スタートアップのVC資金調達額は過去最高額を記録し、国内の起業環境が急速に整っている。個人の資産を「金融資本」「人的資本」「固定資本」「事業資本」と分類した場合、個人がビジネスから収入を獲得する「事業資本」について、よりチャレンジしやすくなっていると言えるだろう。
「事業資本」は給与収入を主とする「人的資本」や、金融商品への投資などが含まれる「金融資本」に比べると、青天井で稼げるというメリットがある。その代わり、事業資本を大きく育てるには特殊な知識や素質などが必要となる。
株式会社ドリームインキュベータ執行役員で、投資ファンド「DIMENSION」代表取締役でもある宮宗孝光さんは、これまでに数々の大企業経営者、スタートアップ創業者らと向き合い、ともに歩んできた。
宮宗さんによると、人を惹き付け、事業を拡大し自身の「事業資本」を大きく育てられる経営者には共通点がある。今、国内スタートアップ支援の最前線で働く宮宗さんに「令和の事業資本の育て方」を語ってもらった。(取材・藤堂真衣/写真・森口新太郎)
▼前回までの記事はこちら
・日本のスタートアップ資金調達額が米国の4%に過ぎない理由【特集#19】
・経営者1000人以上と出会い知った「凄い経営者」の人的資本の築き方【特集#20】
東京工業大学大学院を卒業後、シャープ株式会社でDVD用半導体レーザーの開発・量産化に携わる。ドリームインキュベータにて大企業・ベンチャーの戦略策定や採用、M&A、提携といったコンサルティングを行い、3社の上場、3社の東証一部上場企業へのMBOに貢献する。起業家を集めての勉強会も自主的に主宰し、その参加者のうち10名が上場を果たす。現在は国内ベンチャー投資ファンド「DIMENSION」の代表取締役も兼務。
リーダーは「独自のビジョン」を持とう
──前回のインタビューで「凄い経営者」の人的資本の築き方に違いがあると教えていただきました。事業観点、あるいは経営面でも共通点があるのでしょうか。
多くの「凄い人」と出会ううちに、皆さん「独自のビジョン」を持っていることに気づきました。「独自のビジョン」というのは絶対に成し遂げたいと強く思う、オリジナルな世界観とでも言いましょうか。それは誰の指示によるものでもなく、自分の中から湧き出てきたものです。
ネット上で公開されているエピソードですが、PC用メガネを発売し業績を大きく伸ばした「JINS(ジンズ)」社は、上場時は業界で5~6位の企業でした。上場後、赤字に陥ったそうです。JINSの田中仁社長がファーストリテイリングの柳井正氏に経営について相談したところ、「あなたの志は何なのか?」と深く追及され、自分のビジョンを突き詰める必要に迫られたそうです。
それをきっかけに「1番になりたい、世界的なブランドをつくりたい」という思いが固まり、その後、大きく業績を伸ばされていきました。JINS社は、「Magnify Life」という「独自のビジョン」を掲げ、中国事業も成功されていると聞いています。
──出資先の企業を見極める際には、どのようなところに着目していますか。
経営者が「独自のビジョン」を掲げられているか、その掲げたビジョンが“本物”かどうかを見極めるようにしています。
出資を希望する経営者の方については、前職の企業の方や一緒に仕事をしたことがある方にコンタクトをとり、そこでの仕事ぶりをヒアリングするようにもしています。
凄い人・凄そうな人の見極めもですが、どれだけ説明が上手で資料の体裁が整っていても、仕事ぶりには内面がにじみ出ると思っています。ですから、その人がどのような働き方をしてきたかを知ることを、とても重視しています。
「正しい起業家」を応援したい
──「凄い人」をこれから生み出すために、取り組まれていることはありますか。