短期的な収支より、LTVを追求せよ
日本企業は、「赤字」という言葉にもアレルギーがあります。
経営においても、四半期や単年度の決算が黒字か赤字かで一喜一憂します。
しかしSQMの時代に重要なのは、短期間のP/Lにこだわるより、「ライフタイムバリュー(Life Time Value=LTV)」の最大化を追求することです。
これは「一人の顧客が一生にうちにもたらしてくれる価値」という意味です。
つまり、商品やサービスを1回売ったら終わりではなく、いかに継続して利益を獲得できるかが勝負になります。
人々が求めるものは「所有価値」から「体験価値」へ移っています。
購買が「もの単位」だった頃は、プロダクトを1度売ってしまったら、顧客との関係はそこで途切れました。
いかし、プラットフォームやサブスクリプションモデルのビジネスでは、1度「体験価値」を売った後も継続して顧客とつながることができます。パーソナライズも、会員制などの囲い込みモデルと相性がいいので、やはり顧客と継続して接点を持ちやすくなります。
リピート購入を促したり、オプションをつけて新たな価値を提供したりしながら、一人の顧客から長く利益を獲得しやすい環境になっているのです。
孫社長が言う「牛のよだれのようなビジネス」とは、「LTVが大きいビジネス」と言い換えられるわけです。
サブスクなら市場と対話して資金調達できる
では、LTVを追求するには何が必要か?
では「企業価値」です。
要するに、「株式市場がその会社の価値をどう評価するか」が重要になるということです。
短期的には赤字になっても、「このビジネスは継続性があり、高いLTVを獲得できる」と市場が判断すれば、企業は資金調達しながら事業を拡大していくことができます。
例えばNetflixは2018年のはじめに、約8,000億円の予算を投じてコンテンツの充実を加速させると表明しています。
なぜこれほど巨額の投資が可能かといえば、市場がNetflixのビジネスを高く評価しているからです。
2017年10月には16億ドルを、2018年4月には19億ドルを市場から調達。さらに同年10月には、過去最高額となる20億ドル(約2,250億円)の増資を発表しました。
市場が高く評価する理由は、サブスクリプションなら企業価値が明快だからです。
定額制なので、顧客数や継続率を掛け合わせれば、将来にわたるキャッシュフローがすぐに計算できます。もちろん、顧客数や継続率の数字は上下する可能性がありますが、過去からのデータをもとにすれば一定程度の確度で予測できます。
それに対し、映画製作は資金調達がしにくいことで有名です。有名な監督や俳優の作品でも、「資金集めに苦労した」という話をよく耳にします。
これは映画の場合、その1本だけで勝負が決まってしまうからです。大ヒットするかもしれまいし、大コケするかもしれない。まさに一か八かの賭けのようなものです。
そんな確度の低いものに、投資したいと考える人はほとんどいないでしょう。だから資金調達が難しいのです。
でも定額制の映像配信サービスのように、LTVが見通せるビジネスモデルなら、市場と対話しながら必要に応じてお金を集めることができます。
よって市場も、短期的な赤字はさほど気にしません。特に新規事業の場合、一時的な赤字は織り込み済みです。
Amazonが黒字化するまで、創業から10年近くかかったことはよく知られています。
その間、積み上がった累積赤字はなんと1兆円。それでもAmazonは、流通や在庫を自社で管理するための投資を続け、競合のECサイトにはない圧倒的な利便性を武器に企業価値を高めていきました。
その結果、Amazonは圧倒的多数のユーザーに選ばれる企業になったのです。
同社が独占企業とまで言われるほど成長できたのは、短期的な赤字はものともせず、長期的なLTVを追求したからです。