(本記事は、小宮 一慶の著書『伸びる会社、沈む会社の見分け方』PHP研究所の中から一部を抜粋・編集しています)

会社の目標設定

大きな目標
(画像=MrArtHit/Shutterstock.com)

○ 「ワクワクする中間目標」がある会社は伸びる
× 売上や利益の数字目標ばかりの会社はしんどい

▼お客さまも働く人も喜ぶ目標を立てる

営業目標というと、売上目標、利益目標しか考えないのはダメな会社です。

会社は利益を上げなければいけません。そのために、それぞれのセクションでどれだけの売上が必要だと算段することも確かに必要です。しかし、売上目標というのは、社員が意義を感じてイキイキと働くこととは次元の違う話です。それで働く意欲が起きるかというと非常に疑問です。

子どもに勉強する気を起こさせたいときに、「テストで何点取れなきゃダメだ」と言っても、やる気にはなりませんね。

やる気を起こさせるためには、楽しくなければいけないのです。

仕事だって同じです。

やりがい、働きがいを感じられるような目標があれば、やる気が湧いてくるのです。

「全員が、全社の売上や利益目標を把握していることが重要」といったことを言う経営コンサルタントもいますが、私はそうは思いません。売上目標いくら、前年比何%アップというのは、経営者や株主にはいいかもしれませんが、社員にはしんどいだけです。

お金ばかりを追いかけている会社では、社員がノルマに追われて、イキイキと働けなくなります。さもなければ金の亡者になります。もっと楽しみな目標のほうがいい。

『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』(ジム・コリンズ著、山岡洋一訳/日経BP社)には、飛躍的に事業が伸びる会社の一つの条件として、働く人が仕事に意義を見出し、ワクワクすることが挙げられています。

そして、各人の目標の設定の仕方でワクワク度が違ってきます。ワクワクする目標とは、例えばどういうことか。

ホテルのドアマンだったら、「今月、500人のお客さまから『有難う』と言われることを目指そう」といったことなどが考えられます。ドアマンは常にお客さまに丁寧に接していますが、「有難う」の言葉をかけてもらおうとすることで、いつも以上にお客さまに笑顔で親切に接しようとするでしょう。

出版社の編集者だったら、「増刷のかかる本を作ろう」と言われたら、「よ〜し、売れる本を作ろう」「どんな企画がいいだろうか」と意気が上がります。商品開発の部署だったら、「今期は、新しい商品を3つ開発しよう」という目標があったら、なんとか実現させようと楽しみながら頑張れるのではないでしょうか。その結果、売上、利益が上がるのです。

働いている人たちがワクワクする、なおかつお客さまが喜ぶ、そんな中間目標を立てられるのが、本当に伸びていける会社です。

▼「目標」と「目的」の違いを理解しているか

会社における「目的」とは、何のために自社が存在しているのか、その存在意義です。

一方、「目標」とは、目的をかなえる手段や方法論やその達成度合いです。

具体的な目標を持つことで目的を実現させやすくするわけですが、目標を達成することは目的にはなり得ません。そこを勘違いしてはいけないのです。

多くの会社には、理念やビジョンが掲げられています。一方、売上や利益を度外視していてはビジネスになりません。しかし、利益を上げることは大事ですが、働く目的がお金儲けのようになってはいけないのです。

私が人生の師と仰いでいる曹洞宗の故・藤本幸邦老師が授けてくれた教えの中に、「お金を追うな、仕事を追え」という言葉があります。お金儲けのために仕事をするのではなく、良い仕事をして社会に貢献しなさい、そうすれば、結果として自然とお金が入ってくる、という意味です。会社とは、ビジネスとは、そうあるものなのではないでしょうか。

私が長くお付き合いしているある会社では、月初めに全員がそれぞれ小さな行動目標を立てます。お客さまに喜んでいただけるようなこと、あるいは働く仲間が喜ぶような工夫など、ちょっとしたことでいいのです。月末にはそれを自己評価し、上司にも評価してもらいます。そして上司のアドバイスを受けながら、翌月の行動目標を相談します。

些細なことであっても、毎月何かを変えていくことができる。自分が成長しているのが実感できます。お客さまや働く仲間に喜んでもらうことで、みんな仕事に対してやりがいを感じながら、楽しく働いています。そして業績は、確実に伸びています。会社として、実に良いサイクルで回っています。

良い経営を行っている会社は、各人がワクワク、イキイキ働けるようにするための中間目標を設定できている会社なのです。

会議は会社を物語る

会議
(画像=PIXTA)

○ 成長している会社では、会議で多くの人が話す
× 停滞している会社では、会議はリーダーの独演会

▼終わりの時間が決まっていない会議

どんな会議をしているかを見ると、その会社の姿勢がよく分かります。

外資系の会社から日本の会社に移った人が、「会議の終わる時間があらかじめ知らされないのに驚いた」と言っていたことがあります。

アメリカの会社は、何時から何時までと会議の開始時間と共に終了時間が最初から決まっています。30分の会議なのか、1時間の会議なのか、それによってどのくらい具体論に踏み込んだ話をしたらいいのかが、時間からも分かるのです。それは、話す内容を具体的に決めて、時間管理がしっかりしているからできるのです。

日本の会社の会議は、始まる時間と終わる時間は定められていても、終わる時間が無視されることも少なくありません。1時間オーバーなどざらです。そのため「前の会議が長引いちゃって......」と、その後の予定がずれ込んでしまったりすることがしばしばあります。

いつ終わるか分からないダラダラ会議の最大の原因は、「会議をしていることを、仕事をしていると思っている」からです。幹部がそうだと、会議は長引きます。

どうでもいい議論が繰り返されたり、重箱の隅をつつくような指摘をしたりすることもそうですが、幹部が朗々と自説を話し、独演会になっていることも多いのです。会議も停滞、業績も停滞しがちな会社の特徴です。

成長している会社は、幹部も社員も会議にのんびりと時間を費やしている暇がありません。業務の報告・連絡も、いまはネットですばやくできます。効率的な会社は、会議でやるのは大事なポイントの話し合いです。それも、多くの人から、きちんと意見が出るのが良い会議です。会議は、リーダーの独断を防ぐことと、幹部の育成のためにもあるのです。

もう一つ大切なことは、会議では「意味」の伝達だけでなく「意識」の共有も必要ということです。「〇〇の戦略を行う」といった意味は、場合によってはメールでも伝えられますが、意識は面と向かって話すほうが伝わりやすいのです。

▼資料作成よりも商品・サービスを磨くことにエネルギーを使っているか

会議がダラダラ長いのも問題です。そういう会社は会議資料もやたら多い傾向があります。

私はいろいろな会社の取締役会や経営会議に出席しますが、資料の量が多すぎて「もうちょっとコンパクトになりませんか」と言うこともあります。そうすると、今度は減りすぎて要領を得ないものになってしまうのです。知りたいことが分からないので、「ここは具体的にはどういうことですか?」と聞くと、細かい資料を出してくる。結局、たくさんの資料を作ることになって元の木阿弥です。

資料づくりで大事なのは、「誰に、何を知ってもらうための資料か」を考えることです。

部署を統括している役員に見せるのであれば、詳細を知ってもらう必要もあるでしょう。

しかし、私が社外役員として会社の経営状況を確認するためには、誰がどうした、こうしたという詳細は要らないのです。そういうことを考えずに、担当役員に出したものを私にも流してくるのは、資料の意味がよく分かっていない会社だということです。

「KPI(Key Performance Indicator)=重要業績指標」という数字の設定のしかたにもよりますが、そういう数字も含めてカギとなるポイントを簡潔に伝えてほしいわけです。例えば、売上高の成長率であったり、他社と自社とのシェアの違いであったり、先月と今月の違いであったり、力を入れて新発売した商品の売れ行き動向であったり、そういう重要なポイントこそ、私が知りたい部分です。

A4で1枚にまとめるのがいい、と聞くと、真似をしてやろうとする人や会社がありますが、形だけ真似しようとしてもろくなものになりません。字のフォントだけ小さくなった会社もあります。大切なのは、相手が知りたい情報を簡潔に過不足なくまとめようとする心がけ、姿勢であって、A4サイズ1枚にすることではないのです。

もしやるのであれば、この会議に必要な資料をA4で1枚にまとめるためには「このポイントとこのポイントは外さないこと」という考え方の整理ができれば、大事なところが漏れているようなものになりにくいでしょう。ただこれは能力やセンスによる部分も大きいです。

分かりやすい会議資料は大事です。しかし、資料を作ることが目的化してはダメです。資料はあくまでも会議をスムーズに進めるための副次的なもの。会議ではその資料をもとに、有用な議論がなされることが何よりも大切なのです。会議資料づくりのために徹夜などしてやたら時間を費やすのは、時間がもったいないだけです。そんなすごい資料を作っている暇があったら、良い商品やサービスを作ることにエネルギーを費やすべきです。

伸びる会社、沈む会社の見分け方
小宮 一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。株式会社小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。1981年、京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。1984年7月から2年間、米国ダートマス大学経営大学院に留学。MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の1993年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。1994年5月からは、日本福祉サービス(現セントケア)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。1996年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。
著書に、『社長の心得』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経営者の教科書』(ダイヤモンド社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(ともにPHP研究所)など多数。

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