商品がありふれた現代市場では、従来の販売手法が通用しない分野も見られる。そこで新たな手法として注目されているのが、コンサルティングセールスと呼ばれるものだ。
成約数の増加につながる可能性があるため、経営者はいち早く基礎知識を身につけておこう。

コンサルティングセールスとは?

現代市場,コンサルティングセールス
(写真=PIXTA)

コンサルティングセールスとは、豊富な商品知識を有するセールスマンが顧客に対してきめ細かく対応する販売手法のこと。いきなり商品を売り込むのではなく、まずは顧客が抱えている課題を聞き出し、その解決策を提案するような形でセールスを進めていく。
概要だけを見ればシンプルな販売手法に見えるかもしれないが、コンサルティングセールスを成功させることは決して簡単ではない。そもそも、セールスマンの話を顧客が聞いてくれるとは限らないし、やっとの思いで課題を聞き出したとしても、それが本当に感じている課題かどうかはわからないためだ。
顧客が抱えている「本当の課題」を聞き出すには、信頼関係を築くことが何よりも重要になる。そのためには、企業が各セールスマンを支援する組織体制を整え、さらに必要なスキルを備えたセールスマンをしっかりと育成する必要があるだろう。

コンサルティングセールスの必要性とメリット

コンサルティングセールスは、いわば顧客自身が気づいていなかった「潜在ニーズ」を明らかにし、そのニーズに対応していく手法。従来とは市場環境が大きく変わった日本において、ニーズを拡大できるコンサルティングセールスは大きな武器になり得る。
すべての企業に該当するわけではないが、世の中には期待通りに売上が伸びない中小企業が多く存在する。その要因のひとつが、「モノが売れない時代」とまで言われる市場の変化だ。
現代社会にはモノがありふれており、商品・サービスを差別化することが難しい。また、消費者に多様な価値観が生まれたことで、これまでの広告手法は通用しなくなってきている。
株式会社アタックス・セールス・アソシエイツが2019年に実施した以下の「日本の営業実態調査2019」からも、世の中のセールスマンが苦しんでいる様子が見て取れる。

〇「昨年度、数値目標を達成したか?」に対する回答
回答結果 割合(回答数:2,683名)
はい 47.3%
いいえ 46.1%
わからない 6.6%

(※出典 http://attax-sales.jp/news/6025/)

上記のデータを見てわかる通り、セールスマンの約半分はノルマを達成できていない状況といえる。市場の状況はすぐには変わらないため、多くの中小企業は生き残りをかけて何かしらの対策を練る必要があるだろう。
そこで注目したい販売手法が、今回解説するコンサルティングセールスだ。以下にまとめた通り、コンサルティングセールスにはさまざまなメリットがある。

企業に発生するメリット セールスマンに発生するメリット
・顧客の満足感や納得感を高められる
・成約率や成約数をのばせる
・売上単価がアップする
・口コミが増える
・クロスセルにつながりやすい
・商品を単体で売り込むストレスから解放される
・断られる場合でも、柔らかい態度で接してもらえる可能性が高い
・顧客から感謝されることも
・営業に対してやりがいを感じやすい

売上増につながる点はもちろんだが、セールスマンのストレス軽減につながる点も軽視できない。各セールスマンの営業成績があがり、営業に対して自信を持てるようになれば、貴重な人材の定着にもつながっていく。

コンサルティングセールスに適した商品とは?

コンサルティングセールスは、どのような商品でも通用する万能の手法ではない。これはほかの販売手法にも言えることだが、コンサルティングセールスには適した商品と適さない商品がある。
では、具体的にどのような商品が適しているのかについて、その理由とともに以下でいくつか例を見ていこう。

1. コンピュータやシステム関連の商品

たとえばパソコンやソフトウェアなどの商品は、購入するものを選ぶ際に高度な専門知識が必要になる。さらに、IT化が進んだ現代市場には同様の商品があふれているため、顧客からすれば各シーンに最適なものを選ぶハードルが高い。
なかには、そもそも「どのような機能が必要になるのか?」や「何を重視して選ぶべきか?」を判断できていない顧客も存在する。このような状況下で効果を発揮する販売手法が、まさにコンサルティングセールスだ。
セールスマンがうまく潜在ニーズを聞き出し、さらにそのニーズを満たせる商品を提案できれば、購入につながる可能性が一気に高まるだろう。

2. 衣料品や装飾品、化粧品など

衣料品や化粧品のように、センスや嗜好性で判断される商品もコンサルティングセールスに適している。これらの商品には万人に共通する評価基準が存在せず、さらに外見やほかの品物との組み合わせも考える必要があるため、最適な商品を提案されることで喜ぶ顧客は多いはずだ。
ただし、セールスマンのセンスやファッション性に関して、顧客からの信用を得ることが前提となるため、成約に結びつけることは決して簡単ではない。

3.自動車や住宅などの高額商品

自動車や住宅は、顧客のライフスタイルに大きな影響を及ぼす商品だ。さらに数百万円~数千万円と価格も高額であるため、「絶対に失敗したくない」と感じている消費者は多い。
つまり、これらの高額商品を購入する顧客は、購入に自信を持てるだけの専門的なアドバイスを求めている。信用できるセールスマンが、不安を払しょくさせてくれるような商品を提案してきたら、前向きに購入を検討し始めるだろう。

ここまでを見てわかる通り、コンサルティングセールスに適している商品にはいくつかの特徴が見られる。たとえば、以下の特徴に該当する商品・サービスを取り扱っている場合は、コンサルティングセールスに取り組むことで売上増につながる可能性があるだろう。

〇コンサルティングセールスに適している商品の特徴
・商品選びの際に、専門的で高度な知識が求められる
・万人に共通する評価基準がなく、購入の判断に迷いが生じやすい
・センスや嗜好性など、曖昧な評価基準で購入するものが選ばれている
・購入後のライフスタイルに大きな影響をもたらす
・商品選びの際に不安を感じやすい
・販売金額が非常に高い

上記で紹介した以外にも、たとえば資産運用に役立つ金融商品は、上記の特徴に該当する商品といえる。投資信託などの金融商品は、その仕組みを理解するために専門知識が求められる。さらに、運用成績によってはその後の人生に大きな影響を及ぼすので、購入前に不安を感じる顧客も多いはずだ。
コンサルティングセールスを検討している経営者は、まずは自社の商品・サービスと上記の特徴を比較してみよう。

コンサルティングセールスの基本的な流れと成功のポイント

顧客の潜在ニーズを巧みに聞き出し、さらにそのニーズに対応するためには、コンサルティングセールスの基本的な流れも押さえておく必要がある。また、単純に各工程を進めるだけではなく、成功のポイントを押さえたうえでセールスを進めなければ、成約に結びつけることは難しい。
そこで以下では、コンサルティングセールスの基本的な流れに加えて、各工程のポイントをまとめてみた。将来的に実践することを検討している経営者は、以下の内容をしっかりと理解しておこう。

【STEP1】万全の準備を整える

どのような商品を販売する場合であっても、まずは万全の準備を整えることが必要だ。たとえば、顧客に対応するセールスマンに事前知識がなければ、ヒアリングや提案をスムーズに進めることができない。
コンサルティングセールスの準備を進める際には、主に以下の点を意識する必要がある。

〇コンサルティングセールスの準備で考えておきたいこと
・顧客がどのようなニーズ、課題を抱えているか
・顧客のニーズや課題と、自社の商品を結びつけられるか
・自社の商品やサービスを提案したときに、どのような反応をされるか
・顧客が理解できる言い回しで、商品やサービスの特徴を説明できるか
・契約内容や取り扱い方法について、しっかりと説明できるか

準備の段階でとくに重要なポイントは、顧客のニーズ・課題にマッチした商品を用意しておくこと。また、現場に赴くのは会社ではなくセールスマンであるため、各セールスマンのスキルや事前知識も見直す必要があるだろう。
準備は成功率に大きく関わってくる工程なので、さまざまな事態を想定しながら取り組んでいきたい。

【STEP2】顧客からニーズを聞き出す

万全の準備を整えたら、いよいよ顧客と対面してセールスを進めていく。ここで強く意識しておきたいポイントは、顧客の本音をしっかりと引き出すことだ。
最初から自社の商品・サービスを宣伝していては、顧客からの信用は得られない。自分の話はひとまず脇に置いて、徹底的に顧客の話に耳を傾ける必要がある。そして顧客が抱えているニーズ・課題をある程度把握できたら、さらに深堀りをするために効果的な質問をぶつけていく。
このように、基本的には宣伝ではなくヒアリングに力を入れることが、コンサルティングセールスを成功させる鍵だ。スムーズにコミュニケーションがとれれば、次第に顧客はセールスマンを信用していくため、本音を聞き出せる状況を作れるだろう。

【STEP3】商品やサービスの説明

顧客からニーズを聞き出したら、そのニーズを満たせる自社の商品・サービスを選択する。そして次に行うのは、具体的な商品・サービスの提案と説明だ。
単に自社製品をアピールする方法は、コンサルティングセールスとは言えない。常に顧客のニーズを意識し、あくまでもそのニーズを満たせる最適な手段として、自社の商品・サービスを提案する必要がある。
また、自社製品を説明する工程では、商品・サービスの特徴をわかりやすく伝えることも重要なポイント。とくに専門性が高い自社製品を売り込む場合には、顧客が理解できるように工夫して概要を説明する必要があるだろう。

【STEP4】顧客の説得・反論への対応

商品・サービスの説明が終わった段階では、多くの顧客はまだ不安や疑問を抱いている。その状態では成約に結びつく可能性が低いため、豊富な知識や経験などを駆使しながら、不安・疑問をひとつずつ取り除くことが必要だ。
顧客をさらに説得する方法については、【STEP1】の準備の段階で考えておきたい。とくに反論については事前にしっかりと想定し、顧客が納得できる回答を用意しておくことが望ましいだろう。

【STEP5】クロージング

クロージングとは、営業活動において顧客と契約を締結すること。ここでは単に契約を締結するだけではなく、契約内容や商品の取り扱い方も丁寧に説明しておく。
クロージングに手間取ると、せっかく説得した顧客の心情が揺れ動いてしまうかもしれない。そのため、クロージングの手順も事前にしっかりと確認しておき、説明から契約までをスムーズに進める必要がある。

【STEP6】アフターフォロー

コンサルティングセールスのゴールは、実は成約ではない。アフターフォローによって顧客とさらに良好な関係を築き、リピート率も上げていくことが重要になる。
そのためにはクロージング後も丁寧にアフターフォローを行い、その過程で新たな問題を発見することが必要だ。問題が見つかったら再び【STEP1】の準備に戻り、顧客の満足度を高めるための解決策を用意していく。
つまり、コンサルティングセールスの目標は【STEP1】~【STEP6】を何度も繰り返し、セールス自体の質を上げていくこと。このサイクルを意識できれば、自然と顧客の成約率・リピート率も上昇していくだろう。

コンサルティングセールスで求められる4つの力とは?

コンサルティングセールスに臨むセールスマンには、知識だけではなくさまざまな能力・スキルが求められる。必要な能力・スキルを備えたセールスマンを用意もしくは育成することが、企業がコンサルティングセールスを成功させる鍵となる。
セールスマンのスキル不足を感じている経営者は、以下の内容に目を通しながら採用計画や育成計画を考えていこう。

1.観察力

顧客の潜在ニーズを見抜くには、相手をじっくりと観察する必要がある。顧客が直面している状況を把握し、「何に悩んでいるのか?」や「どうなりたいのか?」を短いやり取りの中で理解しなければならない。
そこで求められる能力が、言葉・表情・態度から相手の気持ちを読み取る「観察力」だ。顧客が本当に悩んでいることを感じ取り、深い理解を示すことが顧客からの信頼、そして成約へとつながっていく。

2.想像力

少ないやり取りから相手の考えを読み取るとき、潜在ニーズに対する解決策を提案するときなど、コンサルティングセールスではさまざまなシーンで「想像力」が求められる。相手の立場になって物事を考えられるセールスマンでなければ、常に求められている提案・情報を発信することは難しい。
コンサルティングセールスは顧客に寄り添うことが原則となるので、普段から顧客になりきって考える癖を身につけておきたいところだ。

3.ヒアリング力

コンサルティングセールスでは、顧客の話を遮ったり否定したりする言動は基本的にNGとなる。短いやり取りの中で信頼関係を築くには、共感を交えながらじっくりと顧客の話を聞かなければならない。
前述の通り、顧客に対しては効果的な質問を投げかけるが、この質問についても短いフレーズに留めることがポイントだ。やり取りのリードはセールスマンが行うものの、「会話の主導は常に顧客」であることが重要になる。

4.論理的思考力

顧客の潜在ニーズに対して提案をするときや、解決策として自社の商品・サービスを説明するときには、「論理的な思考力」が求められる。実際の営業でクロージングまで進めるには、顧客の説得につながるプレゼンが必要になるためだ。
顧客に対して単に自社製品の魅力をアピールするだけでは、成約率を高めることは難しい。聞き出した潜在ニーズと自社製品をすばやく結びつけ、さらに筋の通ったプレゼンを行うことで、顧客の不安や疑問は少しずつ解消されていく。

ほかにも質問力やリード力、相手から信用を得る力など、コンサルティングセールスではさまざまな能力・スキルが求められる。しかし、全ての能力・スキルを備えたセールスマンを見つけることは難しいため、まずは特に重要性が高い上記の4つに目を向けて、採用計画や育成計画を進めると良いだろう。

顧客と対面するセールスマンの質にこだわり、採用活動・人材育成に注力を

コンサルティングセールスは、まさに今の日本市場において重要性が高い販売手法といえる。商品・サービスがありふれた時代だからこそ、潜在ニーズに対する具体的な解決策を提案することが効果的に働く。
ただし、コンサルティングセールスにはさまざまなスキル・能力が求められるので、動き出す前の準備は万全にしておきたい。特に顧客と対面するセールスマンの質は、しっかりとこだわりたいポイントだろう。
現時点でセールスマンの能力・スキル不足を実感している経営者は、今回解説した内容を参考にしながら、採用活動・人材育成に力を入れることが重要だ。

文・THE OWNER編集部

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