本記事は、福島良治氏の編著書『図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編』(きんざい)から一部を抜粋・編集しています

金融マーケットの動きを理解しよう

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
(画像=PIXTA)

金融機関に勤める者にとっては、金融マーケットの日々の動きは常にウオッチしておく必要があります。ここでは、外国為替レート(対ドル円レート)、国内金利、国内株式の価格変動メカニズムについてみてみましょう。

対ドル円レート

対ドル円レートの動向は、貿易立国であるわが国の経済に密接な関連をもっています。

たとえば、円高・ドル安に動いた場合、ドル建てで輸出契約を結んでいる輸出業者は、円での手取り額が減少してしまいます。それを避けるためにはドル建ての輸出価格を引き上げる必要がありますが、そうなると、今度はドル価格が割高になって輸出先での価格競争力がなくなってしまいます。いずれにしても、輸出型の産業にとっては不利に働くわけです。

いまから30数年前、プラザ合意を契機とした急激な円高によって、国内の輸出企業が大きなダメージを受け、景気も急速に悪化したことが、その典型的な例としてあげられるでしょう。プラザ合意とは、1985年9月の先進5カ国蔵相・中央銀行総裁会議(いわゆるG5)において決められたドル高是正の合意のことで、プラザの名は、ニューヨークのプラザホテルで開かれたことに由来しています。

この合意により、各国は協調してドル売りの市場介入に乗り出し(協調介入)、 1ドル約240円が1986年夏には1ドル150円台へと、1年足らずの間に一気にドル安(円高)が進行しました。

このときの円高による不況は、一般に円高不況と呼ばれていますが、日本経済が輸出主導型経済から脱皮する大きなきっかけとなりました。為替レートの変化が、単に景気の波に影響を与えるだけでなく、経済構造を変化させる役割までも果たしたのです。

さて、その対ドル円レートは、銀行や為替ブローカー(仲介業者)が参加する外国為替市場で決められています。相場の変動は、外国為替市場における通貨間の売買によって起こりますから、対ドル円レートの場合には、円が売られドルが買われれば円安・ドル高に、逆に、円が買われドルが売られれば円高・ドル安に動くことになります。

売買の際の判断材料にされるのは、基本的には、景気や金利、国際収支の動向ですが、米国FRBなど各国通貨当局の金融政策や売買益をねらう投機筋の動向、各国要人の発言なども大きな影響を与えます。各国による外国為替介入が成功する例もありますが、最近、欧米諸国では市場の動向に任せるという考え方も強くなっています。

国内金利

国内金利と景気の関係には二つの側面があります。一つは、景気の動きに反応して金利が上下するという受動的な面。もう一つは、金利の上げ下げによって景気を抑制したり刺激したりするという能動的な面です。前者はおもに長期の市場金利に表れ、後者は、日本銀行がターゲットとする金利や、短期の市場金利に表れます。

金利の受動的側面についてみてみましょう。景気がよくなれば企業の設備投資など資金需要が増加します。金利は「お金」の値段のようなものですから、お金の需要が増加すると、金利は上昇します。反対に、景気が悪くなって資金需要が減少すると金利は低下することになります。

景気がよくなると、物価が上昇します。日本銀行は物価の安定を金融政策の主要目標の一つにしていますから、物価を沈静化するために金利を引き上げます。反対に、景気が悪化して物価が低下すれば、金利を引き下げます。これが、金利の能動的側面です。

なお、金利は、通常、期間が長いほど高くなる傾向があります。期間が長期にわたれば、物価上昇への思惑(インフレ期待)があったり、貸手の側の貸倒れリスクが大きくなったりするからです。ただし、この先景気が減速し、国債の人気が高まるなど長期金利も低下に向かうという予想が働くときには、短期金利のほうが長期金利よりも高いという長短金利の逆転現象が生じることがあります。

国内株価

新聞やテレビの報道によく用いられている日経平均株価は、株式相場の動向を示す指標として、半世紀以上にわたって親しまれてきた、日本経済新聞社の発表する代表的な株価指数です。

日経平均は、東京証券取引所の市場第一部に上場している株式のうち、取引が活発で流動性の高い主要225銘柄を対象として、それらの株価を単純平均することによって作成されています。ただし、増資などによって株価に変動があった場合には、その影響が取り除かれるよう、計算方法に工夫が施されています。そのようなやや特殊な計算の結果、現在の日経平均株価は、個別の株価とは、水準が大きく異なっていますので注意が必要です。

もう一つ、代表的な株価指数として、東京証券取引所が発表するTOPIX(トピックス、東証株価指数)があります。TOPIXは、1968年1月4日時点における一部上場全銘柄の時価総額(株価×上場株式数)を100として、その後の時価総額を指数化したものです。

TOPIXは、日経平均に比べ、市場全体の動きを反映しているという点で優れていますが、大型株の動きに左右されやすいという欠点も指摘されています。ただ実際には、日経平均とTOPIXはほぼ同様の動きを示しています。

そのほか、ベンチャー企業などが上場している新興市場の株価の動きを示す指数として、ジャスダック株価指数、マザーズ指数などがあげられます。

株価は、企業業績の影響を強く受けます。企業の業績がよければ株価は上昇しますし、業績が悪化すれば株価も低下します。もっとも、企業の業績発表の頻度はせいぜい四半期ごとですから、日々の株価の動きは、企業業績に影響を与える景気動向や金利、為替相場、内外の政治情勢や金融政策、海外(特にニューヨーク)株式市場などに敏感に反応する性格をもっています。結果として、景気の動きを先取りしやすく、「景気の鏡」「景気の先行指標」などとも呼ばれています。

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
編著者:福島良治(ふくしま りょうじ)
みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社代表取締役常務、専修大学大学院経済学研究科・早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師、経済学博士。1984年東京大学法学部卒。日本長期信用銀行(同年入行)、日本興業銀行(1998年入行)・みずほコーポレート銀行・みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社に勤務し、2008年より取締役、2018年より現職。

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