サブスクリプション実践ガイド
佐川 隼人(さがわ・はやと)
日本サブスクリプションビジネス振興会 代表理事、テモナ株式会社 代表取締役社長。学校卒業後、起業した事業が解散。就職し、営業の傍ら独学でプログラミングを学ぶ。その後、約2 年オーストラリアへ留学したのち、フリーランスとして独立。いくつかの起業経験を経て4 度目の起業となる2008 年10 月にテモナ株式会社を設立。労働集約型のシステム受託開発事業に限界を感じ、サブスクリプションビジネスモデルに転換。SaaS サービス「たまごリピート」「サブスクストア」を開発。2017 年にマザーズ上場を実現。2019 年4 月、東証一部昇格。2018 年12 月、一般社団法人日本サブスクリプションビジネス振興会(サブスク振興会)を設立。代表理事に就任。

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MEJ 徹底した顧客志向と分析で成長するヘルスケア通販

株式会社MEJ
設立:2008年11月
本社:東京都港区
資本金:4350万円(2018年12月末現在)
従業員数:15名(2018年12月末現在)

ヘルスケアDtoC(ダイレクトトゥカスタマー)事業を展開する株式会社MEJは、エイジングケアブランド「AGEST」を立ち上げ、アンチエイジングを目的としたサプリメントを販売しており、AGESTは2011年の登場以来人気を集め、会員数を伸ばし続けています。「Eコマース事業は全くの未経験だった」というMEJの古賀徹代表取締役社長に、立ち上げ期から現在に至るまでの話を伺いました。

――事業をはじめた経緯は?

当社はもともとインターネットのマーケティング会社としてスタートして、広告代理店事業を行っていました。そして、楽天やアマゾンの登場により爆発的に成長するEコマース業界では、直接お客様に販売できるDtoCでの流通革命が起こると確信していました。Eコマース事業に参入するにあたって、どのカテゴリーがよいのかいろいろと検討していました。私自身としては、これからの高齢化社会で必ず日本の課題になるであろう「ヘルスケア」をテーマにしたいと考えたのです。そこで、商材を何にするか検討していたのですが、やはり「毎日の習慣に取り入れられるもの」が良いのではないかと考え、サプリメントを主体としたエイジングケアブランドを立ち上げることにしたのです。

そして、サプリメントを販売している競合他社を調べてみると、長年販売実績を上げている企業はだいたい「リピート通販」というサブスクリプションモデルを取り入れていました。それで当社もサブスクリプションモデルを軸に事業を組み立てていくことにしたのです。

商品開発にあたっては、さまざまなサプリメントの企画開発を手がけてきたパートナー企業と共同で行い、顧客一人当たりの購入合計高(ライフタイムバリュー:LTV)を設定し、定期購入していただくことを想定したうえで、原材料や容量、パッケージや梱包材、原価や販売価格など、プロダクトの付加価値を最大限に高める努力をしました。2011年9月に現在販売している「AGEST INNER BEAUTY SUPPLEMENT」を発売しました。

――アプローチする既存顧客はいたのですか?

いえ、まったくいませんでしたが、我々の強みであるインターネットマーケティングを最大限に活用して、一から新規会員獲得を目指しました。まずは自社製品の広告を発注し、ヤフーやグーグルのリスティング広告などに出稿して、少しずつ新規顧客を獲得していったのですが、正直なところ、最初の1年間はなかなか思うような実績は得られず赤字が続きました。月にたった100名ほどのお客様にしか購入いただけず……本当に厳しかったです。でも、まったくの未経験でEコマースをはじめたので、仕方ない部分もあったんですよね。宅配業者からもらった袋でそのまま梱包して、「箱が潰れていました」というクレームをいただいたり、オフィスのプリンターで同梱ツールを一枚一枚印刷したり。それを二人くらいでやっていましたから、「このままじゃ追いつかないぞ」と青くなっていました。

でも、半年くらいそれを続けていると、延べ販売実績が数百個くらいになってきて、客単価が約1万円なので、ある程度利益の見通しが立つようになってきたんです。そしてLTVも4万~5万円ほどになってきたので、「逆算してみれば、LTVの3割程度は広告費にかけられるな」と考えられるようになりました。それまでは「1万円の商品を販売するのに2万円広告費かけるなんてあり得ない」という感覚だったのが、やっとサブスクリプションモデルにおける投資回収の方法論が、自分の中でも腑に落ちたんですね。

それからは、商品発送やカスタマーサポートなどをアウトソーシングして運営体制を整えていって、月商500万円ほどになってきたので、その資金をもとにさらにアクセルを踏み込もう、と広告費を投入して……そうやってうまく回るようになるまでに1年はかかりました。ある意味、その1年間が良い準備期間になりましたね。

――現在の事業の柱は?

ヘルスケアDtoC事業を主力事業として、「キレイを終わらせない」をコンセプトにしたエイジングケアブランド「AGEST(エイジスト)」を販売しています。サプリメントのほか、美容液などの化粧品も販売していますが、やはり主力商品はサプリメントです。購入方法は単品の「通常購入」と「定期コース」の2種類ありますが、約95%は定期コースを選択されています。延べ50万個以上もご購入いただき、現在の会員数はおよそ7万人規模となっています。

――顧客向け施策としてどのようなことに取り組んでいますか?

まだまだこれから、という部分が大きいのですが、基本的にはアンケートに基づいたPDCAサイクルの遂行は継続的に行っています。購入のきっかけ、購入に至ったお悩み、ご不明点、ご要望などを伺うことで少しずつ顧客のインサイトが見えてくるので、「お客様にはこんな悩みが多いから、キャッチコピーはこうしよう」「購入完了後のフォローにはこういった案内を入れよう」などと、一つひとつしっかりと対応してきた形です。

また、2~3年に一度は商品リニューアルを行い、お客様の声をもとにサプリメントの成分を増やしたり、パッケージを変えたり、つねに改善し続けることを念頭に置いています。

――顧客の継続率を上げるために取り組んでいることは?

これは逆説的なのですが、解約理由から紐解くとわかってくるのです。解約理由のトップ3が「余っている」「効果を実感できない」「他にもっと良い商品を見つけた」から、というもの。それをいかになくしていくかが、私たちにできるアプローチです。

「余っている」なら、そうならないように日々のコミュニケーションを取る必要があります。毎日摂取していただけるようにメルマガを送ったり、それでも余ってしまうようなら、スキップ(休止)をご案内したりします。

「効果を実感できない」「他にもっと良い商品を見つけた」というのは、どれだけお客様に満足いただける商品を提供できるか、ということですよね。まずはサプリメントなので、長く続けていただかなくてはなかなか効果を実感できませんし、当社としては、他社商品よりもご満足いただけるような商品を開発していくよう取り組んでいます。

私たちは、初回購入から何日目が追加購買率が高いのか、解約するのはいつが多いのか、基本的にデータからすべて逆算して、DMやメールを送って、「何日目にこういうアナウンスを送ろう」「コールセンターではこんなフォローをしましょう」というふうにコミュニケーション設計を行っています。そうやって、顧客満足を高めるような取り組みを日々実践しています。

――新規顧客の反応率を高めるための取り組みは?

実は、これまではあまり積極的に2ステップマーケティングは行ってこなかったのです。CPO(コスト・パー・オーダー:注文1件あたりにかかる費用)も高いですし、会社としてもそれに耐え得る資金を貯える必要がありました。地道に1ステップマーケティングを続けて、エイジングケアに関心のある顕在層のお客様にアプローチをしてきた結果、アンチエイジングサプリとしては、ある程度の支持を得られるようにはなってきました。

ただ、これから先事業成長を目指す中では、やはり「悩みはあるけど、まだ検索など明確な行動につながっていない」ような潜在層にアプローチを図る必要があります。そのためには、バナー広告を掲出したり、無料サンプルを用意したりするなど、より多くのきっかけを作っていきたいと考えています。

――サブスクリプションビジネスを成功させる秘訣は?

まだ私たちも試行錯誤の最中ですが、事業を始めた当初から振り返ると、大きく3つのフェーズがあったように思います。

最初は、立ち上げ期。そもそもどんなカテゴリーの商材にするのかは非常に重要で、アンチエイジングなのか、ダイエットなのか、健康なのか……どれを選ぶかによってかなりLTVは変わってくると思います。年間平均購入回数が3回しかないものを5にするのは、結構難しいんですね。でも、もともと5あるものを6か7にするのは、逆に可能だと思います。ですから、既存商品でLTVの高いものを実際に購入してみて、多くの顧客の方に支持されているのは、どういった点なのか。自分なりに分析してみるといいと思います。今でも私自身、毎月のようにいろんな定期商品を購入してみて、「こういうサービスはいいな」「この箱は送料いくらだから、そこから逆算したパッケージになっているな」と、かなり細かくリサーチしています。

私たちの場合、当時はがむしゃらにやっていたところはありましたが、今思えば、もっと事前リサーチすることは可能だったと思います。今でも重点的にリサーチしているのですが、定刻で検索キーワードをチェックしたり、ヤフー知恵袋や楽天のレビュー、アットコスメの口コミなどをデータ分析したりして、たとえば「ダイエットをしたい」と考えている人がどんな対策をして、どんなものに関心があるのか、徹底的に調べています。そこから、顧客のインサイトというか「悩みのタネ」みたいなものを見つけて、商品開発に活かすんです。

そうやって商材を決めたら、実際に運用してみて、少しずつ体制を整えていくことですね。私たちは1年くらいかかりましたけど、やはりサブスクリプションビジネスの醍醐味として、アクセルを踏むフェーズが必ずあるんですよね。そこで準備ができていないと、「穴の開いたバケツに水を注ぐ」ようになってしまいます。

それから、成長期。アクセルをしっかり踏んで、広告や商品開発、カスタマーサービスに投資していくことです。私たちもまだなかなかできていない部分はありますけど、うまくいっている会社は、本当に抜かりないんです。徹底して1円、10円単位のコスト削減を行っていますし、DMやメールも効果的なものを用意している。私たちも以前、手書きDMをお送りしていたときは非常に継続率が伸びたのです。会員数1万人を超えてからはさすがに追いつかなくなって、今は行っていないのですが。やはり、私たちが行っているのはサービス業なんですよね。製品に対する思いや感謝の思いがお客様に伝わることで、しっかりと価値を感じていただけるのです。

サブスクリプションの利益を着実に積み上げ、そのビジネスモデルに甘えることなく、いかにスケールさせながらサービスの質を保っていけるかが、私たちにとっても課題だと考えています。

そして、飛躍期。これは当社がこれから差し掛かろうとしているフェーズではありますが、まずは先ほどお話しした通り、顕在層だけでなく潜在層のお客様にアプローチして、反応率を高めていくこと。それと、顕在層への再アプローチですね。これまで購買客データを地道に蓄積してきましたから、初回購入後何日目にどんな案内をして、特定のメディア経由でサイトをご覧になった方にはこんなアプローチをして、特定の年齢層の方にはどんなご案内をすべきか、というのが実績としてわかっています。これまではそれをすべてエクセルでフォローしてきましたが、今はMA(マーケティングオートメーション)ツールで自動化して、しっかり根拠のあるアクションに落とし込んでいます。

また、広告に関して明確なのは、「とにかくPDCAサイクルを早く回す」こと。これに尽きますね。街頭セールスをイメージするとわかると思うのですが、100人にセールストークをして一人にしか買ってもらえないセールスと、10人に買ってもらえるセールスなら、単純計算で後者は10倍の売上がありますよね。それなのに、前者が「なぜ売れないんだろう」と悩んだまま何も変えなければ、いっこうに売上は上がりません。2パターンのセールストークをしてみて「こっちのほうがお客様の反応が良かったから、こっちにしよう」とか、「もっとこの部分を強調しよう」と改善しようとするじゃないですか。そしてそのスピードを速くしたほうが、少しでも早く成果につながります。私たちも日々データ解析をもとに改善して、会員獲得ができるようになってきました。何か明快な「ウルトラC」みたいなものはないんですよ。

私たちはPDCAのスピードアップを図るために、3年ほど前から広告を内製化しました。外注でランディングページを作ろうとすると2、3ヶ月はかかるし、「ヘッダーを直してください」とお願いしても1ヶ月かかる。これからの時代のEコマース業界は、日々検証して、日単位で改善できるような会社でないと生き残れないと考えているのです。会社によっては、広告制作から運用を代理店に任せるところも多いですが、我々は内製化に舵を切った形です。今では、広告運用も各種ツールも同梱ツールもすべて内製しています。それが、スピードにつながってくるのです。

――今後の展望は?

今の話の流れになりますが、これからコールセンターも内製化しようとしています。そもそもの話ですが、通販業である以上、お客様と直接お会いできないのは大きなハンデとなります。今は外部委託でお客様からのご要望やご意見をいただいていますが、エクセルシートで「こんな意見がありました」と受け取るのでは、身をもってお客様の必要とされているもの、求めているものを本当の意味で実感することができないんです。我々がこれから取り組むべき課題はやはりカスタマーサービスの向上だと考えていますので、その足がかりとして自社コールセンターを立ち上げる予定です。

また、我々としては大幅な割引販売は行わない方針です。これまでの検証で、値引きすればするほどLTVが下がる結果となっています。ですから、まずはお試しサンプルを使ってもらい、納得いただいた上で定期コースにご案内する方向へ舵を切ろうと考えています。サンプルで新規顧客を獲得し、コールセンターの内製化でカスタマーサービスを強化すること。この両軸で事業をスケールしていくつもりです。

――これからサブスクリプションビジネスを始める方に一言お願いします。

サブスクリプションビジネスは、方程式を見つけることが大切です。販売価格と原価率、送料、継続率、LTV……あらゆる数値を逆算して想定して、実践して検証して、「これだ」というものを見つけることができれば、そこから大きくブレることはまずありません。ですから、まずはその方程式が見つけられるまで、トライ・アンド・エラーで試してみてください。

そして、ビジネスの基本は「お客様にサービスを提供し、価値を感じていただくこと」です。サブスクリプションという素晴らしいビジネスモデルに頼りすぎることなく、顧客と真摯に向き合うこと。それだけは忘れずにやっていただきたいと思います。

●成功のポイント・解説

MEJは異業種からEコマースに参入し、サブスクリプションによって大きく事業をスケールさせた、いわばサブスクリプションビジネスの「お手本」のような会社です。強みであるインターネットマーケティングのノウハウを活かし、自社製品の販売に応用しました。サブスクリプションモデルでは「定期購入モデル」にあたります。

注目すべきポイントは、「いち早くEコマースに着目し、ヘルスケアDtoCに参入した」ということ。競合研究を行い、通販業界で長年信頼されているブランドやメーカーを分析し、習慣的に摂取するサプリメントに着目。しかも、「健康」「ダイエット」といったカテゴリーよりも比較的付加価値が付けやすい「アンチエイジング」をテーマに設定したところに、大きなアドバンテージがあったと言えるでしょう。

事業のヒントを探す際に、グーグルアナリティクスなどのアクセス解析ツールを使って月間検索キーワードをチェックしたり、Q&Aサイトや口コミサイトを参考にしたりする、というのも、人々のインサイトをつかむのに非常に有効な手段と言えるでしょう。ただ、それだけ人々の関心が集まっている分野は、競合が集まりやすいレッドオーシャンとも言えます。そこで確かな売上を上げるために必要なのは、顧客満足を得られるような商品力やカスタマーサポートです。MEJでは、2年に一度の短いスパンで商品リニューアルを行い、常に改善を続けているほか、広告部門を内製化し、スピーディに顧客訴求力を高める体制を構築。今後、コールセンターも内製化を予定するなど、サブスクリプションで得た資金を商品やサービスに投資し、より顧客に満足してもらえるような体制作りを行っています。

古賀代表の言葉にもありましたが、「サブスクリプションビジネスに甘んじず、顧客に対して真摯に向き合い、サービスを改善し続けていく」というのは、非常に重要なことです。サブスクリプションで継続的に顧客から購入いただくようになると、ある程度資金の見通しが立ちやすくなりますから、「これだけ儲けているならいいや」と現状に満足してしまいがちです。けれども、そのお客様がいつまでも買い続けるとは限りません。5年、10年と関係性を築いていくためには、どうするべきか。既存顧客に満足してもらえるよう、商品やサービスをアップデートしながら、効果的な広告戦術で新規顧客もしっかり獲得していく――。その両軸でビジネスをドライブさせていくことが重要です。そうすれば、20億、30億の売上も夢ではないでしょう。

最後に、MEJの事業を「お得(O)」「悩み解決(N)」「便利(B)」に当てはめてみましょう。

お得(O)

  • 初回限定の66%オフ商品、もしくは無料サンプルで効果を実感した上で、サプリメントが通常価格よりも安価に購入できる

悩み解決(N)

  • 年を経るごとに気になる乾燥や小ジワなど肌の不調に対して、サプリメントで手軽に栄養補給ができる

便利(B)

  • 毎日継続的に摂取するものを定期的に送ってくれる
  • さまざまな栄養素や美容成分をまとめて摂取することができる
  • 効果的な使い方や他のユーザーの声などを活用して効果を高めることができる