国での利益は、日本の親会社の利益に合算して、そこから法人税を計算するという制度であり、海外での税制メリットがなくなってしまうという仕組みだ。一方、「移転価格税制」は、海外子会社に不当に安い価格で販売することで、国内の利益を圧縮し、海外子会社に利益を与えることを防ぐ法律である。このように、無理な節税のために海外拠点を設立することは、結果として、メリットにならないことも多いのだ。
もし、海外を使って節税をすることを主目的にするのであれば、海外不動産の方が、簡単で始めやすいかもしれない。海外不動産は、中古の不動産を買って、減価償却で損金を出し、節税をする方法だ。日本と異なり、海外では中古の不動産でも建物価格の価値が変わらず、大きく残っているものも多い。こういったスキームを活用することで、比較的リスクも小さく節税をすることが可能なのだ。ただし、海外不動産についても、必ずしも節税ができるわけではないことは、留意した方がよいだろう。
海外支店?駐在所?海外に拠点を置くなら何がいい?
上記のことを検討しつつ、それでもやはり、海外に拠点を置くことが、メリットが高いと判断した場合は、まず、海外にどのような拠点を置くかを検討していく必要がある。主に検討できるのは、海外駐在員事務所、海外支店、現地法人の3つだ。これらの3つについての特徴、それぞれのメリット・デメリットを解説しよう。
海外駐在員事務所
海外駐在員事務所は、この3つの中で最も手ごろな拠点といえるだろう。
最も注意しておきたいのは、海外駐在員事務所は海外支店や現地法人と異なり、現地での事業をすることが認められていない点だ。できることは、マーケティングや情報収集など、売り上げを伴わない活動に限定されているのだ。つまり、海外で事業を行って売り上げを上げたい場合は、海外駐在員事務所は、そもそも作る意味がないということになる。
駐在員事務所においては、その活動が限定されているがゆえに、基本的には現地で課税されることはない。そのため、海外の税制を活用することもできない。海外で恒久的にビジネスをするという目的ではなく、まずビジネスがうまくいくかの情報収集などのために設立すると理解しておけばよいだろう。
海外支店
海外支店は、海外駐在所とは異なり、現地で商売をし、売り上げを上げることができる。逆に言うと、海外で税務申告する必要があり、海外の税制を活用することができるだろう。
海外支店は、日本における大阪支店などと同様の考え方だ。基本的には、日本の本社がすべての会計をコントロールすることができる。つまり、海外支店でかかった経費なども、最終的には、日本の法人で申告することができるのだ。
一方で、海外支店を活用して売り上げが発生すると、現地でも申告をする必要が出てくる。そのため、海外で得た売り上げた利益は、日本と現地で、二重課税になってしまうことに留意が必要だ。ただし、この二重課税分については、外国税額控除というルールにより、日本の税金から控除することができるので、税金がかかりすぎるということはない。ただ、現地の税務申告をするために、税理士を探す必要などは出てくる。
海外支店の場合は、最終的な損益は日本の会社が一括で請け負うことになる。そのため、現地法人で出た赤字を吸収できることも大きなメリットだといえるだろう。また、本支店の関係であるため、資金やリソースの融通も比較的簡単であることもメリットの1つだ。
現地法人
現地法人は、上記の2つとは異なり、完全に独立した会社を海外に設置することになる。海外支店との最も大きな違いは、「子会社は単独で決算を行う必要がある」ということだ。売り上げも経費も利益もバラバラになるので、基本的には日本の会社は、出資関係があることを別として、海外子会社の影響を受けない。一方、まったく別会社なので、定款なども別に用意する必要があるし、税務や労務なども完全に独立して行う必要があるため、事務作業などは煩雑になる。
こういった煩雑さを除けば、現地を法人化することで、仮に現地子会社が赤字になっても影響は限定的であるし、海外子会社から出る配当金については税制メリットがある部分もある。海外支店と現地法人は、それぞれでメリット・デメリットがあるので、両者の違いを整理しながら、どちらがいいかを考える必要があるだろう。
実際に海外現地法人を作るには?ポイントをチェック
実際に現地法人を作ろうとしたときは、どのような流れになるのだろうか。注意点も併せて解説する。まず、一連の流れを見てみよう。大まかにいうと、海外法人を作るためには、主に4つのステップで検討する必要がある。
1. 目的、ゴールの設定
最初は目的の設定だ。上記でも述べたように、海外法人を作るためには、何かしらの目的があるはずだ。しかし、あるときから、海外進出そのものが目的になってしまい、結果、進出したはいいものの、そこから先の成長の絵が描けないケースや、勧められるがままに海外進出をしたが利益も出ず、撤退も難しいというケースもある。
まずは、本当にその国に進出する必要があるのか、国内で完結できないか、現地のパートナーを活用できないかなど、本当に進出すべきかどうかは、よく考えた方がよいだろう。
2. 進出計画を立案
目的が明確化され、進出すべきだという結論になったのであれば、次は、進出計画を立案する必要がある。最初は大まかで構わないので、全体的なプランを立案することが重要だ。
進出計画を立てるポイントとしては、まずは、目標をきちんと数値化することだろう。例えば、売り上げアップを目的とした場合は、△年後の売り上げが△百万円、利益が△百万円と計画を立てる。労働力を求めて海外進出する場合は、コストを△円削減するなど、数値化することで目標が具体化してくるのだ。
目標を数値化すると、具体的に、いつまでに何をすべきかが、なんとなく見えてくるのではないだろうか。そうすると、立てた目標が、現実的かどうかもわかってくるはずだ。もし、あまりに現実味がないようなら、そもそも目的の設定が間違っている可能性もあるので、その場合は、目的の設定からやり直す必要がある。
3. 国内での予備調査、現地調査
計画が立案されたからといって、すぐに海外進出してはいけない。海外進出というものは、思ったよりコストがかかり、簡単に撤退できるものではない。まずはしっかりと調査を行い、本当に進出できるのか、現地に規制はないのか、きちんとパートナーを見つけることはできるのかなどといった点を確認すべきだろう。国内で調べられることは調べ、仮説が正しいかどうかを海外で検証する。そういった手間を惜しまないことが、海外進出成功のポイントだろう。
4. 海外進出(現地法人設立など)
上記のように調査を行い、成功する見込みがあると思えた場合、いよいよ実際に海外進出することになる。海外で支店や法人を作る場合は、各国の法律や規制に照らし合わせ、会社設立を行うことになる。国によって手続きなどは違うので、現地で信頼できるパートナーを事前に見つけておくことが、成功のポイントになるかもしれない。
頼れる専門家を見つけよう
海外進出を始めるにあたって、各国の法律や規制に精通している必要がある。ビジネスが実際に始まっても、現地の税制など、日本ではなかなかわからないことにも対応していく必要がある。販売先の開拓なども重要なポイントになってくるだろう。こういった、現地ならではの業務を、きちんとサポートしてくれる専門家がいるといないとでは、海外で成功する確率は大きく変わってくるだろう。
できれば、日本でも現地でも、きちんとあなたの会社をサポートしてくれる体制を作ることも非常に重要だ。例えば日本では、JETRO(日本貿易振興機構)が海外進出のサポートやアドバイスをしてくれるケースもある。何か、海外進出で悩んでいるのであれば、彼らを頼ってみるのも1つの方法だろう。
リスクも大きいが、メリットも大きい海外進出
このように海外進出と一言でいっても、そんなに簡単に済む話ではなく、日本でビジネスを行うのに比べて、ハードルは何倍も高くなる。しかしその分、成功すると、日本では得られないメリットを得られる可能性を秘めている。
いきなり進出するのは無謀だが、日本にいながら、海外に関する情報収集などは十分可能だ。もし、海外でのチャンスがあると思うのであれば、まずは日本での情報収集、専門家探しから始めてみてはいかがだろうか。
文・THE OWNER編集部
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