カンブリア宮殿,メルカリ
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10人に1人が利用~アプリ「メルカリ」の魅力

シニア達の間で利用者が急増しているサービス、メルカリ。千葉・茂原市に住む工藤信一さん(81)と良子さん(80)夫婦もその利用者だ。生前整理のため、2年前から要らなくなった物を、メルカリを使って処分し始めた。メルカリはスマートフォンで商品を売り買いできるアプリだ。

例えば福井県の漆の里、河和田塗りの器。亡くなった母親が46年前に購入した高級漆器の5脚セットが1万5000円で売れた。家庭菜園で使っていたミニ耕運機は、6万円で買った物が約1万7000円で売れたと言う。

2年間で100点ほど売った工藤さんの総売り上げは42万円以上に。なかにはゴダイゴのタケカワユキヒデさんのエッセイ集が、定価1300円だが、絶版になっていて6100円で売れたことも。片付けていると、売ってもいい物が次から次へと出てくるそうだ。

終活や生前整理でメルカリを使う人は、この1年で2.5倍に増えたと言う。

東京・足立区の主婦、永野一美さん(42)のメルカリ歴は5年近くになる。服や本などはほとんどメルカリで安く買っており、総数は100点以上になると言う。炊飯ジャーは1100円で手に入れた。

この日、永野さんが出品したのは履かなくなったブーツと本。まずは商品を撮影。ブーツは箱をとっておくと高く売れやすいという。裏側のすり減り具合も撮って、アプリの画面から靴のサイズやブランドを選ぶ。「数年前にオーストラリアで買ってきてもらったアグのニットブーツ。衣替えのため出品します」と、商品説明は自分で書き込む。「『引っ越しのため』『サイズが小さくなって』などと理由を書くと、共感されやすいようです」と、永野さん。

1万7000円で買ったブーツ。情報を入れ終わると、「2500円~4300円」と売れやすい価格を教えてくれる。価格を決めて「出品する」というボタンを押せば、作業完了だ。本はさらに手間がかからない。バーコードを読み込ませれば、自動的に商品情報が入力される。

翌日、1200円で出品した本が1日で売れていた。購入者からメルカリに1200円が入金されると10%は手数料としてメルカリへ。さらに送料として、今回は175円を差し引いた905円が永野さんの元に入るという仕組みだ。

次は商品の発送。コンビニで店内の端末にQRコードをかざし、発送伝票を発行してもらう。そこでは購入者や永野さんの情報は隠されている。匿名でやりとりできるのも人気の理由だ。ものの5分で発送は完了した。

メルカリの月間利用者数は現在、1450万人にまで増えた。そんな状況に、出品のやり方を学べるメルカリ教室が、全国各地で自治体などによって開催されている。

メルカリにはさまざまなものが売られていて、値付けの上限は999万9999円。高級スポーツカーのポルシェはほぼ最高価格で売られていた。その一方で、トイレットペーパーの芯30本400円なども。子供の工作などで需要があるという。タマネギの皮は300円。煮出せば染物の染料になる。メルカリで取引されたのは5億件、総取引金額は1兆円を突破した。

東京・六本木のメルカリ本社。「メルカリ」とはラテン語で「商い」という意味だ。

創業は2013年、シェアオフィスからのスタートだった。当時35歳だった創業者の山田進太郎(42)は、「順風満帆ではまったくなくて、奇跡のような軌跡をたどっていると思います」と言う。

目指すのは世界中で使われるインターネットサービス。社内には外国人社員も多い。

「世界の多くの地域で使ってもらおうと思ったら、日本人だけの感覚では無理。意見を戦わせながら作っていくことが必須だと思います」(山田)

世界を目指す山田だが、中学・高校時代の成績はクラスで下から数番目。部活はハンドボール部で補欠。そんな男が作った会社が、創業わずか5年で東証マザーズに上場。去年にはJリーグで最多優勝回数を誇る鹿島アントラーズを買収してみせた。

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手作り品が大ヒット~違法出品を防ぐ現場にも潜入

山梨・笛吹市に住む、日曜大工が趣味の五味春生さん(71)がメルカリで売ったのは、手作りの譜面台。市販品より高さを低くしてあるのが特徴だ。

五味さんはアマチュアオーケストラの楽団員でもある。譜面台を持ち歩くのだが、市販品は鞄に入らなかった。しかし手作りのは底にピッタリと収まる。最初は自分のために作ったのだが、練習場に持っていくと「周りの人が『これ、軽くていいね。僕にもちょうだい』となって、どんどん広まっていった」(五味さん)と言う。

そこでメルカリに出してみたら反響があった。2400円で購入した譜面台を加工して4400円で出品しているが、17台も売れた。買い手からは「ありがとうございました。譜面台のコンパクトさに感動です」の言葉が届いた。

「僕の物にお金を出して買ってくれる人がいるのはうれしいし、ひとつの張り合いになっているのは間違いないです」(五味さん)

メルカリには過去に、現金出品事件のような問題もあった。5万円の現金が5万9500円で出品された。実は、借金の返済に困っている人がクレジットカードで買うことを狙ったとされる。違法融資ということで逮捕者まで出た。メルカリが現金の出品を禁止すると、今度は紙幣を魚の形に折ってオブジェとして出品するなど、いたちごっこに。一連の事態から、メルカリが犯罪の温床になっていると批判の声が上がった。

「社会的な見られ方というものを過小評価していました。監視体制を作るとか、セキュリティーを整えることが遅れていた」(山田)

そこで強化したのが監視体制。メルカリ仙台オフィスのその現場では、大勢のスタッフがパソコンの画面を見つめ、パトロールに当たっていた。ルールで出品を禁止した、偽ブランド品や医薬品・医療機器、アダルトグッズなどをチェックしているのだ。

「実際に人の目で検知して、問題があれば出品を削除していくという対応を行っています」(CSグループ仙台オフィス・三浦理)

例えば、コンタクトレンズは医療機器なので出品できない。これを出品しようとすると、AIが判断し、警告文が表れる。スタッフは、AIの監視をすり抜けた物がないか、人の目で見ているのだ。

この日は血糖値を測るのに使う医療機器を発見。出品を削除し、出品者には利用制限をかけた。二度と悪用されることのないよう、人手とコストを投入している。

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後発から業界トップへ~人材のブラックホール

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山田のネットサービスの原点は大学時代。独学でプログラミングを学び、映画の情報共有サイトを立ち上げた。大学卒業後にはネットサービスの会社を起こし、およそ10年間、さまざまなサービスを作った。

だが、その会社は売却。34歳の時に、いったんネットサービスの世界と距離を置いた。 「思っていたことができなくなったので、自分で、世界で使われるサービスを作ろうと思って辞めました」(山田)

その後、山田は世界一周の旅へ。新興国の人々の暮らしを目の当たりにし、「世界には物が足りていない」と実感する。2012年に帰国すると、スマートフォンが爆発的に普及していた。

「個人間の取引がスマートフォンでできるようになれば、世界中の人がもっと資源を大切に、節約しながら使うことによって、もっと豊かな生活を送れるようになるんじゃないかと思いました」(山田)

そして2013年7月、メルカリのサービスを開始。しかし当初、利用者は一向に増えなかった。先行するライバルが6社もあり、メルカリは遅れを取っていたのだ。

当時から働く苅田直也は、「毎週末、都内のフリーマーケットに僕らも参加して、出店者に『使ってもらえませんか』と声をかけた。怪しまれていたと思います」と、振り返る。

そんな苦境に救世主が現れる。現在は会長を務める小泉文明だ。大和証券では数々のIT企業を上場させ、その後はミクシィでは最高財務責任者を務めた。その小泉を山田は仲間に引っ張り込んだのだ。

「事業モデルを見れば、おそらく1社しか勝たないだろうと。一番強いところに人や物が集まってくるので、2位も5位も10位も立ちいかなくなって、1位以外はあまり意味がないだろうな、と」(小泉)

小泉はまずベンチャーキャピタルから14億5000万円もの資金を調達。そのお金でテレビCMを作り、要らない物が簡単に売れることをアピールする。これで人気に火がつき、利用者が急増した。

さらに山田は名村卓を仲間に引き入れる。サイバーエージェントでアベマTVの技術面を任されるなど、藤田晋社長から「国宝級のエンジニア」と言われた男だ。メルカリでは世界中から集めたエンジニアを統括する最高技術責任者を務めている。

「これでもしメルカリがグローバルで成功したら、『僕はグローバルでできる会社のサービスに携わった』ときちんと言えるというのはあります」(名村)

会社が軌道に乗ると、人材は向こうから押し寄せてくるように。こうして業界では「人材のブラックホール」と呼ばれるようになったのだ。

創業7年でメルカリは社員1800人の大所帯に成長した。山田の大学時代からの盟友、広報責任者の矢嶋聡は「地味で、特にカリスマ性があるわけでもないけど、彼は自分ができることとできないことが分かっている。弱い部分に関しては自分より優秀な人間を置いている。周りには常にいろいろな人がいて、目立たないけどその中心に彼がいる」と言う。

メルカリを創業時から取材する日本経済新聞シリコンバレー支局の奥平和行支局長も、山田をチームリーダーとしてこう評価する。

「普通、スタートアップ企業は創業者が前面に出ることが多いと思いますが、山田さんはそこまで押しが強くない。むしろチームで経営しようというスタイルが強くて、チームで引っ張ってひとりひとりの強みを引き出すのが特徴だと思います」

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アメリカから世界へ~日本発メルカリの野望

シリコンバレーの一角にあるメルカリのアメリカ進出の拠点。山田がアメリカのトップに引き込んだのは、元フェイスブックの副社長で、マーク・ザッカーバーグの右腕だったジョン・ラーゲリンだ。

「『メルカリになんで行くの?』と言われたけど、僕は行くべき道だと今も感じています。ザッカーバーグとシン(山田)が似ているところは、判断力とスピード感。アメリカ向けにこれを作れば、かなりいくのではないかと確信して、わくわくして入社しました」

山田にはラーゲリンの手腕が必要だった。メルカリがアメリカでサービスを開始したのは2014年。6年が経つが、まだ知名度は低い。月間利用者は日本の6分の1にとどまり、アメリカ事業は赤字続きだ。

ラーゲリンはスウェーデン出身で、東京大学大学院に留学し、NTTドコモに就職。ドコモショップで働いていたこともある。日米両方を知るラーゲリンは、アメリカ事業の成功の鍵を「アメリカは面倒くさがり屋の人が多いから、あまりハードルが高いと、物を出品して郵送するまで至らない」と語る。

そこでラーゲリンは物流大手のUPSと提携。売りたい物をUPSの店頭に持って行けば、スタッフが梱包を代行してくれるサービスを始め、利用者を増やすことに成功した。 さらに強い組織に変えるべく、人材を重視。

「僕の採用コンセプトは、新しいサービスを作りたい、新しいことをやりたい、だけど経験はあるという人をできるだけ採りたかった」(ラーゲリン)

フェイスブック時代の人脈を駆使し、GAFAを中心としたシリコンバレーの巨大IT企業から人材を集めている。

「僕はこれからの半年、1年が勝負かなと思っています」(ラーゲリン)

メルカリを財布に~新サービス「メルペイ」の戦略

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メルカリが始めたスマホ決済サービスの「メルペイ」。最大の特徴は、メルカリの売上金をそのまま買い物に使える点にある。

今まで売上金は、メルカリで他の物を買うか、銀行口座に振り込むしかなかった。しかしメルペイなら、街で買い物に使えるのだ。

そのメルペイが今、攻勢をかけている街が大阪。実は関西圏の人たちは、メルカリでお金を稼いでいることが分かっている。メルペイで使えるお金もたくさん持っているはずだ。ただし大阪は「現金主義の街」とも言われている。

大阪を中心に45店舗を展開、激安で知られる「スーパー玉出」は昨年12月、メルペイを導入。宣伝役には賑やかなご当地アイドル「オバチャーン」を起用した。

レジで使っていたメルカリユーザーの主婦は、「いらない物を売って日用品が買えるので、助かっています」と言う。

大阪でも広がり始めたメルペイ。利用者の総数は、サービス開始8カ月で500万人を突破した。

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~村上龍の編集後記~

「去年、株価が底値をつけ時価総額も半分になった、なぜだと思いますか」。山田さんはそんな質問にも誠意ある態度で応じてくれた。ただ、メルカリはつかみどころがなく、途中から、これまで登場したことがない会社・経営者と相対しているのだと気づいた。

トップダウンでもボトムアップでもない。ほぼ全社員がフラットな関係。「誰の影響も受けてない、目指す人もいない、良いところは学ぶし、つなげて行きたいが、そうじゃないものは無視」。新世代だと思う。メルカリでは、会員も単なる客ではなく同志なのかも知れない。

<出演者略歴>
山田進太郎(やまだ・しんたろう)1977年、愛知県生まれ。2000年、早稲田大学卒業。2001年、ウノウ設立。2011年、米ジンガに売却。2013年、メルカリ設立。

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