よろづや観光株式会社
(写真=THE OWNER編集部)

石川県・山代温泉で60年以上にわたり温泉旅館を経営するよろづや観光株式会社は、「おもてなしは個性だ!」「温泉エンターテイメント」をコンセプトに、時代に合わせた取り組みを行っている。代表として同社を率いるのは3代目の萬谷浩幸(よろずや ひろゆき)氏。加賀温泉郷を盛り上げ、全国にPRする「レディー・カガ」や「加賀温泉郷フェス」の仕掛け人である。旅館経営者がなぜまちのPRに積極的に取り組むのか、その本心に迫った。

多様なニーズに応える「進化する宿」

「関西の奥座敷」として名高い加賀温泉郷は、粟津、片山津、山中、山代の総称で「加賀四湯」とも呼ばれている。4つの温泉街の中心に位置する山代温泉は1300年以上の歴史を持ち、北陸有数の歓楽温泉街として栄えてきた。廻船「北前船」の寄港地に近いことから、江戸時代から明治にかけては多くの船乗りが疲れを癒しに訪れ、船旅で稼いだ金を宴会で散財したという。

温泉文化,追求,旅館経営者,挑戦
山代温泉は「古総湯」と呼ばれる共同浴場を中心に旅館や商店が立ち並ぶ「湯の曲輪(ゆのがわ)」というまち並みが残されている。

そんな山代温泉でのなかでも60年以上の歴史を持つ温泉旅館「瑠璃光」と姉妹館「葉渡莉」は、5つ星の宿やプロが選ぶ日本のホテル・旅館100選にも入る上質の宿。運営するよろづや観光株式会社では、「おもてなしは個性だ!」「温泉エンターテイメント」をコンセプトに、宿泊客一人ひとりに寄り添ったサービスを進めている。

温泉文化,追求,旅館経営者,挑戦
温泉旅館「瑠璃光」。北陸新幹線の開通により首都圏や海外からの旅行客も増えている。

バブル崩壊からデフレ、時代の変化とともに団体旅行から個人旅行へとシフトするなか、食事処や露天風呂付き客室、専用ラウンジを増設するなど、いち早くハード面を整備。 2017年には“おひとりさま”も滞在しやすい一人部屋の客室を新設したことにより、女性客のリピーターが増えた

また、新卒採用にも力を入れ、さまざまなスキルを持つスタッフを配置することで、宿泊客の多様なニーズに応える体制を強化。まさに「進化する宿」として、常に一歩先行くおもてなしをかたちにしている。

「加賀温泉郷」の知名度を高めた2つの取り組み
2015年に北陸新幹線が金沢まで開通したことで北陸エリアの観光業は総じて大きな伸びを見せているが、実は山代温泉をはじめとした「加賀温泉郷」では、その数年前からある取り組みが大きな話題となっていた。

その一つが、温泉街で働く地元の女性100名を集めてお出迎えをする「レディー・カガ」というPR動画。旅館の女将や地元の商店で働く看板娘、伝統工芸に携わる職人まで、集まった女性たちが加賀温泉駅で観光客を出迎えるという内容だ。

動画は2011年11月の公開直後から大きな話題を呼び、30万回以上再生される大ヒットに。動画を見たことをきっかけに、温泉街を訪れる宿泊客も増えた。

さらに翌年からは加賀温泉郷を舞台にした音楽フェス「加賀温泉郷フェス」を開催。旅館「瑠璃光」を丸ごと貸し切った全天候型のフェスで、2019年で8回目を迎えた。音楽を楽しみながら温泉にも入れるため、幅広い年代が思い思いのスタイルで過ごせるフェスとして、全国各地からリピーターが増えている。

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