シンカー:7-9月期の実質GDPは前期比+0.1%(年率+0.2%)となった。+1%程度とみられる潜在成長率を下回った。しかし、民間在庫の実質GDP前期比寄与度が-0.3%となっており、景気動向は堅調であると考えられる。在庫を除く内需は極めて強かった。在庫を除く内需の実質GDP前期比に対する寄与度は+0.5%(年率+2.1%)となっている。10-12月期の実質GDPは、消費税率引き上げの影響が出るが、政府の消費喚起策や在庫の復元もあるため、軽微な前期比マイナスで収まる可能性がある。政府は1月下旬の通常国会で、GDP対比1%程度の経済対策を実施して、消費税率引き上げの下押しと海外経済の持ち直しが遅れる中、2020年も潜在成長率並みの実質GDP成長率が維持できるようにするだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

7-9月期の実質GDPは前期比+0.1%(年率+0.2%)となった。

+1%程度とみられる潜在成長率を下回った。

しかし、民間在庫の実質GDP前期比寄与度が-0.3%となっており、景気動向は堅調であると考えられる。

在庫を除く内需は極めて強かった。

在庫を除く内需の実質GDP前期比に対する寄与度は+0.5%(年率+2.1%)となっている。

7-9月期の実質消費は前期比+0.4%となった。

4-6月期に10連休となったゴールデンウィーク関連の支出が増加した反動、そして梅雨が長引いたことの悪影響が懸念されていた。

10月の消費税率引き上げの直前の9月末に駆け込み需要(前回の引き上げよりは全体とした小さかった)が出たことを割り引いても、良好な雇用・所得環境を背景として、しっかりとした消費活動が維持された。

企業が魅力的な商品・サービスを提供すれば、消費者がしっかり反応する環境になりつつあるとみられる。

ただ、耐久消費財を中心に、これらの需要が在庫取り崩しでまかなわれたことが、全体の実質GDP成長率が下振れてしまった理由だろう。

民間在庫投資の季節調整済の額は1877億円(4-6月期が1兆9039億円)とほぼなくなった。

7-9月期の実質設備投資は前期比+0.9%となった。

グローバルに景気・マーケット動向の不透明感は強く、輸出環境も弱かったため、製造業の単純な能力増強のための機械投資には減速圧力がかかってきた。

更に、オリンピック関連投資の進捗がピークアウトしてきていることも下押しとなった。

その中でも、製造業と非製造ともに人手不足を背景とした生産性を押し上げるための投資、都市再開発関連投資、成長分野への研究開発投資が強く、設備投資は増加し続けている。

特に、かなり遅れていた中小企業のIT・ソフトウェア投資が爆発的に増加している。

AI、IoT、ロボティクス、ビッグデータ、5Gを含めた新たなテクノロジーの躍進の追い風を着実に受けているようだ。

実質設備投資の実質GDP比率は16%を上回り(7-9月期には16.5%)、バブル崩壊後の最高水準までようやく上昇した。

設備投資サイクルが上方シフトしているように見えることは、企業の期待成長率とインフレ期待が上がってきたことを意味するのかしれない。

設備投資を中心に内需が強く、海外経済の減速に対して頑強であるという判断が、日銀が10月の政策決定会合で追加金融緩和に踏み切らなかった理由である。

実質公共投資は前期比+0.8%となった。

基礎的財政収支黒字化目標は2020年度から2025年度へ先送りされ、安倍首相の自民党総裁の任期末の2021年までの制約はなくなり、財政政策は、デフレ完全脱却のための経済活性化策と災害復旧・防災・インフラ整備と中心に、攻めの緩和へ明確に転じている。

実質輸出は前期比-0.7%と弱かった。

米中貿易紛争による企業心理の悪化は続いているが、4-6月期の同+0.5%を打ち消す程度の軽微な減少であった。

ITサイクルの持ち直しを中心に輸出環境に底打ちの動きがみられる。

4-6月期に大きく増加した反動で実質輸入は前期比+0.2%と、内需の拡大を背景に堅調であった。

外需の実質GDP前期比に対する寄与度は-0.2%と弱いままだった。

10-12月期の実質GDPは、消費税率引き上げの影響が出るが、政府の消費喚起策や在庫の復元もあるため、前期比年率-1.5%程度の軽微なマイナスで収まる可能性がある。

2019年の実質GDP成長率は+1.0%程度と、グローバルな景気・マーケットの不透明感が強く、消費税率引き上げ、そして大きな自然災害がある中でも、潜在成長率なみの水準を維持できると考える。

5月の段階でマーケット・コンセンサスは+0.6%程度と弱かったのは、内需の拡大モメンタムを過小評価していたのだろう。

政府は1月下旬の通常国会で、GDP対比1%程度の経済対策を実施して、消費税率引き上げの下押しと海外経済の持ち直しが遅れる中、2020年も潜在成長率並みの実質GDP成長率が維持できるようにするだろう。

日銀が指摘しているようにデフレ完全脱却へのモメンタムは維持されると予想する。

表)GDPの結果

表)GDPの結果
(画像=内閣府、SG)

図)設備投資サイクル(設備投資のGDP比率)

図)設備投資サイクル(設備投資のGDP比率)
(画像=内閣府、日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司