シンカー:中央銀行は既に実施した緩和政策の効果を見極めるためにも、更なる緩和策に踏み切るまで小休止の状態が続いている。グローバルに財政政策の重要性が意識され、各国政府は財政スタンスは緩和的になっている。金融政策だけでの景気拡大の継続には限界があり、今後の金融政策の在り方が見直される局面に入っている可能性がある。過度な金融緩和への依存は政策の効果より副作用を強めるリスクがあり、次の景気減速局面での政策対応をより難しくしてしまう可能性がある。一方で、副作用に警戒感を強め、政策対応を弱めると、自ら景気減速を招いてしまうリスクもある。中央銀行関係者は財政政策とのポリシーミックスの強化で、景気拡大を継続しようとするだろう。ただ、来年前半の経済指標の結果や政治問題の動き次第で今後の金融政策の方向性を大きく変えるリスクも残っている状態は当面続くだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

次の初回利下げが、3月中頃のFOMCで実施され、その後に更に計75bpの利下げが続き、計100bpの利下げが実施されるだろう。FFレート誘導目標は6月か7月までに0.5-0.75%に達する、と見込んでいる。短期米国債の新規購入はQEではなく、FRBバランスシート拡大の目的は、FOMCで適切と決めたFFレート誘導目標を実現することだけで、(FOMCで)「請求された」以上に金融状況を緩和することではないだろう。

直近の緩和策に関して、政策理事会の内部で過去に例をみないほど意見の不一致があったことから、政策面で何らかの追加アクションが近々とられる可能性は、非常に低いとみている。また、米国FFレートがさらに下方シフトしていることに照らしてもなお、ECBが景気刺激策を追加するハードルは非常に高いだろう。だがFRBの見通しが実現することを条件に、ECBは2020年の中頃に追加緩和策を1回打ち出すと、見込んでいる。具体的には、月次資産買入れ額を現状200億ユーロから倍増、中銀預金金利の10bp追加引下げ(マイナス0.6%になる)を考えている。

10月の日銀金融政策決定会合では現緩和政策の現状維持が決定されたが、フォワードガイダンスは、「「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」へ変更された。海外経済の持ち直しの遅れなどを理由に、フォワードガイダンスの変更を決断した。メインシナリオとしては、実際には海外経済の持ち直しがいずれ進み、日銀が追加金融緩和に追い込まれることはないと予想する。2021年度には、設備投資サイクルの一段の上昇などで企業貯蓄率が正常なマイナスに転じ、総需要を追加的に破壊する力が一掃され、政府のデフレ脱却宣言とともに、日銀はまず長期金利の誘導目標を引き上げていくと考える。

PBoCは11月初めに1年物MLF金利をわずか5bp引き下げるまで、アジア太平洋地域を席巻した政策緩和の波から無縁で、それによって目を引いていた。短く言うと、中国の政策担当者は、大幅な金利引き下げなどで通貨安を誘導しているとみられるリスクを冒して、貿易紛争という火に油を注ぐことは避けたかったと考えられる。しかし、国内景気が減速しており、またFRB主導で金融緩和の波が再び全世界に広がるとみられる中で、ひとたびCPI上昇率が低下基調に戻るならば、遥かに断固とした金融緩和が進められると見込んでいる。だが、金融緩和は引続き「控えめな」ものになる。住宅バブルに対する懸念や、経済全体で債務の負担がすでに重くなっているためだ。したがって、2020年前半を通じて1年物MLF金利が累計でさらに15bp引下げられて3.0%に達すると見込んでいる。

BoEは詮索金利の現状維持を維持しているがコミュニケーションは引続き緩和バイアスとなっている。現在は景気が弱まる兆しが明らかに出ており、GDP成長率は2019年第2四半期(Q2)にマイナスとなり、Q3も回復は限定的で、インフレも再び目標を下回った。ブレグジットを巡る不確実性は急減したとはいえ完全には消滅しておらず、そのためポンド急落や物価上昇のリスクも残る。こうした中、BoEが約6カ月は様子見を続け、その後に政策金利を50bp引下げて、金融危機からの正常化分を完全に戻すと見込んでいる。ただ、利下げに伴って実施されると予測していた追加の量的緩和は想定シナリオから完全に外した。一方で、総選挙後に見込まれる大規模な刺激策が実施されれば、政策金利を変更しない可能性もある。

米国(Fed)

FFレート(11月末時点:1.50%?1.75%):

予想:FFレート誘導目標は6月か7月までに0.5-0.75%に達する、と見込んでいる。

次の初回利下げが、3月中頃のFOMCで実施され、その後に更に計75bpの利下げが続き、計100bpの利下げが実施されるだろう。FFレート誘導目標は6月か7月までに0.5-0.75%に達する、と見込んでいる。また1回の利下げ幅が50bpになっても(次の緩和サイクルが2020年の年央までに完了するという意味になる)弊社は驚かないだろう。このレベルのFFレートでも、前回サイクルの最低水準(かつ史上最低水準)をまだ50bp上回っている。だが実質金利は、再び大幅なマイナス圏(マイナス1.5%)に戻る。これは大幅な金融緩和になるだろう。FRBのパウエル議長はすでに、FFレート誘導目標を1.5-1.75%に引下げた時点で「緩和的な政策スタンス」と表現していた。

バランスシート縮小(11月末時点:約4.1004兆ドル)

予想:中央銀行のバランスシートは中期的には、名目GDPに沿って拡大する

巨大で核心的に重要なレポ市場で短期金利が上昇した後に、自身のバランスシートを拡大するとFRBが決定したことで、FRBは量的緩和(QE:quantitative easing)を再開するのではないか、という疑問が浮上した。FRB自体はそれを否定している。その際に指摘した事実(および主張)は「購入しているのは短期証券だけで、米国短期金融市場で明らかになったキャッシュ不足を、銀行準備預金を1.45兆ドル前後に引上げることで緩和するのが目的だ。FRBのバランスシート拡大は、長期金利水準に影響を与えようとするものや、リスク(デュレーション)を市場から離すことによる政策スタンスの緩和手段ではない」であった。

短期米国債の新規購入はQEではなく、FRBバランスシート拡大の目的は、FOMCで適切と決めたFFレート誘導目標を実現することだけで、(FOMCで)「請求された」以上に金融状況を緩和することではない。しかし、FRBバランスシート政策の他の面では、答えはより不明確となる。FRBが、現在は(レポ取引を通じた)一時的な(FRBからの供給)資金を米国債や地方債の永続的な購入で置き換えるならば(置き換えた時には)、それはQEにより近づくことになる。

最も重要なことに、中央銀行のバランスシートは中期的には、名目GDPに沿って拡大するとみられる。こうした推移は、世界金融危機以前の何十年にもわたり標準的であった。このためFRBが、概ねGDP成長率並みの伸び率で自身のバランスシートが将来拡大することを望んでいるのは、ほぼ確実だ。ただ過去との大きな相違点は、現在はバランスシートが遥かに大きくなっていることだ。合計すると、FRBによる米国債購入は今後数年間、簡単に2500-3000億ドルに達する可能性がある。この場合、米国連邦政府が必要とする資金調達額の4分の1から3分の1をカバーする。これは量的緩和ではないと否定することは難しい。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和策・政策金利(11月末時点:預金ファシリティ金利:?0.50%、リファイナンス金利:+0.00%、限界貸出金利:+0.25%)

予想:過去に例をみないほど意見の不一致があったことから、政策面で何らかの追加アクションが近々とられる可能性は、非常に低いだろう

ECBの政策変更の小休止が長期化すると見込んでいる。中銀預金金利の10bp引下げで、金利階層化の導入にもかかわらず短期市場金利もほぼ同じくらい低下した。直近の緩和策に関して、政策理事会の内部で過去に例をみないほど意見の不一致があったことから、政策面で何らかの追加アクションが近々とられる可能性は、非常に低いとみている。また、米国FFレートがさらに下方シフトしていることに照らしてもなお、ECBが景気刺激策を追加するハードルは非常に高いだろう。

だがFRBの見通しが実現することを条件に、ECBは2020年の中頃に追加緩和策を1回打ち出すと、見込んでいる。具体的には、月次資産買入れ額の倍増、中銀預金金利の10bp追加引下げ(マイナス0.6%になる)を考えている。そうした動きを刺激する要因になるとみられるのは、ユーロ圏の景気減速とその結果インフレ圧力が弱まること、および(現時点で見込まれる)ユーロ上昇(インフレに対するさらなる下方圧力になる)である。また、2021年には、緩和策が初めて暫定的な内容になると見込んでいる。資産買入れは年前半に月200億ユーロに減額、中銀預金金利は年央までにマイナス0.5%に引上げられるだろう。2023年にようやく正常化プロセスが始まり、利上げとQE終了が実施されると弊社はみている。短く言うと、正常化はゆっくり進む、また緩和にさらに一歩進んだ後に正常化が始まるとみられる。正常化の開始までに、ユーロ圏ではマイナス金利(中銀預金金利)がほぼ10年続くことになるだろう。

ラガルド新総裁(11月1日に就任)

予想:政策枠組みの全面的な見直しを行い、2点が核心的に重要な課題になるだろう

ECBはクリスティーヌ・ラガルド新総裁の下で、政策枠組みの全面的な見直しを行い、2点が核心的に重要な課題になるだろう。まず、消費者物価指数(CPI)だけを政策目標にしていることだ(見込みの水準が目標とはいえ)。物価安定の維持というECBの責務の、最も正しい解釈は何だろうか。仮にそう(消費者物価だけを目標にすることが正しい解釈)だとしても、「2%に近いが、それを下回る水準」という目標は適切だろうかと考える。「2%の上下両方に1ppの幅を持たせた目標」ならば、ECBは十分な柔軟性が得られて、比較的長い期間(インフレ率が)目標から少し逸脱することを許容できるようになる。

日本(日銀)

誘導目標(11月末時点:長期金利(10年JGB)利回りを0.0%を中心に±0.2pp内で誘導)

予想:フォワードガイダンスの無期限化で辛抱強く現行の緩和政策を実行し、2021年まで政策は変更されないだろう。

10月の日銀金融政策決定会合では現緩和政策の現状維持が決定されたが、フォワードガイダンスは、「「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」へ変更された。日銀は、9月の決定会合で、世界経済の景気減速懸念が強まるなか、海外経済の動向が国内の経済・物価動向に悪影響を与えないか警戒感を強めていた。10月の決定会合で日銀は、「海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつある」と判断した。そして、「海外経済については、成長ペースの持ち直し時期がこれまでの想定よりも遅れるとみられる」と判断した。海外経済の持ち直しの遅れなどを理由に、フォワードガイダンスの変更を決断した。メインシナリオとしては、実際には海外経済の持ち直しがいずれ進み、日銀が追加金融緩和に追い込まれることはないと予想する。2021年度には、設備投資サイクルの一段の上昇などで企業貯蓄率が正常なマイナスに転じ、総需要を追加的に破壊する力が一掃され、政府のデフレ脱却宣言とともに、日銀はまず長期金利の誘導目標を引き上げていくと考える。

需要超過の領域に入りながら景気が引き続き上向いていることを示す「拡大」という景気判断を維持するもとで、本格的な追加金融緩和は難しかったとみられる。更に、グローバルに景気・マーケット動向の不透明感が強かった2019年前半の潜在成長率を上回る実質GDP成長率は、ほとんどが内需の拡大の寄与であったことは、内需の弱さからくる円高体質から日本経済が脱していることを示すのかもしれない。内需に対する自信は、FEDとECBの金融緩和に伴う円高のリスクに対する政策委員の恐怖心を軽減しているだろう。日銀は、「海外経済の減速の国内需要への影響は、限定的なものにとどまると見込まれる」と判断している。リスクシナリオとして、この判断が、国内需要の下振れのリスクが大きくなっていると変更された場合、フォワードガイダンスに示唆される追加金融緩和が実施されるとみられる。

マイナス金利政策(10月末時点:当座預金のマイナス金利適用残高(約25兆円)に-0.1%のマイナス金利を適用)

予想:2%の物価上昇を達成する2022年に解除

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2022年となろう。

中国(PBOC)

政策金利(11月末時点:1年物MLF金利:3.15%、預金準備率(RRR):13.00%、7日間リバースレポレート目標:2.3555%)

予想:2020年前半を通じて1年物MLF金利が累計でさらに15bp引下げられて3.0%に達する(に留まる)、と見込んでいる。

2019年はFRBが利下げを行う中、政策は変更するが金利は安定させてきた。確かに、預金準備率(RRR)を1月と9月の2回全般的に引下げたほか、中期貸出ファシリティ(MLF)と同じく何回か目標を絞って引下げた。だが、アジア太平洋地域で積極的な緩和が行われる中で、中国の金融政策は目立っていた。11月初めに1年物MLF金利をわずか5bp引き下げるまで、アジア太平洋地域を席巻した政策緩和の波から無縁で、それによって目を引いていた。短く言うと、中国の政策担当者は、大幅な金利引き下げなどで通貨安を誘導しているとみられるリスクを冒して、貿易紛争という火に油を注ぐことは避けたかったと考えられる。

国内要因で、PBoCが緩和を控える一因になったのは、住宅市場を巡る懸念と政策余地を残すことの他に、CPI上昇率の急加速だった。こうした環境下で、PBoCが積極的な緩和に動くとは考えづらい。1年物中期貸出ファシリティ(MLF)金利と7日物リバースレポ金利を11月初めに5bp引下げた主因は、ローンプライムレート(LPR)を下方誘導するためだった。結局、実体経済の借入コストを引下げることが、引続きPBoCの最優先事項である。

しかし、上述の通り国内景気が減速しており、またFRB主導で金融緩和の波が再び全世界に広がるとみられる中で、ひとたびCPI上昇率が低下基調に戻るならば、遥かに断固とした金融緩和が進められると見込んでいる。だが、金融緩和は引続き「控えめな」ものになる。住宅バブルに対する懸念や、経済全体で債務の負担がすでに重くなっているためだ。したがって、2020年前半を通じて1年物MLF金利が累計でさらに15bp引下げられて3.0%に達すると見込んでいる。

英国(BOE)

政策金利(11月末時点:0.75%)

予想:BoEが約6カ月は様子見を続け、その後に政策金利を50bp引下げて、金融危機からの正常化分を完全に戻すだろう

イングランド銀行(BoE)は、危機時に超緩和的な政策スタンスから距離を置いた、欧州の数少ない中央銀行だ。2016年6月の(EU離脱を問う)国民投票後のポンド急落を受けインフレが徐々に加速、2017年2月には2%のインフレ目標を超えて、すぐ9月までには3%に達した。労働市場が堅調でGDP成長率も2%近い中で、政策金利が2017年11月と2018年8月に合計50bp引き上げられ、0.75%になった。見えているブレグジット期日を巡る不確実性の高さが経済にのしかかり、インフレが減速する中でも、政策金利は変わっていない。

だがBoEのコミュニケーションは引続き緩和バイアスとなっている。現在は景気が弱まる兆しが明らかに出ており、GDP成長率は2019年第2四半期(Q2)にマイナスとなり、Q3も回復は限定的で、インフレも再び目標を下回った。ブレグジットを巡る不確実性は急減したとはいえ完全には消滅しておらず、そのためポンド急落や物価上昇のリスクも残る。こうした中、BoEが約6カ月は様子見を続け、その後に政策金利を50bp引下げて、金融危機からの正常化分を完全に戻すと見込んでいる。ただ、利下げに伴って実施されると予測していた追加の量的緩和は想定シナリオから完全に外した。一方で、総選挙後に見込まれる大規模な刺激策によってMPCが説得される形になり、政策金利を変更しない可能性もある。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司