毎日新聞は2019年11月13日、賃貸の仲介手数料1ヵ月分は取りすぎだとして、裁判所が仲介会社に返還命令を出したことを報じました。これを受けて、賃貸における仲介手数料が注目されています。今回は、裁判の概要と借り手が交渉する際の注意点について解説します。
目次
1.仲介手数料とは
仲介手数料は「紹介手数料」とも呼ばれ、借り手とその物件のオーナーである貸し手との間を取り次ぎ、仲介してくれた会社に対して支払う報酬です。仲介手数料は「借り手側が支払うもの」と思われがちですが、実際は借り手と貸し手の両方に支払い義務があります。
1-1.仲介手数料の相場
一般的な仲介手数料の相場は賃料の半月~1ヵ月分で、それに消費税を加算した額(つまり1.1倍)を支払います。仲介手数料は、宅地建物取引業法で上限が「賃料の1ヵ月分以内」と定められています。原則として借り手側と貸し手側が半分ずつ支払いますが、仲介を依頼する前に承諾を得ている場合は、「借り手側もしくは貸し手側のどちらか一方から賃料の1ヵ月分を上限として定めた金額を受け取ることができる」という例外規定もあります。
1-2.支払いのタイミング
仲介手数料を支払うタイミングは、賃貸借契約が成立した時です。したがって、契約締結前にキャンセルした場合は、支払う必要はありません。
2.仲介手数料1ヵ月分は高すぎる?裁判の内容をおさらい
前述のとおり、仲介手数料の上限は貸し手・借り手合わせて賃料の1ヵ月分の1.1倍以内とされています。ただし仲介を依頼する前に貸し手や借り手の承諾を得ている場合は、貸し手または借り手から賃料の1ヵ月分以内の金額を仲介手数料として受け取ることが認められています。
つまり、貸し手・借り手の双方から仲介手数料を受け取る場合、原則は「月額賃料の0.55倍」以内ということになります。
今回の裁判の発端は、都内在住の60代の男性が、「承諾していないのに1ヵ月分の仲介手数料を支払わされた」と主張し、大手仲介会社を訴えたことです。一審では男性が敗訴したものの、控訴審において東京地裁は、「月額賃料の0.55倍」を超える約12万円の仲介手数料を返還するよう仲介会社に命じました。仲介会社は現在高裁に上告中で、「コメントは差し控える」としています。
3.裁判における3つの争点
この裁判におけるポイントは、以下の3点です。
3-1.宅建業法で定められている仲介手数料の上限は
2017年12月8日に発表された国土交通省告示第1155号により、「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」が改正され、2018年1月1日より実施されました。これによると、貸借の媒介に関する報酬の額は以下のとおりです。
宅地建物取引業者が宅地又は建物の貸借の媒介に関して、依頼者の双方から受けることのできる報酬の額(当該媒介に係る消費税等相当額を含む)の合計額は、当該宅地又は建物の借賃の1ヵ月分の1.1倍に相当する金額以内とする。この場合において、居住の用に供する建物の賃貸借の媒介に関して依頼者の一方から受けることのできる報酬の額は、当該媒介の依頼を受けるに当たって当該依頼者の承諾を得ている場合を除き、借賃の1ヵ月分の0.55倍に相当する金額以内とする。
つまり、仲介会社が受け取れる金額は「借り手と貸し手を合わせて家賃の1.1倍が上限」で、「建物がアパートやマンションなど居住用の場合は、借り手および貸し手から受け取れる仲介手数料は家賃の0.55倍が限度」ということです。ただし、「仲介の依頼をするときまでに承諾を得ていれば、借り手または貸し手のどちらか一方から家賃の0.55倍を超える金額を受け取ってもよい」ということになります。
3-2.原告が被告に媒介の依頼をしたのはいつ
2つ目のポイントは、「原告である借主が仲介会社に対して仲介の依頼をしたのはいつか」です。本件における入居までの流れは以下のとおりです。
2012年12月末:借り手側による内覧と仮申込みが行われる
2013年1月8日:借り手側から入居の意思表示が行われる
同1月10日:仲介会社から賃貸借契約日(1月20日)の案内が行われる
同1月15日:仲介会社から1ヵ月分の仲介手数料が記載されている明細書が借り手側に渡される
同1月20日:借り手側が入居申込書(仲介手数料を記載)および賃貸借契約書に署名捺印する
同1月22日:借り手側が仲介手数料を支払う
裁判所は媒介(仲介)の依頼が成立した日について、1月8日に借り手側が入居の意思表示を行い、1月10日に仲介会社により契約日の案内が行われたことから、1月10日と判断しました。
3-3.いつ借主に許諾を得たのか、媒介の依頼を受けたのはいつか
3つ目のポイントは、「仲介の依頼を受ける前に、仲介手数料について借り手から承諾を得ていたか」です。
本件では、借り手側が家賃の1ヵ月分を支払っていることから、そのことについて1月8日よりも前に仲介手数料を原則の家賃の0.55倍以上を支払うことについて承諾した事実がなければなりません。
しかし、仲介会社側は1月15日に1ヵ月分の仲介手数料が記載されている明細書を借り手側に交付したことから、媒介(仲介)の依頼が成立した日は借り手が署名捺印を行った1月20日であり、それよりも前の1月15日に明細書を交付していることからその意思があった、つまり承諾があったと主張しています。
4.裁判所が返還命令を出したのは事前に同意を得ていなかったから
仲介手数料は原則「月額賃料の0.55倍」とされていますが、事前に借り手の同意を得て借り手だけに請求するのであれば、賃料の1ヵ月分を請求しても問題にはなりません。
今回の裁判で争点は、3つ目のポイントの中にある「仲介の依頼を受ける前に、仲介手数料について借り手である男性の承諾を得ていたか」です。
今回のケースでは、仲介会社の担当者が契約締結日を男性に連絡しており、その時点で仲介依頼が成立したとみなされました。その後送付された明細書に仲介手数料が明示されており、男性はそのまま支払いました。
つまり、男性の承諾を得る前に明細書に1ヵ月分の仲介手数料を記載し、請求したことになります。これが問題視され、裁判所は仲介会社に多く受け取り過ぎた分の仲介手数料を返還するよう命じました。
5.仲介手数料が0ヵ月分になるのはなぜ?
仲介手数料は仲介会社の収益であり、原則として上限とされている「家賃の1.1倍」を受け取ることが慣例となっています。しかし、中には仲介手数料が無料になるケースもあります。
5-1.不動産仲介業者が管理している物件を契約する時
不動産仲介業者が、貸し手であるオーナーからその物件の管理業務を請け負っているケースです。不動産仲介業者が「オーナーから管理料を受け取っているため仲介手数料をもらう必要はない」と考えて無料になることがあります。
5-2.大家・管理会社から不動産仲介業者が報酬をもらえる時
仲介業者は、貸し手であるオーナーから客付けのための広告を依頼されることがあります。その場合は広告費が仲介会社に入るため、その中に仲介手数料を含めるケースがあります。
5-3.大家が早く入所者を見つけたいとき
物件を所有しているオーナーは「できるだけ空室を避けたい」と考えます。そのため、通常であれば借り手側も負担する仲介手数料を貸し手であるオーナーが負担することでお得感を出し、入居を促すことがあります。この場合、借り手側が仲介手数料を支払う必要はありません。
6.仲介手数料の減額交渉はできる?タイミングや注意点
結論から言えば、仲介手数料が原則である「月額賃料の0.55倍」より高く設定されている場合、借り手として減額交渉をすることができます。タイミングとしては、仲介会社が仲介手数料について説明した時になるでしょう。
今回の裁判のように、仲介手数料についての説明がないまま明細書が送付され、そこに1ヵ月分の仲介手数料が記載されていた場合も、交渉によって仲介手数料を値下げできる可能性が高いです。
ただし人気がある物件の場合は、交渉に時間をかけていると別の人が契約してしまうかも知れません。このことを踏まえて、慎重に行動する必要があります。
最近は「仲介手数料無料」や「仲介手数料半額」を謳う物件もありますが、そのような物件は借り手がなかなか見つからないため仲介手数料が安くなっているケースが多いです。
部屋を借りる時は、仲介手数料以外の面も十分に比較検討した上で決断することが大切です。
(提供:YANUSY)
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