シンカー:マーケットでは、政府が実施を決定した今回の経済対策の規模では効果がそれほど大きくはないという見方があるようだ。しかし、重要なのは経済対策の規模よりも、政府が「景気は緩やかに回復している」という判断の下で経済対策を実施する決断をしたという意志である。政府は、今年の夏に、プライマリーバランスの黒字化目標を2020年度から2025年度に先送りした。安倍首相の自民党総裁の任期末は2021年度である。2021年度までは財政を拡大してでもデフレを完全脱却をし、前回の参議院選挙でのキーワードであった「強い経済」を安倍政権のレガシーとして残し、2022年度以降に次の内閣で景気過熱を抑制するために財政再建路線に入るというシナリオだ。即ち、1%程度の潜在成長率なみの成長速度を最低限維持し、需要超過幅を縮小させないことが、デフレ完全脱却のために政府の至上命題になっているとみられる。もし、経済対策の効果が小さく、潜在成長率を下回るリスクがある場合は、引き続き「景気は緩やかに回復している」という判断の下でも、秋の臨時国会でもう一回の経済対策が実施される可能性は高い。財政政策が緊縮から緩和に転じたことで、設備投資をはじめとした企業活動の拡大による企業貯蓄率の低下と合わせて、消滅していたネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が復活するとみられる。ネットの資金需要が復活することは、マネーが循環・拡大、そして家計への富の流入が強くなることを意味する。そして、日銀が追加金融緩和をせず、現行の緩和政策を維持しているだけで、ネットの資金需要をマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も自動的に強くなるとみられる。マーケットは、安倍政権のレガシーとしてデフレを完全脱却する政府の意志を過小評価していると考える。
政府は5日に新たな経済対策の実施を閣議で決定した。
国や地方政府からの直接支出が9.4兆円、財政投融資が3.8兆円、民間の支出も加えた事業規模は26兆円となる。
経済対策の規模感は様々な基準があり分かりづらいが、国家予算の一般会計への計上が一つの目安だ。
2019年度の補正予算で4.3兆円、来年度の当初予算で1.8兆円などで、合計6.2兆円(GDP対比1.1%)を計上する。
2020年1月からの通常国会で補正予算と本予算を通すことになる。
当社の2019年の実質GDP成長率の予想は+0.9%と、経済対策を織り込み切れていないとみられるマーケットコンセンサスの同+0.2%程度よりかなり高い。
GDP対比1%程度の経済対策を既に織り込んでいるため、予想に変更はない。
マーケットでは、今回の経済対策の規模では効果がそれほど大きくはないという見方があるようだ。
しかし、重要なのは経済対策の規模よりも、政府が「景気は緩やかに回復している」という判断の下で経済対策を実施する決断をしたという意志である。
政府は、今年の夏に、プライマリーバランスの黒字化目標を2020年度から2025年度に先送りした。
安倍首相の自民党総裁の任期末は2021年度である。
2021年度までは財政を拡大してでもデフレを完全脱却をし、前回の参議院選挙でのキーワードであった「強い経済」を安倍政権のレガシーとして残し、2022年度以降に次の内閣で景気過熱を抑制するために財政再建路線に入るというシナリオだ。
即ち、1%程度の潜在成長率なみの成長速度を最低限維持し、需要超過幅を縮小させないことが、デフレ完全脱却のために政府の至上命題になっているとみられる。
もし、経済対策の効果が小さく、潜在成長率を下回るリスクがある場合は、引き続き「景気は緩やかに回復している」という判断の下でも、秋の臨時国会でもう一回の経済対策が実施される可能性は高い。
それでも足りなければ、2021年の1月の通常国会で経済対策を更に積み増すだろう。
当社は2021年の実質GDP成長率を+1.4%と潜在成長率を大幅に上回る予想をしており、デフレ完全脱却に達すると予想している。
財政政策が緊縮から緩和に転じたことで、設備投資をはじめとした企業活動の拡大による企業貯蓄率の低下と合わせて、消滅していたネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が復活するとみられる。
ネットの資金需要が復活することは、マネーが循環・拡大、そして家計への富の流入が強くなることを意味する。
そして、日銀が追加金融緩和をせず、現行の緩和政策を維持しているだけで、ネットの資金需要をマネタイズして働くことになる金融緩和の効果も自動的に強くなるとみられる。
マーケットは、安倍政権のレガシーとしてデフレを完全脱却する政府の意志を過小評価していると考える。
図)ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司