シンカー:今、デフレ完全脱却を確かなものとする需要刺激型の財政政策が必要だ。長期の内需低迷とデフレから完全に脱却することを軽んじる財政議論は無責任だろう。名目金利が名目成長率を下回り続けるという、企業活動を刺激し、現在の国民生活を安定化し、長期的なインフラ投資を拡大する経済政策を低コストで実施できる環境がいつまでも存在するわけではない。目先の財政収支の均衡に拘って足元の経済活動の低迷を放置し、投資が抑制され、現在の国民生活が厳しい状況が継続すれば、将来の経済の生産性は低下し、ポピュリズムにより政治は不安定化し、高齢化とともに、実質成長率が低下する中で、物価と金利だけが上昇する最悪なシナリオに陥るリスクがある。デフレ完全脱却を軽んじる財政運営はより破綻リスクが大きくなると考えられる。高齢化でも低金利の恩恵を享受できるのは、投資などにより経済の生産性が著しく上昇するからで、その結果として財政も安定を続けることができる。過去の投資と国民生活を犠牲にしたリストラなどで維持されている生産性の水準に安住せず、今は、新たな投資を生み出すとともに現在の国民生活を安定化させる経済活性化を目指す拡大的な財政運営を進めるべきだ。そのような施策があるのであれば国債を発行しても推進すべきだろう。現在の国民が子孫に残すべきは、経済の生産性の上昇による実質所得の拡大であり、財政収支の安定はその結果でしかない。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

今、デフレ完全脱却を確かなものとする需要刺激型の財政政策が必要だ。

長期の内需低迷とデフレから完全に脱却することを軽んじる財政議論は無責任だろう。

名目金利が名目成長率を下回り続けるという、企業活動を刺激し、現在の国民生活を安定化し、長期的なインフラ投資を拡大する経済政策を低コストで実施できる環境がいつまでも存在するわけではない。

目先の財政収支の均衡に拘って足元の経済活動の低迷を放置し、投資が抑制され、現在の国民生活が厳しい状況が継続すれば、将来の経済の生産性は低下し、ポピュリズムにより政治は不安定化し、高齢化とともに、実質成長率が低下する中で、物価と金利だけが上昇する最悪なシナリオに陥るリスクがある。

デフレ完全脱却を軽んじる財政運営はより破綻リスクが大きくなると考えられる。

高齢化でも低金利の恩恵を享受できるのは、投資などにより経済の生産性が著しく上昇するからで、その結果として財政も安定を続けることができる。

過去の投資と国民生活を犠牲にしたリストラなどで維持されている生産性の水準に安住せず、今は、新たな投資を生み出すとともに現在の国民生活を安定化させる経済活性化を目指す拡大的な財政運営を進めるべきだ。

そのような施策があるのであれば国債を発行しても推進すべきだろう。

現在の国民生活が安定化していて需要が強ければ企業の投資は活性化するが、現在の国民生活が不安定で需要が弱ければ、どのような立派な成長戦略を実施しても企業の投資は弱いままだろう。

企業の貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要が消滅し、経済全体で資金を使い所得を生み出すことができない状態は、あるべき経済活性化と財政のあり方から程遠い。

企業の貯蓄率が異常なプラスで、総需要を破壊する力が存在してしまっている間は、十分な財政拡大で、ネットの資金需要を適度な量まで拡大すべきだ。

ネットの資金需要が存在して初めて、マネーと名目GDPの拡大が強くなり、国民の所得もしっかりとした拡大を続けることができるようになる。

安倍首相の自民党総裁任期末の2021年度までは財政を拡大してでも、長期の内需低迷とデフレから完全に脱却し、投資を活性化し、強い経済を構築することを目指すべきだろう。

2022年度以降に、その強い経済を背景に、景気が過熱した場合のみ、適度なネットの資金需要を維持しながら、財政緊縮を行えば、2025年度の基礎的財政収支の黒字化目標達成は容易だろう。

需要の拡大によって供給が不足気味となり、景気過熱と物価上昇が懸念されるように状況になって初めて、消費税率を更に引き上げる必要が出てくる。

国内貯蓄が不足し、国際経常収支が赤字に転じて、その赤字が拡大傾向となるような状況だが、内閣府の試算では悲観的なシナリオでも2028年度までGDP対比2%を上回る大幅な黒字が維持されることになっている。

今後10年間はそこまでの状況にはならず、安倍首相が指摘するように消費税率を引き上げる必要はないだろう。

現在の国民が子孫に残すべきは、経済の生産性の上昇による実質所得の拡大であり、財政収支の安定はその結果でしかない。

図)ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

図)ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=日銀、内閣府、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司