2020年4月に施行される民法改正がメディアで取り上げられる機会が増えています。なぜ、今回の民法改正の注目度が高いかというと、さまざまな“契約のルールが変更されるから”です。賃貸経営の分野では「現状回復」と「敷金」のテーマがとくに重要。不動産オーナーなら、今回の改正内容についてしっかり把握しておきたいところです。

民法改正のポイント「現状回復」:あいまいな表現を明確化

不動産投資,2020年,民法改正
(写真=FrankHH/Shutterstock.com)

まずは「現状回復」についてですが、これまでの民法では現状回復のルールに関する文言があいまいでした。今回の民法改正では下記のように明記されます。

改正後の民法では,賃借人は,賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うこと,しかし,通常損耗や経年変化については原状回復義務を負わないことを明記しました。
引用:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」

上記のテキスト内の通常損耗とは「普通に使っていて減った分」の意味です。また、経年変化とは「時間の経過と共に住居が損耗すること」の意味です。

よりわかりやすく言うと、「入居した後に生じた傷や破損は入居者に元に戻す義務がありますが、普通に使っていて減った分や時間の経過で変化した分は入居者に元に戻す義務はない」といった内容になります。

現状回復に当たるケース、当たらないケースの一例

民法改正で文言が明記されたとはいえ、それでも一般にはわかりにくい面もあります。そのため法務省では、通常損耗・経年変化に当たる(または、当たらない)ケースを紹介しています。

[通常損耗・経年変化に当たる例=借主が現状回復をしなくても良いケース]
・ 家具を設置したときについた床や(備え付けの)カーペットのへこみ
・ テレビや冷蔵庫の裏側の壁面に付く電気ヤケ
・ 地震で破損してしまった窓ガラス
・ 鍵の取替え(ただし、破損・紛失以外)

[通常損耗・経年変化に当たらない例=借主に現状回復義務あり]
・ 引っ越し作業で室内に付いたひっかきキズ
・ 不適切な手入れ、もしくは通常とは異なる使い方による設備などの故障
・ 室内でタバコを吸ったことで付いたヤニや臭い
・ 室内で飼育していたペットによる柱などのキズや臭い
参照:法務省「賃貸借契約に関するルールの見直し」

民法改正のルールを特約で排除することも可能?

現状回復について、これまでは民法であいまいな部分があったため、トラブルが頻発している状態でした。そのため、国土交通省では平成10年に現状回復のガイドラインを公表し、それを改訂してきました。そして、コンプライアンスの高い不動産会社はこのガイドラインに準じて、賃貸借契約を管理してきた背景があります。今回の民法改正における現状回復の部分は、この国交省ガイドラインにおおむね沿った内容だと言えます。

また、現状回復のルールはあくまでも任意規定のため、貸主と借主の間で特約を結べば排除することも可能とも考えられます。ただし、この特約は「貸主が事業者・借主が個人の場合、消費者契約法で無効となりうる」と指摘する弁護士もいるため要注意です。

民法改正のポイント「敷金」:内容・目的を定義し、返還タイミングも明確化

もうひとつ今回の民法改正で大きいのは、敷金に関するルールの新設です。これまでの民法では、敷金の定義がなく、さらに敷金返却のルールもありませんでした。

今回の民法改正では敷金を「滞納に備えて賃料などを担保するために借主が貸主に交付する金銭」と定義。さらにその内容を礼金や保証金といった名目に関係なく、担保が目的のお金であれば敷金に当たるとしています。また、敷金の返還タイミングについては、「賃貸借契約が終わり、物件が返却された時点で返還義務が生じる」としています。

これにより、賃貸借契約の敷金の定義や目的の明確化がより重要になってきます。オーナーとして、どのような内容になっているか、今後取り交わす契約書はチェックしましょう。

細かな改正点にも注意を

その他、2020年の民法改正では、賃借物の修繕や賃貸物件が譲渡された時のルールも決められました。賃貸経営に興味を持っている人であれば、細かな改正点を含めて一度は必ず目を通しておきましょう。(提供:Incomepress

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