シンカー: グローバル経済が直面する2点の重要なリスクが大きく低下してきた。それは「合意無きブレグジット(英国のEU離脱)」と「米国と中国の貿易紛争激化」である。ファットテイル的なリスクに怯えてきたマーケットは、不透明感が薄れてきたことを好感しているようだ。ただ、グローバル経済の持ち直しの弱さなど、通常の正規分布的なリスク要因は残っており、マーケットの変動はまだ大きいままであるとみられる。日米は、強い人手不足感と生産性向上が見込める新たなテクノロジーを背景に、極めて低い長期実質金利が企業活動を刺激し、設備投資サイクルが更なる上昇を続けることができるのかが注目である。中国は、物価上昇とマーケットの過熱をうまくコントロールしながら、政策対応により、しっかりとした経済成長率を維持できるのかが注目である。欧州は、明らかに不足している総需要をECBが刺激できる余地は極めて小さく、ドイツを中心に財政政策の緩和への方向感が継続するのかが注目である。これらの注目点が現実のものとなる可能性が高まるまで、マーケットの変動は比較的大きい状態が維持されるだろう。しかし、ファットテイル的なリスクが小さくなった考えられ、政策当局もマーケットにフレンドリーな態度を長期間維持しようとしているため、マーケットの変動をうまく利用しながら、中長期的な株式市場の上昇トレンドをとらえることが重要であると考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●英国経済(12/17): ジョンソン首相の歴史的勝利

英国ボリス・ジョンソン首相の、ブレグジットにほぼ全てを集中する大胆なギャンブルは好結果を収めた。総選挙で、保守党は実質的な過半数(78議席差)を得た。短期的には、ジョンソン首相が2021年1月31日までのブレグジット実現を全力で目指すことになり、それが成功することはほぼ確実だ。だが今後の航海が平穏になるとは限らない。ジョンソン首相は、どんな場合でも(2020年末に終了する)移行期間の延長を要請することはないと主張している。それ(2020年末)までに将来の貿易に関する交渉で結論が出ると(首相は)考えているが、この点でジョンソン氏が語った多くのことと同様に、ほとんど選挙対策の言葉だったとみられる。

●米国経済(12/16): 米国と中国の通商交渉…当面は合意

米国と中国の担当者は、貿易交渉で第1段階の合意に達したと発表した。この合意で、貿易戦争がさらに加速して本格化するリスクは大幅に低下したが、経済への直接的なプラス効果は控えめとみられる。現行追加関税の廃止は限定的で、中国構造改革の詳細も引続き不透明だ。

今後残る問題は、1月に署名される見込みである今回の合意の詳細、第1段階の合意条件達成の認証、そして交渉を次段階に進めることだ。交渉進展のペースは不安定になるとみられる。米国のトランプ大統領は合意に達したことを宣伝できるが、(次段階の合意があるにしても)第2段階での合意は、2020年大統領選挙の後まで待つことが必要になるかも知れない。さらに、米国と中国の間の緊張が解消するとは考えづらく、ハイテク分野、投資、資金フローから地政学にわたる、他の多数の面に引続き影響するだろう。

●ECB(12/13): 「フクロウ」を目指すラガルド新総裁

クリスティーヌ・ラガルドECB新総裁は本日(12日)、就任後初の記者会見を問題なく乗り切った。事前見込み通り、ラガルド氏はECBが従来決定した政策や文言にこだわった。一方、自身のコミュニケーション・スタイルも考慮していた。市場が総じて影響されなかったことで(米国と中国の通商交渉に言及したことが影響はしたが)、ラガルド氏も初舞台が上々の出来だったと安心できるだろう。ラガルド氏は制度・組織に関する知識では誰にも負けない。その一方で他の質問の多くは、近づいているECBの政策見直しに関するものだった。同氏は政策見直しの機が熟したと考えており、国民討論会(GRAND DEBAT)スタイルで多くの聴衆を集めて行うとみられる。これでしばらく時間を稼ぐことが出来るが、経済指標の動きがより急速になれば、市場も現在ほど寛大ではなくなるだろう。ただ現在は、ECBにすぐ動くように求める圧力はかかっておらず、ラガルド総裁も準備時間を多少持つことができる。

●FOMC(12/12): 不確実性は当面低下したという見方

クリスティーヌ・ラガルドECB新総裁は本日(12日)、就任後初の記者会見を問題なく乗り切った。事前見込み通り、ラガルド氏はECBが従来決定した政策や文言にこだわった。一方、自身のコミュニケーション・スタイルも考慮していた。市場が総じて影響されなかったことで(米国と中国の通商交渉に言及したことが影響はしたが)、ラガルド氏も初舞台が上々の出来だったと安心できるだろう。ラガルド氏は制度・組織に関する知識では誰にも負けない。その一方で他の質問の多くは、近づいているECBの政策見直しに関するものだった。同氏は政策見直しの機が熟したと考えており、国民討論会(GRAND DEBAT)スタイルで多くの聴衆を集めて行うとみられる。これでしばらく時間を稼ぐことが出来るが、経済指標の動きがより急速になれば、市場も現在ほど寛大ではなくなるだろう。ただ現在は、ECBにすぐ動くように求める圧力はかかっておらず、ラガルド総裁も準備時間を多少持つことができる。

●欧州経済(12/09): ESM改革についてのFAQ

弊社はESM(欧州安定メカニズム)改革を巡る話題、論争を受けて、お寄せ頂いている重要なご質問に対する答えを今回は示していく。弊社の見たところ、ESM改革で枠組みが大きく変わることはない。特に、自動的な債務リストラクチュアリング・メカニズムは含まない(債務リストラに関するルールがより明確化、利用がより簡単にはなるが)。さらに、こうした改革と銀行の国債エクスポージャー制限がリンクする可能性もない(後者は、近づいている銀行同盟完成に向けた議論で、最も論争を呼ぶトピックになるとみられる)。

12月のユーログループ会合(ユーロ圏財務相会合)で、ESM改革の問題は解決しなかった。ただ原則では合意しており、2020年第1四半期(Q1)には最終合意に達すると見込まれる。こうした(ESM改革の合意を)少し遅らせたこと、ユーログループが改革パッケージ(ESM改革、ユーロ圏財政、銀行同盟)に言及した事実は、弊社の見る限り「メンツを保つ」解決策である。実際にも、銀行同盟完成へのモメンタムが最近出ていること、EU首脳から、2020年には銀行同盟を何らかの形で進展させると約束する発言が出ていることは、ESM改革を承認する交換条件とみることができる。

●ドイツ経済(12/05): 大連立の終わりと財政緩和が実現するのか

完全なサプライズではないが、ドイツ社会民主党(SPD)では、大連立に非常に批判的なペアが新しく党首に選ばれた。弊社はいまのところ、現在の連立政権、または総選挙を実施した後の新しい連立政権が、安定した基盤を持つことは難しくなるとみている。ただSPDには現時点で、総選挙を望むインセンティブがほとんど存在しない(世論調査の結果が悪いため)。SPDはその代わりに、現行の連立協定の再交渉を模索する可能性がある(CDU/キリスト教民主同盟のクランプ=カレンバウワー党首は明確に拒否しているが)。弊社は現在、現行連立政権の継続、メルケル首相留任(支持率が依然として高いことから)を、ともに否定できない(両方とも可能性が残るとみている)。週末の(6日から始まる)SPD党大会は重要だが、SPDの大幅な党勢回復があれば、弊社にはサプライズとなるだろう。弊社はその代わり、緑の党の政権入り(その場合は気候変動や公共投資支出への注目が強くなる)は時間の問題に過ぎないと考えている。そうなれば、「黒字ゼロ」の均衡財政政策が中止になることは確実だ。

●欧州経済(12/05): 新生欧州委員会の新たな希望は

フォンデアライエン新委員長の下で、欧州委員会がきのう(1日)始動した(即ち始動の遅れは1カ月に留まった)。新しい欧州委員会は以下の点に注力するとみられる。(意欲的な目標を設定している)気候変動、未解決問題の完了(銀行同盟、資本市場同盟など)、防衛及び移民政策、そして欧州全体を包括する民主制である。着任までのプロセスも困難だった(時には混乱していた)が、次の2週間が新生欧州委員会にとっては、最初に迎える真の試金石になる(COP25と、12月12-13日にはEU首脳会議を控える)。だが、厳しいスタートになる可能性はあるが、弊社は2020年に、気候変動(国境炭素税やサステイナブル・ファンド)、資本市場同盟、そしてより重要なことに銀行同盟で(年間を通じた詳しいロードマップが明らかになる)、それぞれ何らかの進展があると考えている。複数年財政枠組み(2021-27年EU予算)は論争を呼ぶことになるだろう。英国の離脱により収入が減る中でも、欧州委員会は(防衛、移民、気候変動などへの)支出増加を望んでいるからだ。

●債券市場(12/16):米中貿易交渉の合意待ち

米連邦準備制度理事会(FRB)は12月10~11日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、経済の先行き不透明感に対する懸念が弱まってきたと表明した。欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁も、景気下振れリスクが以前ほど顕著ではなくなったとの認識を示した。現在、両中央銀行の金融政策は一時休止の状態にある。英国の総選挙が終わり、米中間の貿易関係における次のステップが年末に向けて債券市場の方向を左右することになろう。報道によれば、本稿執筆時点において、米中貿易交渉の第1段階の合意条件がトランプ米大統領の承認待ちとされる。

●債券市場(12/11):2020年上半期外国債券市場見通し:潜水時間

米国主導の景気減速と米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げが、2020年の債券利回りをボトムに近づけ、大底圏内に押しとどめるだろう。米国経済の弱さが欧州中央銀行(ECB)に圧力をかけ、より緩和的な政策スタンスをとらせ、利回りを最近のレンジの下限付近に維持する可能性がある。タームプレミアムが復活する見込みは薄いが、そのようなシナリオに対するヘッジは魅力的な価格で実施できる。イールドカーブは地域によって様々な動きが予想され、米国はFRBの利下げを受けてスティープ化、ユーロ圏は金利の変化に連動するディレクショナルな展開が続く見通しだ。ユーロ金利のボラティリティーが低下し、投資家は引き続きロングエンドや比較的ハイリスクの商品へと向かうだろう。一方、米国では利下げ観測が米国債市場への資金流入を支えるだろう。レンジ内での活発なトレーディングを通じて、さらにはオプションを活用したコンディショナル戦略を駆使して、大底圏内でアルファの利益を追求していく必要があるだろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司