決算書は、企業の業績・財務内容や資金の流れなどを確認できる重要な資料だ。決算書の内容を理解できれば、その企業がどのように資金を調達して投資をし、利益を上げているかを把握できる。今回は、決算書の中で特に重要ないわゆる「財務3表」の内容や見方、財務3表のそれぞれのつながりなどについてお伝えする。

いわゆる「財務3表」とは?

決算書の見方,財務3表
(写真=PIXTA)

財務3表とは「損益計算書」「貸借対照表」「キャッシュフロー計算書」の3つを指す。

1.損益計算書
こちらは文字通り、その企業の1年間の損益を計算してまとめたものである。売上高から様々な費用を差し引き最終的な利益を算出する表で、1年間にどれだけの利益を上げられたかを確認できる。

2.貸借対照表
こちらは事業活動を行うにあたって、どのように資金調達を行い、その資金をどのように運用しているかを確認できる。「資産の部」「負債の部」「純資産の部」に分かれており、期末時点に企業に存在する財産の一覧表とも言える。

3.キャッシュフロー計算書
こちらは、企業の1年間の現金の動きを表にしたものだ。損益計算書や貸借対照表では現金の流れは把握できないため、これを作成することが多い。「営業活動」「投資活動」「財務活動」に分けられ、キャッシュフロー表が作成される。これらの活動による現金や資産・負債の増減を確認できる。

以上が財務3表の概要だ。しかし、なぜこの3表が重要とされるのだろうか。

決算書は関係者に自社の状況を正確に知らせる役割

そもそも、決算書は何のためにあるのだろうか。最大の目的は、その企業の利害関係者(ステークホルダー)に、経営状態や財務内容を正確に知らせることだ。決算書はステークホルダーにとって重要な情報源であり、取引・出資・商品購入などを行う際の判断材料になる。企業には、主に以下のようなステークホルダーが存在する。

・出資者(株主など)
出資者にとっては、その企業に投資することによって利益を得られるかどうかが最大の関心事だ。業績が良ければ株が値上がりしてキャピタルゲインを得たり、配当金を受け取ったりできる。

・債権者(金融機関など)
債権者にとっては、その企業に融資した資金を回収できるかどうかが重要だ。これまでの業績や資金繰りなどを決算書で確認し、融資を行うかどうかを判断することになる。

・経営者
経営者は、計画通りに利益を出せているか、財務内容や資金繰りに問題はないかなど、要するに会社がうまく回っているかどうかを決算書で確認できる。

・従業員
従業員は、自社が利益を上げているか、業績は伸びているか、将来性はあるか、などが気になるだろう。業績が良ければ自分の給料にも反映される可能性があり、そうなれば勤労意欲の向上にもつながる。それは、企業が優秀な人材を採用できることにもつながる。

・取引先
取引先にとっては、その企業に商品を卸している場合は売掛金が回収できるのか、その企業から材料などを購入している場合は今後も安定的に供給してもらえるのかなど、その企業と取引を続けていても問題ないかが気になるはずだ。これは、新規取引を考えている場合も同様である。

・顧客
顧客にとっても、業績が悪く倒産しそうな企業の商品を好んで買うことはないだろう。業績が良ければ研究開発費をかけられるので、さらに良い商品が販売される確率が高くなる。顧客はそのような企業を信頼し、ファンになっていくものだ。

このような様々なステークホルダーから信頼を得ることができれば、収益向上や事業規模の拡大、資金調達や人材確保もやりやすくなる。そのために企業は決算内容を公開するのだ。決算書では先にあげた「財務3表」の内容が特に重要である。

損益計算書の内容と見方

損益計算書
 売上高
 売上原価
1.売上総利益
 販売費及び一般管理費
2.営業利益
 営業外収益
 営業外費用
3.経常利益
 特別利益
 特別損失
4.税引前当期純利益
 法人税等
5.当期純利益

上記は損益計算書の一例だ。損益計算書には1.から5.まで、5つの「利益」が存在する。上から順に見ていくとそれぞれの利益を把握しやすいため、順に説明していく。

1.売上総利益
商品やサービスを販売して得た「売上高」から、販売するために直接かかった「売上原価」を差し引くことで「売上総利益」が求められる。いわゆる「粗利」と呼ばれているもので、後述する様々な利益のもとになるものだ。売上総利益の割合が高いほど、商品やサービスの付加価値が高いということになるため、その企業の競争力を判断する指標にもなる。

2.営業利益
売上総利益から「販売費及び一般管理費」を差し引いたものが「営業利益」だ。販売費及び一般管理費には、人件費や交通費、通信費、消耗品費、企業や事務所の賃料、リース代、広告宣伝費、減価償却費など、その企業が商品やサービスを提供するための活動に関わるすべての費用が含まれる。したがって、営業利益はその企業が「本業でどれだけ利益を上げているか」を確認するための指標と言える。

3.経常利益
営業利益に「営業外収益」を加え、「営業外費用」を差し引いたものが「経常利益」だ。営業外収益には保有している株式からの配当金や預貯金などからの受取利息、外貨金融資産や商品の売買によって発生する為替差益などが含まれる。営業外損失には、支払利息や為替差損などが含まれる。経常利益は、本業を含むすべての事業活動で利益を上げているかを確認できる指標と言える。

4.税引前当期純利益
経常利益に「特別利益」を加え、「特別損失」を差し引いたものが「税引前当期純利益」だ。特別利益には固定資産や有価証券の売却益など、特別損失には固定資産や有価証券の売却損、災害や損害賠償による損失が含まれる。これらの利益・損失は経常的なものではなく、その期にだけ特別に発生するものなので、経常利益を計算した後に加減し、区別している。

5.当期純利益
特別利益・特別損失を加減すれば、1年間の「税引前当期純利益」が確定する。そこから法人税などを差し引くことで、最終的な「当期純利益」が確定する。これが、いわゆる「最終利益」と呼ばるものだ。

このように、損益計算書には5つの「利益」が存在し、それぞれの意味合いは異なる。

また、損益計算書では以下の3つの「利益率」を見ることで企業の収益性を確認できる。

・売上総利益率=売上総利益÷売上高×100(%)
商品やサービスにどのくらい付加価値があるかを確認する指標

・営業利益率=営業利益÷売上高×100(%)
本業で収益を得る力を確認する指標

・当期純利益率=当期純利益÷売上高×100(%)
すべての事業活動で収益を得る力を確認する指標

さらに、前期と当期などの売上高を比較することで、企業の成長性を確認できる。

・売上高増加率=(当期売上高-前期売上高)/前期売上高×100(%)
前期に対して売上高がどれくらい増加したかを確認する指標

貸借対照表の内容と見方

貸借対照表
3.資産の部
 流動資産
  現金及び預金
  売掛金
  製品



 固定資産
  有形固定資産
  無形固定資産







資産合計
2.負債の部
 流動負債
  短期借入金
  買掛金

 固定負債
  長期借入金
  社債


負債合計
1.純資産の部
 資本金
 資本準備金
 利益剰余金

純資産合計
負債 純資産合計

損益計算書は上から下に見ていったが、貸借対照表は左と右に分けて見たほうが全体を把握しやすい。貸借対照表の右側では企業がどのように資金を調達したか、左側ではその資金をどのように運用しているかを確認できる。右側の「純資産」「負債」、左側の「資産」の順で説明していく。

1.純資産の部
ここには、調達した資金のうち返済する必要がない資金が記載されている。純資産は「自己資本」とも呼ばれる。代表的なものに、出資者から集めた「資本金」や「資本準備金」がある。また毎年得た当期純利益から株主に支払う配当金などを差し引いたものが「利益剰余金」としてここに積み上がっていくことになる。このように、純資産の部には出資者からの資金や事業活動によって得た利益が記載されていて、その企業の土台・骨格を表していると言える。

2.負債の部
こちらに記載されるのは返済の義務がある資金で、「他人資本」とも呼ばれる。負債には、「流動負債」と「固定負債」がある。

流動負債は1年以内に返済の義務があるもの、固定負債は返済期日が1年以上先のものだ。流動負債には金融機関からの「短期借入金」や、商品・原材料などを仕入れた際の「買掛金」などがある。

固定負債には金融機関からの「長期借入金」や、自社が資金調達のために発行した「社債」などがある。負債の部の金額が大きいから財務内容が悪いというわけではなく、調達た資金をいかに効率良く運用しているかが重要だ。

3.資産の部
こちらには、純資産の部・負債の部で調達した資金が、どのように運用されているか記載されている。「流動資産」と「固定資産」に分かれており、流動資産には「現金及び預金」や「売掛金」、期末に自社内に残っている「商品(自己)」などがある。固定資産には「有形固定資産」と「無形固定資産」があり、有形固定資産には企業が保有している土地・建物・装置など、無形固定資産には「のれん」と呼ばれる営業権などがある。

このように貸借対照表は3つの部で構成され、右側の「純資産」と「負債」の合計と、左側の「資産(総資産)」の金額は一致する。

貸借対照表の総資産・自己資本と、損益計算書の当期純利益を見ることで、企業の収益性を確認できる。

・総資産利益率=当期純利益/総資産×100(%)
保有している資産に対してどれだけ利益を上げているかを確認する指標

・自己資本利益率=当期純利益/総資産×100(%)
自己資本に対してどれだけ利益を上げているかを確認する指標

さらに、貸借対照表の以下の項目のバランスを確認することで、企業の安全性を確認できる。

・自己資本比率=自己資本/総資本×100(%)
自己資本と他人資本のバランスを確認する指標

・流動比率=流動資産/流動負債×100(%)
「1年以内に返済する負債に対して、1年以内に現金化できる資産がどれくらいあるか」という短期的な資金繰りの状態を確認する指標

キャッシュフロー計算書の内容と見方

1.営業活動によるキャッシュフロー
 税引前当期純利益
 減価償却費
 支払利息
 売上債権の増減額
 棚卸資産の増減額
 仕入債務の増減額
  小計
 利息の支払額
 法人税等の支払額
営業活動によるキャッシュフロー計
2.投資活動によるキャッシュフロー
 固定資産の取得
 有価証券の取得
 その他投資支出
投資活動によるキャッシュフロー計
3.財務活動によるキャッシュフロー
 短期借入収入
 短期借入返済
 配当金の支払い
財務活動によるキャッシュフロー計
現金及び現金同等物の増減額
現金及び現金同等物の期首残高
現金及び現金同等物の期末残高

キャッシュフロー計算書では、その企業の1年間の現金の増減や期首・期末の残高を確認できる。「営業活動」「投資活動」「財務活動」という3つのキャッシュフローがあり、それぞれの活動で1年間に現金の動きがどれだけあったかも確認できる。

1.営業活動によるキャッシュフロー
こちらでは、事業活動を通じてどれだけの現金を生み出せたかが確認できる。プラスになっていれば事業で利益を上げていることになるが、マイナスの場合は事業を続ける現金が出ていってしまう状態だ。

キャッシュフロー計算書では実際の現金の動きを反映させるため、税引前当期純利益を最上部に記載し、様々な資産や費用の額を加減していく。たとえば2年目以降の減価償却費については、損益計算書には実際には現金が出ていかない費用を計上しているため、キャッシュフロー計算書ではその金額を加えて、実際の現金の動きに合わせるのだ。

2.投資活動によるキャッシュフロー
こちらでは、設備投資や資産の購入など、将来のために資金をどれだけ投資しているかを確認できる。調達した資金を投資に回せばマイナスになり、保有資産などを売却すればプラスになる。プラスになる要因はいくつかあるが、資金不足を補うため資産を売却した場合などは注意が必要だ。

3.財務活動によるキャッシュフロー
こちらでは、金融機関からの借入や社債発行、増資などによる資金調達、借入金の返済や社債の償還など、資金調達や返済の内容を確認でる。プラスの場合は外部から資金を得ていることになり、「積極的な投資のための資金調達」なのか、「資金不足による借入」なのかなど、その目的を判断する必要がある。マイナスの場合は、金融機関への返済や社債の償還などによって負債が減っていることになり、企業の資金繰りにある程度余裕があることがわかる。

このように、キャッシュフロー計算書からは企業の営業活動・投資活動・財務活動を読み取ることができる。

財務3表のそれぞれのつながり

財務3表のつながりを見ることで、企業の業績などが見えてくる。ここでは、財務3表のつながりについてお伝えする。

1.損益計算書と貸借対照表
損益計算書の「当期純利益」と、貸借対照表の「利益剰余金」はつながっている。当期純利益は株主への配当や内部留保などが行われた後の利益だが、それが貸借対照表の利益剰余金に加わって自己資本となる。右側の自己資本が増えれば左側の資産も増え、企業の土台がより強固なものになる。

2.損益計算書とキャッシュフロー計算書
営業活動によるキャッシュフローでは、損益計算書の「税引前当期純利益」から現金の動きを加減するため、損益計算書とキャッシュフロー計算書もつながっていると言える。

3.貸借対照表とキャッシュフロー計算書
貸借対照表の「現金及び預金」と、キャッシュフロー計算書の「現金及び現金同等物の期末残高」もつながっている。実際は完全には一致しないものの、ほぼ同額となる。

このように、財務3表はそれぞれ作成する目的や記載される内容が異なるが、それぞれのつながりを見ることで企業の業績や将来性などを読み取ることができる。

文・THE OWNER編集部

(提供:THE OWNER