プライベート・バンクのインベストメント・ソリューション・チームのヘッドを務めた5年の間には、多くの「富裕層・超富裕層」と呼ばれるお客様にお会いすることが出来た。勿論、私自身はプライベートバンカーでは無いので「何か事情があって」の登場ということになるのだが、多くのお客様に共通する陥り易い罠があることに気がついていた。
本来優秀なプライベートバンカーが担当していれば、彼らがお客様にとって最適と考える運用を提案しているし、彼らがお客様の良きアドバイザーとなってご相談に乗っているので、理論上では誤った結果や罠に落ちる筈は無い。しかしやはりお金の事であり、そう理論通りに「理想の形」とならないこともままある。
その代表的な罠は次の二つ。
(1)お客様のポートフォリオがグチャグチャ。
(2)お客様ご自身が何に投資しているのか、よく理解されていない。
こう書くと恐らく現役のプライベートバンカー達に怒られそうだ。だが、現象を分かり易く端的に言うと上記のようになる。今回は「富裕層が陥りがちな罠」について論じたい。
なぜ、ポートフォリオが「グチャグチャ」なのか?
「お客様のポートフォリオがグチャグチャ」とは、全資産をひとつのポートフォリオとして管理出来ていないということだ。パフォーマンスの9割はアセット・アロケーションが決めると言われる中で、アセット・アロケーションが全体で見るとグチャグチャになっている場合が多い。
その最大の理由は、富裕層が取引している金融機関の多さだ。銀行、証券、日系、外資系それに最近ではIFAという選択肢も加わり、とても1社や2社では済まない。その各社に分散して数千万円から数億円、数十億円という資金が預けられている。個々の預け先では何らかのポリシーがあったとしても、ひとつのポートフォリオにまとめてみると、ただの「ごった煮」になっていることが多い。
少なくとも私が見聞きした限りでは、他行、他社の分まで含めて、自分が担当しているお客様の全金融機関との取引内容をすべて把握しているバンカーはほぼ皆無に等しい。だから全体を調和して最適な提案をするのはまず無理だ。でも逆にお客様の立場から考えれば当然のこととも言える。どんなに信頼出来るバンカーであろうとも、身内ではない。ここで言う身内とは血縁者という意味では無く、同じ利害関係のボートに乗っているか否かという事である。金融機関という業者は明らかに違うボートに乗っている。