本記事は、福島良治氏の編著書『図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編』(きんざい)から一部を抜粋・編集しています

統計数値を理解しよう

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
(画像=PIXTA)

景気指標についてよく使われる統計数値は、新聞記事などでも当然のように出てきますので、しっかり理解しておきたいものです。以下では、基本的なものをあげてみました。

名目値と実質値

あるデパートの売上高が1年間で100億円から120億円に20%伸びたとしましょう。なかなか高い伸びですが、これをみて、売上げの数量が20%増加したとみるのはやや早計です。

1年間に商品価格が10%上昇していたとすると、実際の商品の売上数量の増加率は9%にすぎません。この場合、価格が1年前と同じであったとして計算すると、このときの売上高は109億円ということになります。

このように、価格で表される経済指標は、物価の変動を調整していない生の数値(名目値)と、物価変動を調整した数値(実質値)とを、分けて考えることが必要です。

実質値は、名目値をデフレーターと呼ぶ物価指数で割ることにより求めることができます。これを実質化といいます。実質値は、物価の影響を取り除いた、文字どおり実質的な経済活動の状況をみることができる数値として、GDPをはじめ、多くの指標で用いられています。

季節調整値

経済活動を1年間通してみると、季節によって一定のパターンをもつものが多いことに気がつきます。たとえば、小売業の売上高は、通常、企業・学校の年度末に当たる3月やボーナスが支給される6~7月、12月に大きく伸び、逆に、気候が厳しかったり営業日数が少なかったりする2月、8月には、客の集まりが悪く、大きな落込みを示します。

このように、気候や社会的制度・慣習などの影響によって一定の季節パターンをもつ景気指標の場合、そのままの数値(原数値といいます)を比較したのでは、振れが大きく、前月や前期と比べ好調なのか不調なのかが判断できません。そこで、季節パターンによる振れを統計的な手法で取り除いた季節調整値というものが作成されています。

具体的には、たとえば2月の数字をある一定率上昇させる一方、3月の数字をある一定率低下させるようなかたちで1年分をならすように調整します。調整には季節パターンを指数化した季節指数を用います。新聞などでは、「季調値」あるいは「季調済」などと略されることも多いようです。

季節調整値がよく用いられている指標としては、GDPのほか、商業販売額、鉱工業指数、機械受注額、完全失業率、有効求人倍率などがあります。

前月(期)比と前年同月(期)比

景気指標が発表される際に注目を集めるのは、多くの場合、前月(または前期)に比べてどれだけ伸びたか、または、前年の同月(または同期)に比べてどれだけ伸びたかという「伸び率」です。

前者を前月比もしくは前期比、後者を前年同月比もしくは前年同期比と呼んでいます。

前月(期)比
前月(期)比は、1カ月から3カ月という非常に短い期間の伸び率であり、主として足元の変化の勢いをみるのに適しています。為替や証券ディーラーなど、相場を日々追っている人たちが景気指標をみる場合には、前月(期)比に注目することが多いようです。

前月(期)比は、比較する数値の季節が異なり、季節変動の影響を受けやすいため、季節調整値を用いて計算されるのが普通ですが、それでも、季節パターンがきれいに除去できない統計などでは、月(期)によって、プラスになったりマイナスになったりといった、極端な振れが表れることも少なくありません。

前年同月(期)比
一方、前年同月(期)比は、1年前の同時期と比べた伸び率であり、主として変化の基調をとらえるのに適しています。同じ季節の数値を分子・分母として計算するため、季節パターンの問題は発生せず、原数値でもそのまま比較することが可能です。ただし、前年の同月(期)に特殊な要因(たとえば消費税率の変更など)があった場合などには、その影響で伸び率が攪乱されてしまうので注意が必要です。

指数

ある時点の数値を基準として定め、それ以外の時点の数値を、その基準を100とした比率のかたちで表したものを指数と呼んでいます。

たとえば、2015年に1台150万円したある自動車が、2019年には165万円に値上がりしていたとします。

2015年の価格を基準としますと(このとき、2015年を「基準年」と呼びます)、2019年の価格指数は、

165万円÷150万円×100=110

となります。2015年の100に対し、2019年は110ですから、この間に自動車の価格は10%上昇したことがわかります(もちろん、品質の向上や装備の充実はなかったものというのが前提です)。

このように、指数化することによって、単位が取り除かれ、かつ100を中心とした数字に置き換えられるため、個別商品の価格の動きがわかりやすくなるほか、価格水準の異なる商品についても、価格の変化を容易に比較できるというメリットがあります。

総合指数
世の中には数え切れないほど多くの商品があり、価格の動きもさまざまです。そこで、商品全体の価格の動きを「まとめて把握する」ために、個別の指数を一つの指数に統合することが行われています。このような指数を「総合指数」といい、各商品の指数をその商品の消費量のウエイトで加重平均することによって作成されます。企業物価指数や消費者物価指数などは、特に断りがなければ、通常この総合指数を指しています。

その他にも、指数がよく使われる例として、生産、出荷、在庫に関して数量の変化を指数化した鉱工業指数、賃金の変化を指数化した賃金指数、商業販売額の変化を指数化した商業販売額指数、各省庁の消費統計を加工・統合した消費総合指数などがあります。

図説 金融ビジネスナビ2020 情報リテラシー向上編
編著者:福島良治(ふくしま りょうじ)
みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社代表取締役常務、専修大学大学院経済学研究科・早稲田大学大学院経営管理研究科非常勤講師、経済学博士。1984年東京大学法学部卒。日本長期信用銀行(同年入行)、日本興業銀行(1998年入行)・みずほコーポレート銀行・みずほ第一フィナンシャルテクノロジー株式会社に勤務し、2008年より取締役、2018年より現職。

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