かつては世界をリードした日本の半導体、いわゆる「日の丸半導体」。2018年に東芝が半導体子会社を売却、そして2019年にはパナソニックが半導体事業から撤退し、かつての勢いはすっかりなくなった。「日の丸半導体」の凋落はなぜ起きてしまったのか。その背景を探る。
パナソニックが半導体事業を売却
パナソニックは2019年11月、子会社のパナソニックセミコンダクターソリューションズ(PSCS)が中心となって展開している半導体事業を譲渡することを発表した。譲渡先は台湾を拠点とするヌヴォトン・テクノロジーで、売却額は2億5000万ドル(約270億円)とされている。
パナソニックはこの事業譲渡の背景をどう説明しているのだろうか。プレスリリースによれば、競合他社の勢力拡大やM&Aを通じた業界の再編などが進み、半導体事業における競争の激しさが世界的に増したことが一つの要因だという。国名には触れられていないが、韓国勢などによって苦戦を強いられた形だ。
2020年6月を目途に子会社の株式をヌヴォトン・テクノロジーに移転し、パナソニックの半導体事業の歴史はいったんの区切りを迎えることになる。
かつては世界をリードした日本の半導体
かつて日の丸半導体は世界の中で大きな存在感を誇るまでの躍進を遂げた。
1970年代に大手各社が半導体事業に参入し、データの一時保存などに使う「DRAM」を大型コンピューター向けに製造し始めた。日本製品は高い技術を世界的に評価され、先行していたアメリカ企業を市場シェアで抜いた。特にNECや東芝などは先頭に立って世界をリードする企業だった。
ただ日本勢が存在感を示していた時代は、徐々に変化を迎える。韓国や中国などのアジア勢が台頭してくるようになり、日本勢は技術革新や市場環境の変化への対応にも苦戦した。研究開発費などへの投資競争の様相を示す中で、市場における優位性にも陰りをみせ、過去の勢いは無くなっていった。
そんな中、日立製作所とNEC、三菱電機が競争力を高めようと「ルネサスエレクトロニクス」や「エルピーダ—メモリ」を誕生させたが、2012年にエルピーダが破綻。東芝も半導体子会社を2018年に売却し、そして2019年にパナソニックも半導体事業から撤退した。
再び世界をリードするための鍵は? 5Gや次世代自動車
半導体市場は決して中長期的に縮小しているわけではない。世界半導体市場統計(WSTS)によれば、2019年は縮小する見込みであるが、その後はまた規模が拡大に転じる可能性が高いようだ。
こうした中で既存産業に対する半導体製品だけではなく、新たに規模が拡大する領域への供給を強化すれば、日の丸半導体による逆襲は決して夢物語ではない。その新たな領域として考えられるのが、次世代通信規格「5G」や次世代自動車などだ。
「5G」や次世代自動車で半導体市場は活気づくか
2020年には5Gを活用した通信機器の需要が一気に高まることが予想される。5Gとは、4Gを発展させ
・超高速:2時間映画のダウンロードは3秒で完了
・多数接続:身の回りの機器がネットに接続可能
・超低遅延:リアルタイム通信でラグがほぼない
といった新たな機能を持つ移動通信システムである。そして、いずれは6Gの時代も来るであろうと考えられているのだ。
5G通信機器では半導体による性能のばらつきがあり、品質に信頼のある日の丸半導体への期待は高まっているといえるだろう。
また、次世代自動車といえば「コネクテッドカー」や「自動運転車」が挙げられる。こうした車両には品質はもちろんのこと、耐久性が高い半導体が求められる。
日本の半導体企業がこうした品質と耐久性の高さを併せ持つ、市場のニーズに沿った半導体を作ることができれば、復活も夢ではない。
日の丸半導体、息を吹き返すか
日本の半導体に関していうと、明るいニュースは決して多くないが、だからと言って将来も暗いわけではない。さまざまな領域で技術革新が起きる中で、求められる半導体のニーズも変わる。今後の市場の期待を上回るものができれば、日の丸半導体が息を吹き返す時代が来ることは十分に考えられるだろう。
文・岡本一道(経済・金融ジャーナリスト)/MONEY TIMES
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