本記事は、福島良治氏の編著書『図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編』(きんざい)から一部を抜粋・編集しています

景気指標を理解しよう1

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
(画像=PIXTA)

GDP

景気の状況を示す最も代表的な統計といえば、GDP(Gross Domestic Product:国内総生産) ですが、知名度が高い割には、内容についてあまり理解されていないようです。GDP発表時には、日経新聞でもかなりの紙面を割いて報道されますので、記事の内容が十分理解できるよう、正確な知識をもっておきたいものです。すべての景気指標の基本として、ここでは少し詳しくみていくことにしましょう。

GDPは、国内の経済活動全体の成果を示す代表的な景気指標であり、景気の好不況や経済成長率などは、通常このGDPをもとに議論がなされています。

四半期ごとに速報
GDPは、内閣府から四半期ごとに速報のかたちで発表されています。1次速報値の公表は、通常2、5、8、11月というスケジュールです。ですから、たとえば1〜3月期の数字が明らかになるのは、5月の中旬頃ということになります。

速報値の発表が諸外国に比べ遅いのではという声を受け、以前に比べ、発表は早まりましたが、その分、統計の精度が落ちるので、1次速報値の後、基礎データを補充して2次速報値が1カ月後に発表され、確報は当該年度が終了してから約8カ月後(例年12月頃)に発表されるため、速報値とのかい離が大きいと問題視されることがあったり、時間がかかったりするとの批判もあります。

三面等価の原則
さて、GDPは、日本国内において、一定期間に「新しく生み出された商品・サービス(=付加価値)」を集計したものです。生産によって生み出された付加価値は、雇用者の賃金や企業の利益などのかたちで分配され、最終的にはそれが国内の家庭、企業、政府の支出、および海外の企業、家庭の支出として使われることになります。

ですから、GDPは「生産」されたとき、「分配」されたとき、「支出」されたときの、どの時点で切ってみても必ず等しくなるはずです。これを「三面等価の原則」と呼んでいます。速報では集計のしやすさということもあって、おもに支出面から統計を作成しています。

そこで、支出面からGDP統計をみますと、次の式のようになります。

GDP=民間部門(個人消費+設備投資+住宅投資+民間在庫投資)+政府部門(政府最終消費支出+公共投資など)+海外部門(輸出-輸入)

主要な項目

各部門の主要な項目は、以下のとおりです(カッコ内は統計上の名称です)。

個人消費(民間最終消費支出)
個人による食料品や衣料品、耐久消費財、あるいは各種のサービスなどに対する支出です。日常の支出が中心ですから、他の項目に比べ比較的動きが安定していますが、GDP全体の約50%以上を占める最大の項目ですから、わずかな変動でもGDP全体に大きな影響を与えます。冬の寒さが厳しいとコートや暖房製品が売れて、景気がよくなる、ということです。

設備投資(民間企業設備投資)
企業の設備投資(工場、店舗、機械など)に対する支出であり、GDPの約15%を占めています。企業の経営者の将来見通し次第で大きく変動します。

住宅投資(民間住宅投資)
個人や企業による住宅建設のための支出です。住宅ローン金利や地価の動きに敏感に反応します。GDPに占めるウエイトは3%程度です。

民間在庫投資(民間企業在庫品増加)
企業がもつ原材料や仕掛品、製品などの在庫品の増減のことです。GDPに占めるウエイトはプラスマイナス1%程度と小さいものの、景気の局面によって大きく変動するのが特徴です。

政府支出(政府最終消費支出)
国や地方公共団体からの医療保険の公的負担部分や教育、警察などの公共サービスのことです。GDPに占めるウエイトは20%近くにのぼり、5%程度の公共投資を大きく上回っています。

公共投資(公的固定資本形成)
政府や地方自治体などによる道路や橋などの公共投資に対する支出です。景気刺激のための財政政策の一手段として、不況時には政策的に増額されます。

輸出(財貨・サービスの輸出)
海外への輸出額です。商品だけでなく、サービス(運送、金融、通信など)の輸出も含みます。海外の景気や為替レートの動向に影響されて変動します。

輸入(財貨・サービスの輸入)
日本国内への輸入額です。輸入は日本国内で生産されたものではありませんので、マイナスの項目となります。ですから、「輸入がふえると成長率が低下する」わけです。

ほかに公的在庫投資(公的在庫品増加)があります。また、各項目の総称として、民間部門と政府部門を合わせた「内需」、輸出から輸入を差し引いた「外需」という言い方もよく使われます。

景気指標を理解しよう2

景気動向指数と景気循環

GDPと並んで景気の動きを示す代表的な指標として、景気動向指数と日銀短観があります。

内閣府の公表する景気動向指数は、全般的な景気の方向を把握するために、さまざまな景気指標の動きを統合することによって、景気の現状把握や将来予測のために作成されています。

景気動向指数には、コンポジット・インデックス(CI)とディフュージョン・インデックス(DI)があります。

利用の仕方
CIとDIには、それぞれ、1.景気に対し先行して動く「先行指数」(11指標)、2.ほぼ一致して動く「一致指数」(11指標)、3.遅れて動く「遅行指数」(6指標)の3種類があります。景気の現状把握には一致指数を利用し、先行指数は、一般的に一致指数に数カ月先行することから、景気の動きを予測する目的で利用されます。遅行指数は、一般的に一致指数に数カ月から半年程度遅行することから、事後的な確認に用いられます。

CIは、各指標の変化率を合成する統計的処理を行い、主として景気変動の大きさやテンポ(量感)を測定することを目的としています。一般的に、一致CIが上昇しているときは景気の拡張局面、低下しているときは後退局面であり、一致CIの動きと景気の転換点はおおむね一致します。一致CIに関する内閣府の基調判断は、市場から注目されています。

DIは採用指標のうち改善している指標(鉱工業生産指数、耐久消費財出荷指数、所定外労働時間指数、商業販売額等)の割合のことで、景気の各経済部門への波及の度合いを表します。月々の振れはありますが、一致DIは、景気拡張局面では50%を上回り、後退局面では下回る傾向があります。

CIは、DIでは計測できない景気の山の高さや谷の深さ、拡張や後退の勢いといった景気の「量感」を計測することができます。

DIからCIへ
従来、景気動向指数はDIを公表していましたが、近年、景気変動の大きさや量感を把握することがより重要になっているため、2008年4月以降、CIを中心とした公表形態に移行されています。しかし、DIも景気の波及度を把握するための重要な指標であることから、参考指標として引き続き公表されています。

景気循環
景気には、回復、好況、後退、不況の四つの局面があり、これを「景気循環」と呼んでいます。

好況から後退への転換点を「景気の山」、不況から回復への転換点を「景気の谷」といいますが、内閣府では、景気の転換点を景気基準日付として公表しており、その際の判断の決め手となるのが、ヒストリカルDIの動きです。

基本的には、ヒストリカルDIが50%ラインを下から上へ切る前に「景気の谷」が、反対に50%ラインを上から下へ切る前に「景気の山」があると考えられており、他の主要経済指標の動向や専門家の意見などを参考にして、最終的な決定がなされています。

2019年現在の日本経済は、戦後から数えて第16循環目にあるといわれています。

16循環の始まりの谷は2012年11月とされています。2012年末頃からアベノミクス効果もあり、拡張傾向に進んでいるようですが伸び悩んでいます。なお、内閣府は2019年5月に発表した同3月CI一致指数の基調判断を景気後退の可能性を示す「悪化」に引き下げています。

日銀短観(業況判断DI)

「日銀短観(企業短期経済観測調査)」は、景気や企業業績に関する全国の企業経営者の見方を把握するために日本銀行が行っているアンケート調査です。調査は年4回、3、6、9、12月に実施され、調査月の翌月初(12月分のみ調査月央)に集計結果が公表されています。1957年の調査開始以来長い歴史をもち、情報量の豊富さと速報性を併せ持った、信頼度の非常に高い調査です。

調査対象は、資本金2000万円以上の全国民間企業(金融機関は補完的に別計上)のなかから抽出した約1万社で、アンケートの内容は、1.業況、2.製品需給および在庫水準、3.雇用、4.企業金融などについて企業自身の判断(「良い」あるいは「悪い」、または「過剰」あるいは「不足」など)を聞いたり、5.設備投資、6.企業収益、7.生産および売上げなどについて、実績値や計画値を聞いたりするものです。

そのうち、判断を聞く項目については、数量的な把握が可能なように、景気動向指数に類似した判断指数(DI、ディフュージョン・インデックス)が作成されています。作成方法は、きわめてシンプルで、たとえば、業況判断DIの場合、「良い」「さほど良くない」「悪い」の3種類の選択肢のうち、「良い」と答えた企業が50%、「さほど良くない」と答えた企業が30%、「悪い」と答えた企業が20%あったとしますと、「良い」の50%から「悪い」の20%を差し引いた30%がDIとなるわけです(「さほど良くない」の割合は考慮しません)。

したがって、好況で景気が「良い」と答える企業が多いほどプラスの値が大きくなり、不況で景気が「悪い」と答える企業が多いほど、マイナスの値が大きくなる仕組みとなっています。

短観のなかでは、この業況判断DIが、企業の景況感の変化を敏感に示すものとして最も重要視されています。

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
編著者:福島良治(ふくしま りょうじ)
みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社代表取締役常務、専修大学大学院経済学研究科・早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師、経済学博士。1984年東京大学法学部卒。日本長期信用銀行(同年入行)、日本興業銀行(1998年入行)・みずほコーポレート銀行・みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社に勤務し、2008年より取締役、2018年より現職。

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