銀行にお金を預けているだけで税金がかかるようになるかもと聞くと、そんな税金払いたくないとほとんどの人は思うのではないでしょうか。もちろん現在はそんな税金はかかりませんが、景気がまったく良くならなければ将来的にもしかして、という仮定で時々ニュースに「貯蓄税」という言葉が登場します。今回はこの「貯蓄税」とはどういうもので、何のための税金なのかをご紹介します。

貯蓄税ってどういう税金?

貯蓄税,仕組み,問題点
(画像=PIXTA)

貯蓄税とは、文字通り貯蓄に対してかかる税金です。例えば、「銀行に預けている預金が1,000万円を超えたら、その預金に対して毎年2%の税金がかかる」といったような税金のかかり方が考えられます。

2019年12月現在、メガバンクの普通預金に預けていても金利は0.001%ほどなので、今この貯蓄税が導入されると、銀行に預けているだけでお金が減っていくことになります。大変な税金案というのがわかるのではないでしょうか。

貯蓄税導入の意図

貯金を投資へ回すことで景気対策を行う

貯蓄税にはどういう意図があるのでしょうか。貯蓄税の目的を考えるために、まず「景気」というものを理解しましょう。普段私たちは「景気がいい」「景気が悪い」という言葉を良く使っていますが、「景気がいい」とは日本の国内にあるお札が増えることではなく、お金の流れが良くなる状態のことをいいます。

消費者がものをどんどん買うと、会社にお金がたくさん入り、その会社で働く人の給料やボーナスが増えます。そうすると新しいものや高価なものを買う余裕ができます。また、会社自体も設備投資などをして新しい商品や魅力的な商品をどんどん作れるようになり、余裕ができた消費者がそういったものを買うことで会社にお金が入る……と、ますますみんなが豊かになります。

一方、消費者がものを買わないと会社の売り上げが減るので、働いている人の給料も減ります。給料が減るとますますものが売れなくなるので、さらに会社にお金が入らなくなり……となると、いつまで経っても景気は良くはなりませんよね。

つまり、景気が良くなるためにはお金が世の中に出回ることが必要で、貯蓄税の意図はまさにそこにあります。貯金しているだけでお金が減っていくなら、多くの人は銀行にお金を預けるのが馬鹿らしく感じるようになるでしょう。その結果、物を買ったり他の投資をし始めたりする人が増え、お金が世の中に出回ることで景気が良くなることを貯蓄税導入によって期待しているのです。

課税を公平にする

2019年10月から10%に税率が上がった消費税ですが、全員に10%の負担がかかるなら公平な税金と思っている方も多いと思います。しかし、日本生活協同組合連合会が発表した2017年「消費税しらべ」報告によると、収入が低い人ほど消費税の負担が大きいことがわかります(表1)。

表1. 年収帯による消費税の負担率

年収帯 実収入 支払った消費税 負担率
400万円未満 302万7,648円 17万3,149円 5.72%
400万円以上
600万円未満
497万7,635円 21万8,773円 4.40%
600万円以上
800万円未満
714万3,084円 24万6,775円 3.45%
800万円以上
1,000万円未満
908万5,248円 31万5,771円 3.48%
1,000万円以上 1,259万7,658円 35万2,499円 2.80%

しかし、上で紹介した貯蓄税の例では、そもそも1,000万円の貯金がない人は税金がかかりませんし、貯金額に応じて一定の割合で税金を負担するので、ある程度格差に対応している税金であるとも言えます。

貯蓄税の問題点

タンス預金が増えるかも

貯蓄税には問題もあります。まず、今まで銀行に預けていたお金が投資やものを買う方向に向かえばいいのですが、お金を減らしたくない人の中には「タンス預金」で保管しようとする人も出てくるでしょう。タンス預金では当然景気は良くなりません。

さらに悪いことに、家でお金を保管する人が増えると空き巣や強盗も増え、治安が悪化する可能性もあります。

過去の日本の貯蓄税

実は日本では、高額資産所有者に税金がかかる「富裕税」というものが1950年に一度導入されました。多くの資産を持っている人にかかる税金という意味では貯蓄税と似ています。しかし、富裕税の税収全体に占める割合がそれほど多くなく、また個人の資産をどうやって評価・把握するのかという問題から、1953年に廃止されました。

このような経緯もあり、貯蓄税が導入される可能性は決して高くはないのですが、個人の資産の把握が難しいという問題に関していえば、マイナンバーが普及するに従って徐々に解決していくかもしれません。

すぐに導入される可能性は低いが、動向は見ておこう

銀行に預金しているお金に税金がかかる貯蓄税について紹介しましたが、今のところ実際に貯蓄税が導入される可能性は高くないでしょう。しかし、マイナンバー制度、キャッシュレス化などにより、個人の資産の管理が進むことは、貯蓄税導入にとっては追い風です。少なくとも貯蓄税がどういうものか知っておき、ニュースでこの言葉が出てきたら理解できるようになっておきましょう。

文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)/fuelle

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