シンカー:経済低迷とデフレが持続的になってしまう「日本化」が完成するには、三つの条件を満たす必要がある。一つ目は、マイナスであるべき企業貯蓄率がプラスとなり、過剰貯蓄が総需要を追加的に破壊する力が生まれることである。二つ目は、財政拡大が過剰貯蓄をオフセットしきれず、ネットの資金需要が消滅し、マネーと貨幣経済に縮小圧力がかかることである。三つ目は、マネーと貨幣経済の縮小圧力が継続する中で、デフレ期待がマーケットと経済にロックインすることだ。この三つの条件が「日本化」しているかの判断基準だ。ネットの資金需要が復活し、企業貯蓄率がマイナスの正常な状態に戻るまで、次の景気後退局面でもデフレに戻らない確信が持てないため、政府はデフレ完全脱却宣言はできない。企業貯蓄率のプラス化が示す過少投資はいずれ生産性の低下につながり、家計の消費支出がそれ以上削減できな水準まで供給能力が衰えれば、いずれにしても物価が急上昇し、好ましくない形でデフレを脱却していくことになる。財政拡大がハイパーインフレにつながるというリスクを過度に感じて、ネットの資金需要が消滅した状態を放置し、マネーと貨幣経済の縮小圧力がかかり続ければ、過少投資を原因とする生産性の低下を経て、将来のハイパーインフレのリスクはより高まってしまう。高齢化ととものそのリスクは更に高まる。インフレを長期的に安定化させる生産性の向上をともなう供給能力の維持には、堅調な収益を背景に投資活動がしっかりできるほどに十分な総需要の存在、即ち早期のデフレ完全脱却が不可欠だと考えらえる。現在、ユーロ圏は、企業貯蓄率がプラス化するとともに、ネットの資金需要が消滅した状況まできてしまっている。しかし、インフレ期待はまだ頑強で、いわゆる「日本化」の完成を免れている。ネットの資金需要が消滅した状態を放置し、マネーと貨幣経済の縮小圧力がかかり続ければ、経済実態に合わない為替高、そして家計の疲弊、更なる企業活動の鈍化などにより、デフレ期待が経済とマーケットにロックインする事態になることが懸念される。この一連の「日本化」の動きは、日本が最初に陥ったという意味で「日本化」と名付けているだけで、他の国にも起こりうることであると思われる。
経済低迷とデフレが持続的になってしまう「日本化」が完成するには、三つの条件を満たす必要がある。
一つ目は、マイナスであるべき企業貯蓄率がプラスとなり、過剰貯蓄が総需要を追加的に破壊する力が生まれることである。
二つ目は、財政拡大が過剰貯蓄をオフセットしきれず、ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が消滅し、マネーと貨幣経済に縮小圧力がかかることである。
三つ目は、マネーと貨幣経済の縮小圧力が継続する中で、デフレ期待がマーケットと経済にロックインすることだ。
この三つの条件が「日本化」しているかの判断基準だ。
確かに、ただ単に長いデフレが続くだけで、デフレ期待が経済とマーケットにロックインし、日本の同じような状況に陥ることも考えられる。
そして、企業貯蓄率のプラス化という過剰貯蓄などにより、物価下落による実質所得増加が総需要を均衡点まで戻せないことで、そのようなことが説明できると思われる。
しかし、企業貯蓄率の異常なプラス化のみであれば、大規模な金融緩和による信用サイクルの押し上げなどだけでも、主流派の経済理論通り、経済低迷から脱することができたとみられる。
そして、企業貯蓄率のプラス化は過少投資を意味するため、いずれ生産性の低下などにより、好ましくない形でデフレを脱却していくこともありえるだろう。
日本は、デフレ化でも厳しい構造改革を進め、生産性を向上させ続けたことが、好ましくない形でのデフレ脱却にならなかった一方で、デフレが継続することにつながった。
ネットの資金需要が消滅し、マネーと貨幣経済の縮小圧力がかかり続けることが、更にデフレからの脱却を困難化させていくと考えられる。
ネットの資金需要が消滅してしまうと、マネタイズするものがなくなり金融政策の効果が極めて弱くなるため、財政拡大により、まずはネットの資金需要を復活させ、マネーと貨幣経済の拡大圧力をつくることが重要となる。
それでも金融政策だけに過度に依存してしまうと、マイナス金利を含めた極度の低金利政策の長期化などで、金融機関の収益構造に大きな負担がかかり、経営基盤の弱体化が信用サイクルを崩壊させてしまうリスクとなる。
更に、ネットの資金需要の消滅は、家計への資金フローの減退を意味するため、家計の雇用・所得への不安、格差拡大などからくるポピュリズムを含む生活への不安などを強くし、消費が更に低迷することが企業活動を更に弱体化させ、デフレ期待の経済とマーケットへのロックインへのリスクが大きくなってしまう。
いったんデフレ期待がマーケットと経済にロックインしてしまうと、構造と行動がデフレを前提になってしまうため、デフレ期待は極めて頑強となり、実際に物価が強く上昇し、構造と行動が変化し、インフレ期待に改善するためにはかなりの時間と経済政策のコストがかかり、その間は経済低迷からの脱却が実感できない状況が続いてしまうことになる。
ネットの資金需要が復活し、企業貯蓄率がマイナスの正常な状態に戻るまで、次の景気後退局面でもデフレに戻らない確信が持てないため、政府はデフレ完全脱却宣言はできない。
過少投資はいずれ生産性の低下につながり、家計の消費支出がそれ以上削減できな水準まで供給能力が衰えれば、いずれにしても物価が急上昇し、好ましくない形でデフレを脱却していくことになる。
財政拡大がハイパーインフレにつながるというリスクを過度に感じて、ネットの資金需要が消滅した状態を放置し、マネーと貨幣経済の縮小圧力がかかり続ければ、過少投資を原因とする生産性の低下を経て、将来のハイパーインフレのリスクはより高まってしまう。
高齢化とともにそのリスクは更に高まる。
インフレを長期的に安定化させる生産性の向上をともなう供給能力の維持には、堅調な収益を背景に投資活動がしっかりできるほどに十分な総需要の存在、即ち早期のデフレ完全脱却が不可欠だと考えらえる。
現在、ユーロ圏は、企業貯蓄率がプラス化するとともに、ネットの資金需要が消滅した状況まできてしまっている。
しかし、インフレ期待はまだ頑強で、いわゆる「日本化」の完成を免れている。
ネットの資金需要が消滅した状態を放置し、マネーと貨幣経済の縮小圧力がかかり続ければ、経済実態に合わない為替高、そして家計の疲弊、更なる企業活動の鈍化などにより、デフレ期待が経済とマーケットにロックインする事態になることが懸念される。
この一連の「日本化」の動きは、日本が最初に陥ったという意味で「日本化」と名付けているだけで、他の国にも起こりうることであると思われる。
図)企業貯蓄率と消費者物価
図)ネットの国内資金需要(企業貯蓄率と財政収支の和)
図)家計貯蓄率と国際経常収支
図)ユーロ圏のネットの国内資金需要(企業貯蓄率と財政収支の和)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司