前日の海外時間では、東京時間早朝に「米上院が香港人権法案を可決」とのヘッドラインが流れたことから、米中通商協議の進展が鈍化する懸念が再発し、一時ドル円は108.351円まで下落しました。ただ、108円台前半では本邦実需勢の押し目買い意欲も強く、一時108.70円台を回復する動きとなりました。その後は、「米中の第1段階の通商合意は来年にずれ込む可能性」との観測報道が流れ、ドル円は再び108.40円付近まで急落しましたが、ホワイトハウス副報道官が「米中交渉は継続しており、第1段階の合意文書について進展が見られる」との見解を示すと、108.60円台まで反発するなど、まさにヘッドラインに一喜一憂するマーケットになりました。

米下院でも、「香港人権法案」は圧倒的多数で可決しており、トランプ大統領が同法案に署名するかどうかが注目されます。署名し、同法案が成立すれば、既に報復を表明している中国と真っ向勝負することになるため、米中通商協議は、第1段階での合意すら危うくなる可能性があります。トランプ大統領にとって、大統領選で再選を目指すには、貿易政策を巡る不透明感を払拭し、景気テコ入れが急務であるため、米中貿易戦争の激化は歓迎できるものではないことから、今後は、両国の落としどころを探すことになりそうです。

現段階においても、クドロー米大統領国家経済会議(NEC)委員長は「米中貿易協議の第1段階の合意に向けて、われわれは取りまとめに近づいている」、ロス米商務長官は「第1段階の合意に署名する可能性は非常に高い」と両名については、前向きな発言をしているものの、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、知的財産権や技術移転といった核心問題に対応しない通商合意で、関税撤廃という大きな譲歩を行うのは望ましくないと後ろ向きな発言をしており、ここでも協調性という部分では危うい部分があります。この中で、「香港人権法案」にトランプ大統領が署名するとなれば、習中国国家主席が「如何なる外部勢力も、香港に干渉することを許さないという決意も揺らぐことは絶対にない」との態度を維持している限り、米中通商協議はリスクオフイベントに転化するかもしれません。

今後の見通し

FXプライム,市況解説
(画像=PIXTA)

10月29日-30日分のFOMC議事要旨では、「大半のメンバーは10月利下げ後、金利は適切と判断」「多くのメンバーは下振れリスクが高まったと認識」との見解が示され、改めて「予防的利下げ」の打ち止めが示唆されました。ただ、既存の情報から目新しい材料は何も出てこなかったこともあり、マーケットを動意づかせる材料にはなりませんでした。

米中通商協議関連では、中国共産党系の環球時報の編集長である胡??氏が「中国と米国が近いうちに通商合意に達するとみている中国人はほとんどいない。米国側のお粗末な対中政策のせいで、通商合意が重要と考える中国人民は少なくなってきた。中国は通商合意を望んでいるが、長期的な貿易戦争という最悪シナリオの準備をしている」との見解を示しており、悲観的になるほど悪化はしていないものの、これまでの楽観的な見方は総崩れしたと考えていいかもしれません。

ユーロについては、欧州委員会がイタリアとフランスの予算について懸念を示したことが嫌気されており、上値の重い展開になっています。同委員会は、「スペインやポルトガル、ベルギー、スロバニア、スロバキア、フィンランドも規律違反のリスクがある」と指摘しており、ユーロ買い戻しの動きは、目先小休止する見通しです。

保守党有利である限り、ポンドについてはロング戦略継続

ポンドドル、1.2920でロングメイクです。ジョンソン英首相、コービン労働党党首の討論会で、ジョンソン英首相の有権者支持が低下するネガティブサプライズがありましたが、保守党優勢の状況が変わらない以上、ポンドについては、上目線で考えたいと思います。1.2920ドルのポンドロング、利食いは1.3070ドル付近、損切りについては、1.2870ドル下抜けに設定します。

海外時間からの流れ

米中通商協議の進展期待後退がマーケットにも波及しており、本日の日経平均株価は300円超安になっており、ドル円も108.30円台まで下落しています。ただ、劉鶴中国副首相が「第1段階の合意に慎重ながらも楽観的」と述べたことでドル円が反発していることもあり、この一喜一憂マーケットは当面継続するものと思われます。

今日の予定

本日は、南ア中銀政策金利発表、米・11月フィラデルフィア連銀景況指数、米・新規失業保険申請件数、米・10月景気先行指数、米・10月中古住宅販売件数、ECB(欧州中銀)議事要旨などの経済指標が予定されています。要人発言としては、メルシュ・ECB専務理事、デギンドス・ECB副総裁、メスター・クリープランド連銀総裁、ポロッツ・加中銀(BOC)総裁、カシュカリ・ミネアポリス連銀総裁の講演が予定されています。

(提供:FXプライムbyGMO)

FXプライムbyGMO情報分析チーム
為替のみならず、株式、商品相場の経験者が多角的な目線でマーケットを分析します。執筆者は営業推進部マーケッツグループ長、稲井有紀、グループ長代行、崔 敏樹。